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§225.01 時効による取得と一時所得

1.事案の検討

⑴ 本件判決は、民法の規定に従った判断をしているといえるか。時効の遡及効を定める民法144条と時効の援用を定める民法145条とを検討した上で、本件判決はなぜ144条の適用を認めなかったのかを考えよ。

(ケースブック租税法〔第6版〕264頁)

 本件判決が判断しているのは、一時所得の年度帰属の問題である。本件判決も示しているが、これは所得税法36条1項にいう「収入すべき金額」であるところの「収入すべき権利の確定した金額」の解釈問題である。この点は、所得税法上の所得の帰属時期の大原則は権利確定主義であると解されている。このため、民法上、時効取得した資産の所有権が確定的に移転する時期が問題となる。本件判決は、実体法説の停止条件説を採用した最判昭和61年3月17日を引用し、実体法上の所有権移転の効果が確定的に生ずるのは、時効援用の時であることを理由に、所得税法36条1項が定める収入金額の認識時期について、時効援用時であるとの結論を導いた。このため、本件判決は、民法の規定に従った判断をしているといえる。
 そして、民法144条の適用を認めなかった理由は、民法上、占有開始時に所有権を確定的に取得したとは解釈されていないからだと思われる。なお、同条は、時効の利益を主張した者が不当利得返還義務を負うことを防ぐ点に主眼があり、確定的に所有権を取得した時期を特定する上では関連性は希薄であると思われる。

⑵ 本件判決に従うと、時効の援用が裁判外で行われ、当事者間の話し合いで紛争が決着した場合と、時効の援用が裁判上行われ、当事者が裁判で争った場合とで、取得時効による土地の取得時期は異なるか、同じか。また、その結論は妥当と考えるか。§232.03 N&Q1.⑴参照。

(ケースブック租税法〔第6版〕264頁)

 設問の後者の場合は、前者の場合と異なり、時効の援用をしたとはいえ、依然として、所有権の帰属は不確定であるが、一時所得としての取得時期は異ならない。本件判決は、更正の請求により減額更正を求めることができるとして不都合はないと説示する。しかし、所有権が移転しない可能性があるにもかかわらず、所得が発生したと考えることに違和感があることは否めない。このため、「時効取得につき紛争が生じている場合には、例外的に、紛争係属中の段階では「収入すべき権利が確定した」とはいえず、判決確定の時点をもって権利が確定し、その時点ではじめて時効取得による一時所得が発生すると考えるべきである」と指摘されている(水島淳・百選〈第7版〉32-33頁)。

⑶ 270万円の解決金は、所得税においてどのように扱われるべきか。Xは、更正の請求(平成23年度改正前の税通23条1項または2項)の手続きを通じて平成元年分の所得税の減額更正を求めることができるか、あるいは本件土地の取得価格に加算することができるか。

(ケースブック租税法〔第6版〕264頁)

 解決金が、その資産を時効取得するために直接要した金額(所得税法34条2項)であると認められるのであれば、所得金額が減少することとなり、更正の請求により減額更正すべきこととなる。また、解決金は、時効取得した資産の「取得に要した金額」(同法38条1項)であると考えれば、取得費に含めるべきこととなる。
 設問の条項を確認していないが、現行法の後発的理由による更正の請求については期限が設けられている。期限を徒過し、更正の請求ができなくなったとき、取得費に含めて、譲渡所得から控除する途を残すべきなのであろうか。むしろ、取得時効による収入金額は、一時所得として課税する以上、更正の請求による処理を徹底し、取得費に含めることを認めないという考え方が一貫するように思われる。
 なお、この点を正面から論じた文献をみつけることはできなかった。

2.関連裁判例

(略)

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