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【過去問】 不動産所得と取得費・必要経費


1.問題

 A(居住者)は、平成10年に甲土地を代金3000万円で購入し、これを20台の自動車が収容可能な平面駐車場として賃貸していた。Aは平成12年に死亡し、その遺産をB(居住者)ら3人の子が相続した。Bらは限定承認をしなかった。Aの死亡時における甲土地の時価は3300万円であった。
 Bら3人の相続人は、相続後直ちに遺産分割協議を行い、甲土地については、Bがほかの共同相続人に対して代償としての金銭(以下「本件代償金」という。)合計1500万円を支払って、これを単独取得すること(いわゆる代償分割)で合意した。Bは、金融機関から2000万円を借り入れ、そこから本件代償金を支払い、甲土地の相続登記を済ませた。登録免許税等この相続登記に要した費用は20万円であった。Bは、上記借入金を平成17年に完済したが、そのときまでに支払った利子の合計額のうち本件代償金の額に対応する金額は130万円に上った。
 Bは、甲土地を取得した後は、Aの駐車場経営を引き継がないこととし、甲土地の上に住宅を建て、自己の居住の用に供した。
 Bは、平成19年に、甲土地をその上の住宅とともに売却し引き渡した。甲土地の売却価格は5000万円であった。Bは、平成19年分の所得税に係る確定申告において、譲渡所得の金額の計算上、甲土地に係る取得費の額に、①Aが支払った購入代金3000万円、②Bが支払った本件代償金1500万円、③Bが支払った相続登記費用20万円及び④Bが支払った借入金利子のうち本件代償金の額に対応する金額130万円の合計4650万円の各支払金の額を算入した。
 以上の事案について、租税特別措置法の適用はないものとした上で、以下の設問に答えなさい。
〔設問〕
2.前記の事案においてBがAの駐車場経営を引き継ぎ、甲土地をそのまま駐車場として賃貸し続けていたとした場合、前記③の相続登記費用の取扱いがどうなるかについて、所得税法の条文の根拠を摘示して論じなさい。

(司法試験平成20年第1問設問2)

2.出題趣旨

 設問2は、駐車場経営から生ずる所得に関する所得分類を踏まえた上で、駐車場用地の取得に伴い支払った登録免許税等の相続登記費用について、これを上記の取得費として取り扱うべきか又は所得税法第37条第1項に規定する必要経費として取り扱うべきかを問うものである。

3.採点実感等

 (設問2に関する言及はなかった。)

4.解答例

設問2について
1.まず、Bによる駐車場経営の所得は、不動産所得(所得税法26条1項)と事業所得(同法27条1項)のいずれに分類すべきか問題となる。なぜなら、駐車場経営は平面駐車場の不動産の賃貸であり、不動産所得にあたり得ると同時に、事業的規模で行えば、事業所得にもあたり得るからである。
 この点は、不動産の貸付けが、社会通念上事業と称するに至る程度の規模で行われているか否かで、不動産所得と事業所得を区別すべきである。
 本件では、20台分の自動車を収容可能な駐車場の賃貸を行なっているが、社会通念上事業と称するに至る程度の規模であると考える。このため、Bの駐車場経営は、不動産所得ではなく事業所得に分類すべきである。
2.それでは、③の相続登記費用は、取得費(同法38条1項)に含めて甲土地の譲渡時に譲渡所得から控除すべきか、必要経費(同法37条1項)として事業所得から控除すべきであろうか。なお、相続登記費用は、甲土地の承継のために必要であり、甲土地は駐車場経営による事業所得を生み出すために不可欠である。このため、駐車場経営による事業所得を得るために「直接に要した費用」にあたると考える(同項前段)。
 この点、Bが駐車場経営を引き継ぐ場合とそうではない場合とで、取り扱いを異にすべきではないから、取得費に含めるべきであると考えることもできる。しかし、必要経費の控除が認められる趣旨は、課税対象を限定し、投下資本の回収部分に課税が及ぶことを避けることにある。このため、必要経費にあたるのであれば、事業所得から控除を認めるべきである。
 したがって、相続登記費用は、Bの駐車場経営に係る事業所得から必要経費として控除される。

5.ケースブック租税法〔第5版〕との関係

 「§222.05 譲渡所得の計算方法」の「5.減価償却資産の取得費」(ケースブック租税法〔第5版〕260頁)と同様の問題意識のように思えた。償却資産であれば、減価償却し、取得費を低減しつつ、必要経費として控除するという手法で辻褄があっている。しかし、出題されているのは、土地という非償却資産である。個別の支出について、取得費に含めて譲渡時に譲渡所得から控除するのか、あるいは、事業所得から必要経費として控除するのか、選択しなければならない。この点を直接論じた文献をみつけられておらず、かつ、採点実感でも、どのように解答するのがよいのか説明されていない。このため、自分なりに説明を加えてみた。納税者の視点からは、いつ発生するか分からない譲渡所得からの控除ではなく、発生が確実に見込まれる事業所得からの控除を希望するのではなかろうか。
 なお、不動産所得と事業所得の区分については、タックスアンサーの回答を参考にした。最初は、事業所得の弁護士夫婦事件判決に触れようかまよった。しかし、触れたところで、タックスアンサーの規範と論理的な関係はなさそうなので、事業的規模の話でおさめてみた。なお、5棟10室の話は、具体的すぎるうえ、駐車場経営とは関係ないので、触れていない。

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