見出し画像

§212.03 憲法・民法の規定と二分二乗制度


1.二分二乗方式の理解

⑴ 「二分二乗方式」の内容を整理せよ。

(ケースブック租税法〔第6版〕142頁)

 二分二乗方式とは、夫婦の所得をいったん合計し、その半分に累進税率表を適用し、得られた税額を2倍したものを夫婦の税額とする方法である。(佐藤〔第3版〕37頁参照)

⑵ 本件においてXが主張した所得税額の計算方法は、「二分二乗方式」を厳密に事案に当てはめたものといえるか。違うとすると、どこが異なるのか。

(ケースブック租税法〔第6版〕142頁)

 本件は、X名義の給与所得16万5600円と事業所得45万9200円について、Xについては、その半額にX名義の配当所得を加えて申告し、妻Wについては、その半額を申告したという事案である。これに対して、二分二乗方式であれば、配当所得も加えた金額を半分にして、XとWの所得として申告することになる。
 これは、Xが、ある所得がどのように得られたのかに着目しているのに対して、消費単位主義的制度の発想では、所得を共同で使うという点に着目するという違いから生じていると考えられる。(佐藤〔第3版〕40頁)

2.二分二乗制度の問題点

 税制調査会「わが国税制の現状と課題–––21世紀に向けた国民の参加と選択(平成12年7月)」は、二分二乗制度について、以下のように述べている。これらの指摘が具体的にどのようなことを意味するか考えてみよ。

(ケースブック租税法〔第6版〕142頁)

 「独身者世帯に比べて夫婦者世帯が有利になること」については、独身者世帯と夫婦者世帯が600万円を稼得しているとき、前者は、600万円のバンドの税率を適用されるのに対して、後者は300万円のバンドの税率を適用される結果、前者は77万2500円、後者は40万5000円となる。結果として、独身者世帯は、36万7500円だけ負担が多くなる。このため、累進税率表の適用の結果、夫婦者世帯の方が有利になると指摘されているものと考える。
 「共稼ぎ世帯に比べて片稼ぎ世帯が有利になること」については、片稼ぎ世帯については、内助の功というベネフィットを受けながらも、法律上、このような帰属所得に課税されないため、実際は、担税力があるところに課税されないのに対して、共稼ぎ世帯については、稼得された所得に漏れなく課税されているという違いがあり、この点において、片稼ぎ世帯が有利になると指摘されているものと考える。
 「高額所得者に税制上大きな利益を与える結果となること」については、高額所得者ほど、その所得を半額にすることで、累進税率表の適用バンドを下げることができ、その結果として、算出される税額も低下することができるため、このように指摘されているものと考える。

 なお、所得税法89条1項と国税庁のウェブサイトによると税額の計算表は以下のとおりである。
 195万円以下 5% 控除額0円
 195万円超330万円以下 10% 控除額97,500円
 330万円超695万円以下 20% 控除額427,500円
 695万円超900万円以下 23% 控除額636,000円
 900万円超1800万円以下 33% 控除額1,536,000円
 1800万円超4000万円以下 40% 控除額2,796,000円
 4000万円超 45% 控除額4,796,000円

3.資産合算制度

 原則として個人単位主義を採用しているわが国の所得税法において、課税単位を拡大する特例的な制度として、昭和63年改正以前の所得税法96条以下には資産合算の制度が認められていた。次の引用を読み、この制度の合理性を検討せよ(§212.02 N&Q 2.§234.02参照)。また、それが廃止された理由についても考察せよ。なお、佐藤英明「家族の所得」同編著『租税法演習ノート〔第2版〕』328頁(弘文堂・2008)参照。

(ケースブック租税法〔第6版〕142頁)

 引用文献を踏まえると、資産所得(利子所得、配当所得、不動産所得)が勤労所得(給与所得、退職所得)と比べて、所得の分散を図り、(累進税率表の適用の結果として)税負担の軽減を図ることが容易であることから、同一世帯に属する者の資産所得については一定範囲で合算して課税することが合理的であると考えられ、この制度が導入されたものと考えられる。
 ただ、この制度は、税額の計算が複雑であるという理由で廃止された。(金子〔第23版〕202頁参照)インターネットで情報を渉猟したところ、税額計算が複雑であるという理由以外に、生計を一にする親族が営む事業については、既に専従者給与の支給によって所得の分割が行われていること、恣意的な名義分割の場合についてのみ合算して課税するとしても、その判定が納税者にとっても税務当局にとっても極めて難しいこと、所得分布の平準化が進んでいることが、廃止理由として、説明されていた。
 廃止前の条文を調査することができなかったため、税額の計算が複雑であることの内実を理解することができなかったが、この点は、機会があれば調査したい。

4.所得と帰属との関係

(略)

5.相互参照

(略)

いいなと思ったら応援しよう!

たけ
😊