![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/141891854/rectangle_large_type_2_7aa3b4cb6a7c4872c496856793b59e43.png?width=1200)
§242.01 配偶者控除・扶養控除
1.関連裁判例
(略)本件判決と、この最高裁判決は、どのような点で考え方が共通しているか。
本件判決(事実婚「配偶者控除」訴訟判決)とこの最高裁判決は、所得税法上の「配偶者」あるいは「親族」の概念は、借用概念であり、民法上の「配偶者」あるいは「親族」にあたるのか否かで判断するという考え方において共通している。
2.制度趣旨の検討
⑴ 配偶者控除、扶養控除を受けるための要件を定めた規定を探し、その内容を確認せよ。
配偶者控除を受けるための要件は、納税者(総所得金額、退職所得金額と山林所得金額の合計が1000万円以下)と生計を一にする配偶者(総所得金額、退職所得金額と山林所得金額の合計が48万円以下)があることである(所得税法2条1項30号イ(2)、33号、33号の2、83条1項参照)。
扶養控除を受けるための要件は、納税者の配偶者以外の親族等(総所得金額、退職所得金額と山林所得金額の合計が48万円以下)のうち、その者が居住者であるときは16歳以上の者があることである(所得税法2条1項34号、34号の2、84条1項参照)。
⑵ 配偶者控除、および、扶養控除の制度趣旨をどのように理解すべきか。事実上の婚姻関係にある者を実際に扶養し、または、未認知の実子を実際に養育している場合は、制度趣旨からどのように考えることができるか。また、就労していない友人を「居候」として扶養している場合はどうか。
税負担をその負担能力に合致させようとすることが、配偶者控除と扶養控除の趣旨であるとする理解が可能である。この理解からは、事実上の婚姻関係にある者を実際に扶養し、未認知の実子を実際に養育しているときは、扶養等に関連して実際に支出しており、担税力が減少しているのであるから、配偶者控除と扶養控除の対象としても差し支えないと考えることができる。ただ、この理解を推し進めると就労していない友人の「居候」を実際に扶養しているときも、実際に支出が発生しているのであれば、担税力が減少しているのであるから、扶養控除の対象とすると考える向きもあり得るかもしれない。しかし、友人については、「配偶者」あるいは「親族」に含めることはできないであろう。このため、上述の理解からは、友人の事例については、扶養控除の対象とすることは難しいと考える。
なお、「配偶者控除制度は、それまで扶養親族として扶養控除が適用されていた配偶者について、所得稼得に対する貢献や、夫婦共働き世帯と片働き世帯との税負担のバランスを考慮して、基礎控除と同額の控除を設けて税制上配慮することが適当であるという趣旨のもと、配偶者に係る控除が独立し、創設された制度である。」と説明される。また、より端的に、「配偶者控除は、扶養を受ける配偶者について憲法25条の生存権を保障するということが、その趣旨である。すなわち、配偶者を扶養することによる担税力の減少を考慮することである。」(奥谷健・百選〔第5版〕92頁)と指摘されることもある。
(以上につき、加藤友佳・百選〔第7版〕98頁以下を参照した。)
3.他の法律の規定との関係
⑴ 本件判決およびN&Q 1.に挙げた判決において、民法上も規定が置かれている「配偶者」「親族」という用語は、租税法においてどのように解釈されたといえるか。また、そのような解釈にはどのようなメリットやデメリットがあると考えられるか。§142.01参照。
「配偶者」「親族」という用語は、租税法において、民法の用語と同じ意味に解釈されたといえる。このような解釈のメリットとしては、明確性をあげることができるのではないか。他方、デメリットとしては、租税法上の要請(具体的には、2⑵で検討したところによれば担税力の減少)が、用語の解釈にあたって考慮されにくいという問題があると考えられる。
⑵ 社会保障関係の法律においては、いわゆる内縁の場合でも法律上の配偶者と同様に扱う旨の規定が置かれていることがある。たとえば、国民年金法5条7項は「この法律において、『配偶者』、『夫』及び『妻』には、婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含むものとする。」と定めている。租税法において同様の扱いが解釈または立法によって採用されていないのは、どのような理由によるものと考えられるか。
民法上、婚姻の届出が成立要件であるという立場が通説となっている(同法739条1項)こと、国民年金法の問題文中の規定などが所得税法に存在しないことなどを考慮すると、解釈論として、「配偶者」に、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含むことは難しいということが理由なのではないかと思われる(なお、奥谷健・百選〔第5版〕92頁)。
また、立法によって採用されていない理由は、事実上婚姻関係と同様の事情にある者の範囲の画定をどのように行なうべきか、全国一律に適用できる明確な基準を創設することが難しいという実務上の理由があるのではないかと思われる。なお、一律かつ明確な基準が必要となるのは、配偶者控除は税額の減少を招くものであり、納税者において、不適切なかたちで配偶者控除を用いる誘因が存在するため、税務署において、一律に判断する基準が必要不可欠であるからである。
なお、この点については、上述した後に接した、吉田隆一「所得税法上の『配偶者』の範囲」(税務大学校論叢 第96号)273-275頁(「2 社会立法と租税法における対応の違いについての考え方」)が詳しい考察を加えられている。
⑶ 所得税法施行令275条2号が、ある株主といわゆる内縁関係にある者を、その株主の親族と同様に同族関係者に含めている(法令4条1項2号、相令31条1項1号も同様)のは、どのような理由によるものと考えられるか。
同族会社について、租税法上、特別な手当が施されている背景には、同族会社においては、「家族構成員を役員または従業員としてこれに報酬・給与を支払い、所得を分割する傾向があり、また利益を内部に留保して、法人税率よりも高い所得税の段階税率の適用を回避する傾向が見られる。また、これらの法人は、一般に、1人または少数の株主によって支配されており、所有と経営が結合しているため、少数の株主のお手盛による取引や経理が行われやすく、その結果として、税負担が減少することが少なくない。」(金子「租税法〔第23版〕」528頁)ことがある。
このような背景を踏まえ、同族会社の範囲を画定する株主等と特殊な関係にある者の範囲を考えるとき、意思を通じて行動を起こし易い関係性を広く捉えることが合理的である。このため、所得税法施行令275条3号では「当該株主等の使用人」を、同条4号では、「……当該株主等から受ける金銭その他の資産によって生計を維持している者」と広く捉えている。その一環として、同条2号は、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を、含めているのではないかと考える。
⑷ ①日本の居住者Aがアメリカの居住者Bとアメリカで結婚して日本に帰国した場合、AはBに関して配偶者控除を受けられるか。
居住者AとBの国籍が明確ではない(と思われる)。そこで、題意を踏まえ、場合分けをして考察を加える。
居住者AとBがいずれも日本国籍である場合は、渉外性を有さず、AとBとの間の婚姻の成立と方式については、民法が適用される。このため、AとBの婚姻届出が行われれば、AはBに関して配偶者控除を受けることができる。
日本の居住者Aが日本国籍で、アメリカの居住者Bがアメリカ国籍であったとする。この場合、AとBとの間の婚姻は渉外性を有するため、法の適用に関する通則法が適用される。同法24条1項によると、婚姻の成立は、各当事者の本国法による(配分的適用)。アメリカは地域的不統一法国であるから、同法38条3項により本国法が定まる。このため、AとBの本国法で各人について婚姻が有効に成立していることが求められる。そして、婚姻の方式については、婚姻挙行地法によることとされているため、本件では、アメリカの挙行地の州法が適用される。この州法に基づいて必要な手続を完了していれば、有効な婚姻となる。以上より、成立と方式の準拠法にしたがい、有効な婚姻があれば、配偶者となり、配偶者控除を受けることができるのではなかろうか。なお、調査した範囲では、日本国籍の居住者Aは、戸籍を変更しなければならない。
②一夫多妻婚や同性婚を認める外国法の下で「結婚」した者が日本の居住者となった場合、複数の「妻」や同性の「配偶者」について配偶者控除の適用があると考えるべきか。
配偶者控除の適用にあたって、「配偶者」の範囲を、私法上の範囲を基準に決めることとする。このとき、外国国籍の日本の居住者については、渉外的法律関係を規律する法の適用に関する通則法に従うことになると考える。
配偶者控除の適用の場面は、私法上の渉外的法律関係を規律する場面ではない。しかしながら、他に準拠すべき基準も見当たらない。このため、同法42条(公序)が適用される場面であると考える。この点、配偶者控除の適用を、一夫多妻制の配偶者について認めると、結果として、我が国における「公の秩序及び善良な風俗」に反することとなると思われる。刑法184条において重婚罪が定められているからである。したがって、同法の適用結果として、既婚者と婚姻している者については、外国法の適用は排斥される。結果として、その者は、「配偶者」にあたらず配偶者控除は認められない。
他方、同性婚については、日本人同士の同性婚について配偶者控除が認められていないようであるが、そのような状況の下で、外国法での同性婚を有効と認めて、配偶者控除を認めることは、平等原則(憲法14条1項)の観点から、日本人同士の同性婚を差別的に取り扱っていることになるのではないかと思われる。このため、同様に、外国法の適用を排斥し、配偶者控除は認められないと考える。この結論は、妥当ではないと感じられるものの、それは、同性婚について家族法上の手当てがされていないことに起因する。このため、パートナーシップ制度の創設など、私法上の対応が必要であり、配偶者控除の可否は、その規律に従って、決められるべきではなかろうか。(吉田・前傾277頁参照)
4.相互参照
(略)
いいなと思ったら応援しよう!
![たけ](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/163871655/profile_de23aa0a12e106845ed8f518bb573802.jpeg?width=600&crop=1:1,smart)