§311.01 法人税の性質
1.シャウプ勧告
2.引用文の検討
シャウプ勧告は、「このような差別待遇は、実際生産に最も能率的な形態または組織から離れさせ、税負担のより軽い形態または組織の方向へと向わせる動きを惹き起こすことによって経済活動の能率を害する傾向があるのである」と指摘している。これは、個人企業形態と法人企業形態は、それぞれの良さがあり、いずれを採用するのかは、実際の経済活動にも影響を及ぼす事項であるから、租税としては中立的な立場を採るべきと考えているものと思われる。
法人がその稼得利益を全部内部留保すると、個人株主段階の所得税は、個人株主が、その法人の株式を譲渡したときに課税されることになる。なぜなら、簿価でみたとき、内部留保分だけ、貸借対照表上の純資産の部が膨らんでおり、株式の価値は増加しているといえるからである。なお、内部留保分を、現預金等の流動資産で保有しているときは、尚更である。
引用文は、「結局、もし法人に対して課税されず、利益が配当されるときにのみ個人たる株主が課税されるとするならば、個人企業に比して法人企業が有利となるように差別待遇されることになる。」と指摘している。すなわち、前述の個人企業形態と法人企業形態の差別待遇をなくすという問題意識から、法人段階での課税が必要となることを主張する文脈で、配当と譲渡所得の比較を行っていると思われる。つまり、法人段階で課税しないのだとすると、個人株主段階だけで課税することになるが、配当に課税しただけでは、内部留保することで譲渡まで課税を繰り延べることができ、かつ、譲渡所得が軽課されると法人の利益に対して十分な課税がされない結果となってしまうことを主張しているのではないかと思われる。結局、個人企業形態よりも法人企業形態を採用するインセンティブを付与してしまう税制となると主張しているのだと思う。
引用文の「事業を遂行するために作られた個人の集合である」という箇所は、それ以降の説明の前提となっているように思われる。
たとえば、引用文は、「すべての法人がその利益全体を直接配当の形で分配し、納税者が受取った配当を完全に申告するならば、問題はないであろう。かりに法人の利益が関係株主の所で課税されるとする限り、法人に対しては、いかなる課税も行う理由はないであろう。」と述べている。この点について検討してみるが、法人株主に個人株主が存在する場合を念頭に置いて考えると、毎事業年度、利益が全部配当され、法人株主でも同様に全部配当され、最終的に、その事業年度の利益は個人株主に配当されることになるので、法人株主が存在したとしても、この部分への影響はないのではないかと思われる。
なお、引用文のその他の箇所については、法人株主が存在することで、法人株主段階での配当・譲渡の問題が生じるものの、引用文は、法人に課税しないときの問題を検討しているので、法人株主に個人株主がいれば、議論の方向性に影響はないのではないかと思われる。法人税に入ったばかりなので、自信はないが、とりあえずの回答とする。
3.転嫁と帰着
引用文は、短期的には消費者に対する転嫁の可能性は低下していると述べる。ただ、中長期的には、法人税の負担は、法人・株主のみならず、労働者や消費者などにも帰着することになると述べる。