1.問題
2.出題趣旨
3.採点実感等
4.解答例
1.旅費、日当及び宿泊料(「旅費等」)について
(1)非課税所得への該当性
この点、旅費等は、所得(所得税法7条)に該当しないとの考え方もありえる。しかし、旅費等は、支出額にかかわらず支給されており、純資産増加があるものと認められる。このため、非課税所得として同法9条1項に列挙されたいずれかの事由に該当しないかぎり、所得と考える(中高年齢者雇用開発給付金事件判決)。
この点、旅費については通勤手当(同項5号)に該当すると考えることもできそうである。しかし、同号は、給与所得者が、勤務先に通勤することを念頭においた規定であり、AがS地方裁判所に裁判員候補者あるいは裁判員として出頭したことを通勤と捉えることは難しいと考える。したがって、旅費は、同号に該当しない。
また、旅費等について、それが、裁判員法上、過料の制裁の下で強制された支出であることから、給与所得者に係る旅費(同項4号)あるいは給与所得者が使用者から受ける金銭以外の物(同項6号)を類推することも考えられなくもないが、文理から離れており、困難であると考える。
したがって、旅費等は、非課税所得に該当しないと考える。
(2)所得分類
そこで、旅費等が、いずれの所得区分に分類されるべきかが問題となる。
まず、旅費等は、給与所得(同法28条1項)に該当しないかを検討する。この点、何が給与所得に該当するかは、法文上、必ずしも明らかにされていない。裁判例の基準を踏まえると、給与所得は、非独立性と従属性を有する労働への対価とされる。
この点、裁判員候補者と裁判員は期日に出頭する義務を負い、裁判員は審理に立ち会う職務を担うが、その期日の設定、裁判員の職務は、裁判官などの指示に従うため、従属性を有する。また、裁判員は、特別な知識等を要件としておらず、その責任(危険)と計算において職務を遂行するものではなく、独立していない。
しかし、前述のとおり、旅費等は、裁判員候補者あるいは補充裁判員にも支給され、職務の対価という性質は希薄である。このため、そもそも労務の対価とは認められず、給与所得にあたらないと考える。
これに対して、旅費等は、一時所得(同法34条1項)には該当すると考える。なぜなら、旅費等は、「営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外」であり、かつ、審理に参加する裁判員に限らず、審理に参加しない裁判員候補者あるいは補充裁判員にも支給される(裁判員法11条1項、29条2項)ため、「一時の所得で労務その他の役務……の対価としての性質を有しないもの」(所得税法34条1項)にあたるからである。
2.ホテル代について
ホテル代は、旅費等の支給を得るために支出している。そして、自宅とS地方裁判所の間を連日往復する体調面での不安、平成25年1月22日から24日まで期日が連続し、審理への立ち会いが求められており、同居する老親の同意を得られたことから、S地方裁判所付近のビジネスホテルに3泊し、支出したホテル代である。このため、ホテル代は旅費等に関し、「その収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額」(同法34条2項)にあたると考える。したがって、ホテル代は、旅費等の収入金額から控除される。
5.ケースブック租税法〔第6版〕との関係
出題趣旨と採点実感が、解答例を想定して記載されていたので、それに沿って、解答例を作成してみた。いずれもケースブック租税法で勉強した知識を応用することで対処できたと思われる。旅費等が、労務の対価ではないということから給与所得ではなく、一時所得であるという結論を導いた。これは、出題趣旨と採点実感で指摘されている点に従ったものである。
なお、所得分類の検討順序については、平成28年の採点実感において、「この場合、最初に検討すべきは譲渡所得や給与所得であり、これらに該当しないとした場合に一時所得該当性を検討し、その結果一時所得に該当しなければ雑所得になるという検討順序になるべきであるが、この検討順序をきちんと意識できていない答案が少なからず見受けられた。」との記述がある。この教えにしたがって順番に検討を加えた。