§241.02 純損失の繰越控除・繰戻還付
1.純損失の繰越控除
純損失は、損益通算を行なってもなお残る損失のことと定義されている。
所得税法70条1項によると、純損失の金額の発生した年に、青色申告している必要がある。これは、控除される損失について、「いわば出自のはっきりした『由緒正しい損失』であること」を要求し、「正確な帳簿組織で正確性を保障された青色申告」がされたことを手続的要件とした。
また、同条4項によると「純損失の発生した年以降、連続して確定申告書を提出していることも必要」とされる。「これは、繰越控除を二重控除や控除漏れがないように、正確に行うために必要な要件」とされる。(以上、佐藤〔第4版〕342頁)
①について
手続的要件の差異は、所得税法70条1項が青色申告を要件としているのに対して、同条2項2号、3項は、青色申告を要件としていないことをあげることができる。なお、同条2項2号、3項は、被災事業用資産の損失の繰越控除を定めている。なお、被災事業用資産とは、災害によって損失を発生した棚卸資産、事業の用に供される資産などのことを意味する。
②について
所得税法70条2項2号、3項の目的は、①災害による損失については、正確な帳簿組織で正確性を保証した損失に限定する必要性が乏しいことから青色申告の手続的要件をなくしたこと、および、②事業用ではない資産については雑損控除が認められ、かつ、3年間の繰越控除が認められていることとのバランスをはかったことにあると考えられる。(佐藤〔第4版〕344頁)。
2.純損失の繰戻還付
純損失の繰戻還付は、「純資産増加説の当然の帰結ではなくして、期間計算主義から来る徴税の不合理と税負担の不公平をなくすための期間計算主義に対する例外的措置であって、その旨の特別の規定があってはじめて可能となるものである」とし、その所得税法条の位置づけを恩恵的なものとうけとれるような説明をしている。
(あ)純損失の生じた年(所得税法140条1項)と、(い)その前年(繰戻される年、同条4項)のいずれについても青色申告を行なっていることが手続的要件となっている。そして、繰戻控除について青色申告が求められている理由が、「由緒正しい損失」であることに求めていると考えると、繰戻還付の対象となる純損失が発生した(あ)の年について青色申告を求めることは、同様に説明できる。しかし、(い)の年について青色申告を求めることは、「この制度が青色申告の特典の1つとして位置づけられているからだ、と説明するしかないように思われます。」と指摘されている(佐藤〔第4版〕343頁)。
3.期間計算主義を修正する意義と限界
純損失の繰越控除と繰戻還付は、期間計算主義を修正する意義を有すると考える。なお、期間の区切り方によって損益の発生状況が異なるケースをあげたうえで、「一定の期間を区切って所得額を計算する『期間計算主義』に対して、この計算期間のカベを破って損失の計算を行なうという例外を設ける試みがなされることになります。現行法上、そのような制度として、純損失の繰越控除と純損失の繰戻還付の2つの制度が設けられています。」(佐藤〔第4版〕341頁)と説明されている。
最大5年間にわたって他の所得から控除しうる。(佐藤〔第4版〕345頁)
純損失の繰越し、繰戻しを手続的要件にしたがって実施したものの、発生した純損失が残ってしまった場合は、結果的に救済されない。日野炭鉱飛躍上告事件では、期間計算主義の修正は、純資産増加説から当然に導かれるものではなく、ある種、恩恵的な制度であると考えられていることを踏まえると、救済されない状態を放置することは、立法裁量の範囲に属する問題であり、財産権侵害などの憲法上の問題を惹き起こすものではないと思われる。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?