1.問題
2.出題趣旨
3.採点実感
4.解答例
設問2⑴について
P説を前提とすると、相続人Bは遺産分割により遡及的に被相続人Aから甲土地を取得したこととなる。このため、BからCに支払われた代償金は、「資産の取得に要した金額」(所得税法38条1項)に含まれない。したがって、取得費は、同法60条1項1号に従い、被相続人Aの取得費が相続人Bに引き継がれた1500万円となる。また、「資産の取得に要した金額」(同法38条1項)には付随費用も含まれるため、相続登記費用も取得費に含まれる(借入金支払利子付随費用判決)。以上より、甲土地に係る譲渡益は、収入金額2000万円から取得費1500万円と相続登記費用16万円を控除して計算される484万円となる(同法33条3項柱書、38条1項)。
そして、課税総所得金額は、譲渡益484万円から特別控除額50万円を控除(同法33条3項、4項)し、平準化措置により2分の1(同法22条2項2号、33条3項2号)した217万円となる。
設問2⑵について
Q説を前提とすると、Bは遺産分割によりCから甲土地の共有持分2分の1を取得したこととなる。このため、BからCに支払われた代償金900万円は、甲土地の共有持分2分の1の取得費に含まれる。また、BはAから甲土地の共有持分2分の1を相続しており、同法60条1項1号に従い750万円の取得費はAからBに引き継がれる。また、相続登記費用も付随費用として取得費に含まれる(借入金支払利子付随費用判決)。以上より、甲土地に係る譲渡益は、収入金額2000万円から取得費1650万円と相続登記費用16万円を控除して計算される334万円となる(同法33条3項柱書、38条1項)。
そして、課税総所得金額は、譲渡益334万円から特別控除額50万円を控除(同法33条3項、4項)し、平準化措置により2分の1(同法22条2項2号、33条3項2号)した142万円となる。
設問2⑶について
P説からはCに譲渡益は生じない。なぜなら、Cは甲土地の共有持分をそもそも取得しておらず、平成22年の代償金の受領は、譲渡所得に係る収入金額とはならないからである。
Q説からはCに譲渡益が生じる。なぜなら、Cは相続により取得した甲土地の共有持分2分の1の対価として代償金を受領しているからである(同法33条1項)。そして、Cは甲土地の共有持分2分の1を相続により取得しており、その取得費は750万円となる(同法60条1項1号)。このため、譲渡益は、代償金900万円から取得費750万円を控除した150万円となる(同法33条3項柱書、38条1項)。
設問3について
⑴ Bは、乙土地を第三者に売却しており、譲渡益を発生させる。すなわち、売却代金2600万円から取得費1500万円を控除した1100万円が譲渡益となる(所得税法33条3項、38条1項)。なお、BはAから乙土地を相続しており取得費を引き継いでいる(同法60条1項1号)。この点、Bは売却手取金の一部を連帯保証債務の支払に充当し、支払金額の求償を断念している。このため、同法64条2項により、求償できない金額について譲渡所得がなかったものとみなされないかが問題となる。
⑵ 同項の要件は、①保証債務を履行するため資産の譲渡があり、②その履行に伴う求償権の全部または一部を行使することができなくなったことである。
この点、Bは、F社のG社に対する借入を連帯保証し、保証債務を履行するために、乙土地を売却し、その手取金から1000万円を返済にあてており、①の要件を満たす。また、BはF社に対して求償することを検討したものの、F社は債務超過状態にあり、求償債務の弁済は事実上不可能であったため、②の要件を満たす。
よって、Xは、本件土地の売却に係る譲渡所得につき、同法64条2項の適用をうけることができる。
⑶ ただ、同法64条2項の趣旨は、通常、保証人は保証債務を履行することとなっても、主債務者に対して求償権を行使することで最終的負担を免れ得るとの見通しのもとに保証契約を締結するものであるが、保証債務履行のため資産を譲渡しても、これに反して求償権を行使できなかった時には、その限度で資産譲渡に係る所得に対する課税を差し控えようとすることにある。
このため、保証人が、保証契約締結時に、既に主債務者に対して求償権を行使することが不可能であることを確実に認識していたときには、その実質は主債務者に対し一方的に利益を供与するものにほかならず、同項の適用をうけることはできないと考える(下級審裁判例に同旨)。
この点、F社は、H社から3000万円を借り入れている状況下でG社からの借入を行ったため、求償権行使が不可能であったとの認識があった可能性がある。しかし、G社からの借入後、支払いが困難となったのは2年後であり、相当期間、営業を継続したことから、そのような認識が確実であったとは断じ難い。また、BはF社の取締役に就任しているが、Bの判断がF社の判断と同一視される訳ではない。このため、同項の適用を受けることができると考える。
⑷ このため、Bの課税総所得金額は、譲渡益1100万円から求償不能となった1000万円を控除し、特別控除額50万円を控除した上(同法33条4項、5項)で、2分の1した額(同法33条3項2号、22条2項2号)である25万円となる。
以上
5.ケースブック租税法との関係
設問2については、「§222.07 譲渡所得の応用問題」の「3.代償分割と譲渡所得課税」における出題とほぼ同じ内容となっている。代償金を取得費に含めるか否かについては、P説とQ説にわけてきいているが、相続登記費用を取得費に含めるかについては、各自、判断することとなっている。譲渡所得については、令和3年第1問設問1で、計算順序が問われたが、今回の出題は、譲渡益、課税総所得金額に分けて、計算することを求めている。
設問3については、平成19年第1問で所得税法64条2項の総合問題が出題されており、今回は、その出題とほぼ同じ内容がきかれている。ただ、設問2と同様、計算手順がきかれており、この点において、前回の出題よりも問われている範囲は、拡大していると言える。
解答例の作成にあたっては、設問2と設問3の分量が同じになるように注意した。