1.問題
2.出題趣旨
3.採点実感
4.解答例
設問2
1 本件のような取引的不法行為に係る損害賠償金が、所得税法施行令30条2号の「不法行為」に含まれるか問題となる。
この点、「不法行為」が「突発的な事故」によるものに限定されるという主張がある。
しかし、「不法行為」と「突発的な事故」は、「その他」の一般的な用語法に照らして、並列関係にあるため、不法行為は、突発的な事故によるものに限定されないと考える。
また、所得税法9条1項17号の趣旨は、不法行為等により損害が発生し、純資産が減少した後で、その補填として支払われる損害賠償金により、全体として純資産は増加しないため、損害賠償金を非課税とするものである。このことは、「突発的な事故」による「不法行為」に限定されない。
したがって、取引的不法行為に係る損害賠償金は前述の「不法行為」に含まれると考える。
2 この点、遅延損害金20万円は、補填の対象となる金額を運用できなかったことに対応する得べかりし利益であって、減少した純資産の補填としての性格を有しない。このため、上述の所得税法9条1項17号の趣旨を踏まえると「損害賠償金」(所得税法施行令30条2号)に該当しないと考える。
3 また、弁護士費用の着手金30万円と報酬40万円については、「必要経費」(所得税法施行令30条柱書かっこ書)に当たらないのかが問題となる。
必要経費に算入される金額が損害を補填するための金額に含まれると、その金額については非課税所得となり、かつ、必要経費としての控除が認められる結果、二重の控除を認めることとなってしまう。このかっこ書の趣旨は、これを防ぐことにある。
この点、Aは建築業を個人で営んでおり、その事業と商品先物取引に係る損害賠償訴訟は関連性を有しない。このため、損害賠償訴訟の弁護士費用(着手金と報酬)は、Aの事業所得との関連性を有さず、必要経費(所得税法37条1項)として事業所得から控除されない。したがって、弁護士費用を非課税としても二重の控除が生ずることはない。
4 以上より、Aが得た損害賠償金220万円のうち遅延損害金を除いた200万円は、所得税法9条1項19号、同法施行令30条2号により非課税となる。
以上
5.ケースブック租税法〔第5版〕との関係
出題趣旨で触れられている「代表的な教科書」が、具体的に、どの書籍のことを指しているのか明らかではない。しかし、ケースブック租税法〔第5版〕の195頁で、名古屋地判平成21年9月30日への言及がある。そして、「所得税法施行令30条2号の『不法行為その他突発的な事故』につき、この『不法行為』は『突発的な事故』によるものに限定されないとし、商品先物取引に関連して取引の委託を受けた会社から支払われた和解金が同号にいう損害賠償金に該当すると判断した」裁判例として紹介されている。判例百選〔第6版〕33事件への言及もあり、所得税法施行令30条2号の文言の解釈が争点となっていることがわかる。このため、ケースブック租税法の設問に直接対応した出題ではない。しかし、「§211.05 非課税となる損害賠償金等」の設問で問われていることを応用しながら解答することが求められているのではないかと思われる。このような理解のもと、解答例を作成してみた。
この出題からの学びは、ケースブック租税法の設問に対応するだけでは、本当は、足りていなくて、関連裁判例に挙げられている裁判例や文献にも目を通したほうが、理解が深まるということであろうか。
今回の解答例は、上述した判例百選の判旨と解説を参考にしながら作成した。必要経費の勉強をしていないので、修正が必要となるようにも思われるが、とりあえず、現在の理解をもとに、作成してみたところである。