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【過去問】 事業に付随する収入と貸倒損失の扱い
1.問題
個人Aは、食品卸売業を目的とする株式会社B(以下「B社」という。)の創業者であるCの子で、同社の使用人であった。平成23年にCが死亡し、遺産分割協議の結果、Aの姉のDがB社株式の大半を相続して経営を引き継ぎ、Aは少数の同社株式を相続した上で、同社の取締役に就任し、事業年度ごとに決められる毎月一定額の役員給与(以下「本件役員給与」という。)の支給を受けることとされた。しかし、Dが経営を独占したため、毎月開催される取締役会に形式的に出席するほかは、B社にはAの行うべき業務はなかった。そこでAは、B社勤務中の経験をいかし、B社の取締役に就任したまま、平成24年中に、冷凍食品の小売販売店を個人で開業することとした。
この開業以来Aの店で働いていたEは、Eにとって唯一の親族である高齢の父親F(妻(Eの母親)とは死別)と同居してその介護をしていたところ、平成26年中にFの症状が進んでEの手に負えなくなったことから、Fを介護付有料老人ホームに入所させたいと考えるようになったが、Eが適切と考える施設の入居一時金を支払うにはFの全財産である貯金を使っても300万円不足するため、特に貯金のないEは同年半ばに、Aに300万円の借金を申し込んだ。この申込みを受けたAは、これまでのEの誠実な働きぶりを高く評価していたため、「Eさんの働きぶりにはいつも感心しています。これからも長くこの店で働いてくださいね。」と言って、低利・無担保でこの借金の申入れに応じて貸し付けることとした(以下、この貸付金を「本件貸付金」という。)。Eは平成26年及び平成27年にはAに対して約定の元利支払を行ったが、平成27年末にFが亡くなった際の心労などから病気になり、平成28年中に病死した。Aに対するEの債務は元本が200万円残っており、また、Eが病死するまでの期間に相当する平成28年分の利息1万円が未払のままであったが、Fの介護にお金をつぎ込んでいたEには貯金はなく、自動車などのめぼしい財産もなかった。(中略)
以上の事案について、以下の設問に答えなさい。
〔設問〕
2 本件貸付金に関する課税関係について、以下の問いに答えなさい。
⑴ AがEから受け取った本件貸付金の利息と未収受の利息は、Aの所得税の計算上どのように扱われるか、簡潔に説明しなさい。
⑵ 平成28年にEが病死したという事情は、Aの所得税の計算上どのように扱われるか、説明しなさい。
2.出題趣旨
設問2⑴は本件貸付金の利息の所得税の計算上の扱い、具体的には、その所得分類と帰属年度が問われている。本件貸付金がAの事業と関係あるものであればその利息は事業所得とされる。本件の貸付けが、働きぶりの良いEが今後長くAの店で働くことを期待して実行されていて、言わばAの事業における福利厚生のための行為というべきものと評価されれば、そのような貸付けは事業に関連することになる。その場合、その既収・未収の利息は、事業の付随収入として、それぞれそれを受け取る権利が確定した年分の事業所得の総収入金額に算入されよう。
設問2⑵は、本件貸付金が事業関連性を有することを前提に、その貸倒損失の扱いを問うものである。事業関連性を有する貸付金の貸倒損失は、所得税法第51条第2項により、それが貸倒れた年分の事業所得の必要経費に算入される。
本問では、一般に債権が貸倒れたと判断されるための基準を指摘した上で、Eが病死し、換金できるような目ぼしい財産は残されておらず、Eの債務を相続する身寄りもない等の事情が、その判断基準に照らしてどのように評価されるかを検討する必要がある。
3.採点実感等
<設問2>
設問2⑴は本件貸付金の利息の所得税の計算上の扱い、具体的には、その所得分類と帰属年度が問われている。信頼できる従業員であるEの求めに応じ、自分の店での勤続を期待して低利無担保で金銭を貸すのは、言わば従業員の福利厚生のための行為であって小売業というAの事業と密接に関連するから、Eから受け取った利息(以下「本件利息」という。)は付随収入としてAの事業所得に該当する。そして、現実に受け取った利息がそれを受け取った平成26年及び平成27年分のAの事業所得の総収入金額に含められることはもちろん、権利確定主義の下では、未収の平成28年分の利息も、問題文の事情の下では権利が確定したものと考えられ、同年分のAの事業所得に含められるべきことになる。
設問2⑵は、平成28年中にEが、目ぼしい資産もなく相続人もない状況で死亡したため、Aは未払いの元本200万円と利息1万円をもはや受け取ることができなくなったという事情が、どのようにAの所得計算に反映されるかを問うものである。
設問2⑴で確認したとおり、本件利息はAの事業所得に含められるから、事業所得の計算においてこの事情を処理すべきである。この場合、所得税法第51条第2項の適用が問題となる。同項を適用するためには、貸し倒れた債権が「事業の遂行上生じた」ことが必要であるが、設問2⑴より、この要件は満たされる。
次に債権が貸し倒れたと言えるかどうかは、その全額の回収不能が客観的に明らかであるかどうかによって判断される。これは法人税法に関する上記の興銀事件最高裁判決から導かれる規範であるが、所得税に関しても貸倒れの意義を異なって解釈する理由はない。この規範に照らすと、問題文の事情の下では、AのEに対する債権は貸し倒れたと評価される。したがって、元利合計の201万円全額がAの平成28年分の事業所得の計算上必要経費に算入されることになる。
この設問2については、本件利息の所得分類を正しく事業所得と判定した答案は、出題時の予想よりは少なく、全体の6分の1程度にとどまった。これらの答案は、設問2⑵において貸し倒れた債権の事業関連性を正確に指摘するものが多く、結果として、高い評価につながった。また、残った元本200万円と未収の利息1万円が同じ扱いとされ、201万円が貸倒損失となることを正しく指摘した答案も多く、それに対しては更に高い評価を与えた。
答案の約半数は、本件利息を「雑所得」と評価していた。これらの答案の多くは,「Aの事業は冷凍食品の小売販売であって、貸金業ではない」としていたが、本件においてAがEに金を貸した具体的な事情を捨象するものであり、正当ではない。
ただし、本件利息が雑所得であることを前提に設問2⑵に正しく答えた場合には、相応の評価をすることとした。この場合も貸倒れを判定する規範や貸し倒れた事実の評価は事業所得の場合と同様であり、未収利息の1万円は所得税法第64条第1項によりなかったものとみなされ、元本の200万円は「雑所得を生ずべき業務の用に供され又はこれらの所得の基因となる資産……の損失の金額」として同法第51条第4項の規定により、Aの平成28年分の雑所得の計算上、必要経費に算入される。ただし、雑所得との前提の下でその処理を正しく書いた答案はごくごく少数であり、多くは未収利息に同法第64条第1項の適用があることを指摘するだけであったため、低い評価にとどまった。なお、数は多くないが、同法第51条第4項の適用について、Aの平成28年分の雑所得の金額を上限として必要経費に算入すべきことを正しく指摘した答案など、雑所得であることを前提とすれば優秀と言える答案には、相応の評価を与えた。
採点していて気になった点が2点ある。第1点は、本件利息の所得分類を一時所得とした答案が一定数あったことである。本件利息はAのEへの貸金という「役務」の対価であるし,平成26年以降継続的に発生している所得であることも考え合わせると、本件貸付金が「1回限りのものであった」ことを指摘して一時所得とする評価は理解に苦しむ。
第2点は、設問2⑴の所得分類をどう答えるかとは別に、設問2⑵の事情を所得税法第52条第1項又は同条第2項の適用対象とする答案が散見されたことである。これも理解に苦しむ点である。事業関連性のある債権の貸倒れには、同法第51条第2項を素直に適用すべきである。
なお、設問2⑴で事業所得以外の所得分類を答えた上で、設問2⑵でAの事業所得の計算上の損失として処理しようとする答案も、ある程度の数見られた。これについては条文の指摘などを採点対象としつつ、論理が甚だしく不整合である点も採点上の考慮要素とした。
4.解答例
設問2⑴について
1.Aは冷凍食品の小売販売店を営んでいる。冷凍食品の小売業からの所得は、Aが自己の計算と危険において独立して営み、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得(弁護士顧問料事件判決)であると認められる。このため、Aの冷凍食品の小売業からの所得は事業所得に分類される(所得税法27条1項)。
2.それでは、AがEから受け取った本件貸付金の利息と未収受の利息は、事業所得の付随収入と認められるであろうか。
Aは、信頼できる従業員であるEの求めに応じ、自分の店での勤続を期待して本件貸付金を実行している。これは、従業員の福利厚生のためのものであると認められる。したがって、Aの冷凍食品の小売業と密接に関連し、本件貸付金の利息は、事業所得の付随収入と認められる。
3.本件貸付金の未収利息は、事業所得に含まれるのであろうか。「その年において収入すべき金額」(同法36条1項)の意義が問題となる。
「その年において収入すべき金額」とは、現実の収入がなくても、その年に収入の原因たる権利が確定的に発生した金額のことと考える(権利確定主義・雑所得貸倒分不当利得返還請求事件判決)。これは、常に現実収入のときまで課税できないとしたのでは、納税者の恣意を許し、課税の公平を維持できないので、徴税政策上の技術的見地から、収入すべき権利の確定したときをとらえて課税することとしたものである。また、同項は「収入した金額」と規定していないこととも整合する。
したがって、未収利息1万円は、権利が確定しているため、平成28年のAの事業所得とされる。また、すでに収受している本件貸付金の利息についても、その権利の確定した日の属する年分のAの事業所得となる。
設問2⑵について
1.平成28年にEが病死したことにより、本件貸付金の元本(200万円)と未収利息(1万円)の回収が困難となっている。この点、本件貸付金は、Aの冷凍食品の小売販売業に付随しており、その事業の遂行上生じた貸付金(同法51条2項)にあたる。そこで、「貸倒れ」(同項)ているとして、必要経費に算入できないか。
2.この点、「貸倒れ」ていると認められるためには、その全額が回収不能であることが客観的に明らかでなければならない。そのことは、債務者の資産状況、支払能力等の債務者側だけではなく、債権回収に必要な労力、債権額と取立費用の比較衡量等の債権者側の事情、経済的環境等を踏まえ、社会通念に従って総合的に判断すべきである(興銀事件判決参照)。
3.この点、平成28年にEは病死したが、唯一の親族であるFは平成27年末に死亡しており、相続人はいない。また、Eには、貯金はなく、自動車などのめぼしい財産もない。また、Aとしても、判明しているもの以外にEの資産を探索することは、201万円という債権額と取立費用との比較衡量をすると合理的とはいえない。
このため、Aは、本件貸付金の元本と未収利息は、社会通念上、全額回収不能であり、貸倒れていると認められる。
4.したがって、平成28年のAの事業所得から貸倒損失201万円は控除される。
5.ケースブック租税法〔第6版〕との関係
事業所得に分類するということが正解とされているが、初見で、そのような判断ができるほど、理解が深まっていないことを感じた。権利確定主義の論証は切りはりしてみた。所得税法51条2項の貸倒損失は、初めて、扱った。採点実感等にしたがって興銀事件判決を規範として参照した。
ところで、所得税法の条文は多岐にわたるのであるが、出題は、基本的な条文に限定されていると思うのだが、それすらも、相互関係がわかっていないことを、所得税法51条と72条の出題を検討してみて感じた。採点実感で説明されているが、本件貸付金の収入を雑所得に分類すると、未収利息は、所得税法64条1項、元本は、51条4項で処理することになるというのは、パッとは、出てこなかった。あきらめずに、勉強を進めたい。
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