§225.02 一時所得と雑所得の区別
1.先行判例
この判決も本件判決も、営利を目的とする継続的行為から生じた所得が、雑所得に当たるという点で同じである。他方、この判決は、「営利を目的とする継続的行為」を、諸事情を考慮して認定しているのに対して、本件判決は、「継続的行為」とその行為が「客観的にみて営利を目的とする」ことを分けて認定している点が異なる。
2.事案の検討
1点目は、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得のいずれにも該当しないことである。2点目は、営利を目的とする継続的行為から生じた所得ではないことである。3点目は、一時の所得であり、労務その他の役務または資産の譲渡の対価としての性質を有しないことである。本件判決は、これらのうち、2点目の要件に関する判断を示している。
「営利を目的とする継続的行為から生じた所得であるか否か」の判断基準として、本件判決は、「行為の期間、回数、頻度その他の態様、利益発生の規模、期間その他の状況等の事情を総合考慮して判断する」という基準を示した。その理由は、所得税法34条1項の文理であるとされる。
そして、「一般的な判断枠組みのうち、『行為の期間、回数、頻度その他の態様』は、継続的行為に係る考慮要素であり、『利益発生の規模、期間その他の状況等』は、営利目的に係る考慮要素であるという、表見的には分析的な理解が示された」(田中啓之「判批」民商法雑誌154巻5号210頁)と指摘されている。
継続的行為である「一連の行為」と認定するにあたり、「Xは、予想の確度と予想が的中した際の配当率の大小の組合せにより定めた購入パターンに従って馬券を購入すること」としたこと、「偶然性の影響を減殺するために、年間を通じてほぼ全てのレースで馬券を購入することを目標とし」たこと、「年間を通じての収支で利益が得られるように工夫しながら、6年間にわたり……1年当たり合計3億円から21億円程度となる多数の馬券を購入し続けた」こと、を摘示した。
営利目的であることを認定するにあたり、「上記6年間のいずれの年についても年間を通じての収支で利益を得ていた」こと、「その金額も、少ない年で約1800万円、多い年では約2億円に及んでいた」こと、「上記のような馬券購入の態様」、「このような利益発生の規模、期間その他の状況等」、を摘示した上で、「回収率が総体として100%を超えるような馬券を選別して購入し続けてきた」とし、それ故、「客観的にみて」営利を目的とするものであったと判断した。
調査官解説によると、「客観的にみて営利を目的」とすることとは、客観的にみて利益が上がると期待し得る行為であれば足り、確実に利益が上がることまでは求められていない。この点、「本判決は、『回収率が総体として100%を超えるように馬券を選別して購入し続けてきたといえる』と指摘しており、そのため、客観的な利益の存在は、少なくとも営利目的を推認させる間接事実として重視されていることも明らかである。」(田中啓之「判批」民商法雑誌154巻5号212頁)と指摘されている。この手法は、「事後的(ex post)判断により、客観的な利益の存在と営利目的を事実上同視する立場ではないにせよ」(前掲・田中212頁)と指摘されており、事後的判断により、客観的にみて営利目的かを確認するという手法ではない。そして、事前的(ex ante)判断により、営利性が認められることを否定していないとも指摘されている(前掲・田中213頁)。
先行判例は、「個々の馬券の的中に着目しない網羅的な購入をして」いたと認定している。このような文脈で、Xが馬券を購入したという事実は本件判決では認定されていない。この点について、「それは、いわゆる『流し買い』『多点数買い』など一般的な『馬券購入の態様』についても同様であるという、おそらく正当な批判を踏まえたものであろう。」(前掲・田中211頁)と指摘されている。
本件判決は、「偶然性の影響を減殺するために、年間を通じてほぼ全てのレースで馬券を購入することを目標とし」たこと、「年間を通じての収支で利益が得られるように工夫しながら、6年間にわたり……1年当たり合計3億円から21億円程度となる多数の馬券を購入し続けた」ことを認定し、「Xの上記の一連の行為は、継続的行為であるといえる」とした。
これらは継続的行為の一環として検討されているところ、収支で利益が得られるように工夫しているという点は、営利目的に関する記述であり、継続的行為と営利目的を分けて検討する姿勢は貫徹されていない(前掲・田中212頁)。
また、上述の事実を指摘し、そのような行為の態様が、「一連の行為」として継続的行為に該当すると認定している。この点について、「『一連の行為』という概念それ自体は、あくまで、継続的行為に該当しうる具体的な行為を指す事実的な概念であり、『一連の行為』該当性それ自体について検討する法的な意義は乏しいと思われる」(前掲・田中212頁)と指摘されている。
納税者Aの事例は、本件判決の指摘する、利益発生の規模から、客観的にみて営利目的を有すると認められ、雑所得に分類されやすいと考える。納税者Bの事例は、利益発生の規模だけに着目すると、初年度は、客観的にみた営利目的が認められず、翌年度は、それが認められ、初年度は一時所得、翌年度は雑所得と分類されそうである。しかし、年度や収支によって所得区分が変わるのはおかしいし、本件判決は、そのようなことを企図したものとは思われない。このため、納税者Bの事例については、事前的判断として、その行為の態様から利益を期待できるのであれば(たとえば、購入パターンを試行し、その結果、利益を期待できることを論証できるのであれば)、初年度についても、客観的な営利目的を認定し、雑所得に分類されることもあるのではないかと思われる。
3.類似の事案
(略)
4.関連裁判例
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5.相互参照
(略)