1.問題
2.出題趣旨
3.採点実感等
4.解答例
設問2⑴について
1.Cから回収されていない50万円は、Aの平成20年分の収入金額となるのか。「その年において収入すべき金額」(所得税法36条1項)の意義が問題となる。
2.「その年において収入すべき金額」とは、現実の収入がなくても、その年に収入の原因たる権利が確定的に発生した金額のことと考える(権利確定主義・雑所得貸倒分不当利得返還請求事件判決)。
これは、常に現実収入のときまで課税できないとしたのでは、納税者の恣意を許し、課税の公平を維持できないので、徴税政策上の技術的見地から、収入すべき権利の確定したときをとらえて課税することとしたものである。また、同項は「収入した金額」と規定していないこととも整合する。
AからCは50万円を現実に収入として受領できていない。そこで、AのCに対する50万円の金銭債権が確定的に発生しているのかが問題となる。この点、AのCに対する金銭債権は、Aとの賭博の賭け金に係る請求権である。Aは、Cとの賭博を含む行為に関し、常習賭博罪の有罪判決を受けている。このため、AのCに対する金銭債権は、公序良俗に反し、私法上無効であると考える(民法90条)。したがって、AのCに対する金銭債権は、確定的に発生していないと考える。
3.なお、このような権利であっても、金銭を取得し、自由に処分できる状態となったときには、その金額については「その年において収入すべき金額」と考える(管理支配基準・仙台賃料増額請求事件判決)。本件では、CはAから50万円を回収できていないので、同額は、管理支配基準に照らしても「収入すべき金額」にはあたらない。
4.したがって、Cから回収されていない50万円は、Aの平成20年分の収入金額とすべきではないと考える。
5.ケースブック租税法〔第6版〕との関係
本問については、「§232.01 権利確定主義⑴ ––––– 基本的な考え方」(ケースブック租税法〔第6版〕293頁)と「§232.03 管理支配基準」(ケースブック租税法〔第6版〕302頁)の解答を参照し、出題趣旨と採点実感で表明されている試験委員の方々のお考えを汲みながら、解答例を作成してみた。
出題趣旨では、管理支配基準について書くことが示唆されているが、現実に受け取っていない収入について、どのように書くのか、悩んだうえで、なんとなく記述してみたところである。なお、出題趣旨では、管理支配基準の裁判例として、利息制限法違反事件に言及しているが、ケースブック租税法で検討したのは、仙台賃料増額請求事件が取り上げられているため、こちらに言及した次第である。