1.問題
2.出題趣旨
3.採点実感等
4.解答例
設問1⑵前段について
1.本件和解金を何年の所得として取り扱うべきか。「その年において収入すべき金額」(所得税法36条1項)の意義が問題となる。
「その年において収入すべき金額」とは、現実の収入がなくても、その年に収入の原因たる権利が確定的に発生した金額のことと考える(権利確定主義・雑所得貸倒分不当利得返還請求事件判決)。
これは、常に現実収入のときまで課税できないとしたのでは、納税者の恣意を許し、課税の公平を維持できないので、徴税政策上の技術的見地から、収入すべき権利の確定したときをとらえて課税することとしたものである。また、同項は「収入した金額」と規定していないこととも整合する。
2.本件和解金の2000万円は、Aが発明した甲に係る特許を受ける権利の「相当の利益」(特許法35条4項)から本件各報奨金を除いた額として、AとB社の間で合意されたものである。
この点、AはB社に、甲に係る特許を受ける権利を、平成18年3月に譲渡しており、「相当の利益」の請求権、つまり、本件和解金の原因たる権利は発生していると認められる(同項)。ただ、この請求権の金額は2000万円と合意されておらず、同額にかかる権利が確定的に発生したとは考えられない。このため、平成18年分の所得とは認められない。
また、甲について特許権の設定登録のあった平成22年、あるいは、実績報奨金の支払いのあった平成24年においても、上述した状況に変化はなく、本件和解金2000万円の請求権が確定的に発生したとは認められず、平成22年、平成24年分の所得とは認められない。
そして、平成27年12月1日に、本件和解金の支払について、AとB社との間で合意された。これにより、AはB社に対して、「相当の利益」として2000万円を請求する権利が確定的に発生したと認められる。したがって、本件和解金は、平成27年分の所得とすべきである。
なお、本件和解金は、平成28年1月20日に支払われているが、前述のとおり、現実の収入時まで課税できないとすると、納税者の恣意を許し、課税の公平を維持できないため、平成28年分の所得することは適当ではないと考える。
設問1⑵後段について
本件和解金の所得区分は、どのように考えるべきであろうか。この点、本件和解金は、「相当の利益」から本件各報奨金を控除した残額を請求するAのB社に対する訴訟の和解において合意された。このため、本件各報奨金と同様、甲の発明というAのB社に対する労務の対価である。このため、本件各報奨金と同様、給与所得(同法28条1項)に区分すべきである。
5.ケースブック租税法〔第6版〕との関係
本問については、「§232.01 権利確定主義⑴ ––––– 基本的な考え方」(ケースブック租税法〔第6版〕293頁)の解答を参照した。裁判例の基準では、「対価の額」についての権利が確定的に発生したときに、収入金額と認識する。つまり、「対価の額」を抜きにした、権利だけが確定的に発生しただけでは、収入金額として認識するのは足りないと考える。このため、「相当の利益」の請求権は、特許を受ける権利を譲渡した時に発生するが、この時点では2501万円という「対価の額」が定まらず、確定していない。和解の合意があった時に、「対価の額」が定まり、確定したことになると考えた。なお、所得区分については、本件各報奨金と本件和解金を合わせて「相当の利益」であったことから、いずれも、甲を発明するという労務の対価であったと捉え、給与所得と区分してみた。