1.問題
2.出題趣旨
3.採点実感等
4.解答例
設問2について
1.本件未払賃料等は、何年の所得として取り扱うべきか。「その年において収入すべき金額」(所得税法36条1項)の意義が問題となる。
「その年において収入すべき金額」とは、現実の収入がなくても、その年に収入の原因たる権利が確定的に発生した金額のことと考える(権利確定主義・雑所得貸倒分不当利得返還請求事件判決)。
これは、常に現実収入のときまで課税できないとしたのでは、納税者の恣意を許し、課税の公平を維持できないので、徴税政策上の技術的見地から、収入すべき権利の確定したときをとらえて課税することとしたものである。また、同項は「収入した金額」と規定していないこととも整合する。
2.本件未払賃料等は、増額請求にかかる増額部分の賃料(3万円)と、遅延損害金相当額(年1割の利息、借地借家法32条2項但書)である。
この点、賃料増額請求は請求のあった時から増額の効力は発生している(形成権)。このため、本件未払賃料等の原因たる権利は、平成28年、平成29年の毎月末に発生していると考えられる(民法614条)。
しかし、E地裁における判決確定前において、Aは25万円を請求しており、Dはこれに応じておらず、増額幅が確定していない。また、Dは、相当と認める賃料を支払えば足りるとされている(借地借家法32条2項)。このため、毎月末時点では、賃料23万円とする額での権利は確定しないと考える。
そして、増額幅3万円での賃料請求権と遅延損害金請求権が、確定的に発生したのは、AとDの間の訴訟の判決が確定した平成29年12月28日である。
このため、本件未払賃料等は、平成29年分の不動産所得として、総収入金額に算入されるべきであると考える。
なお、DはAに対して、本件未払賃料等を平成30年1月4日に支払っているが、前述のとおり、現実の収入時まで課税できないとすると、納税者の恣意を許し、課税の公平を維持できないため、平成30年分の所得することは適当ではないと考える。
5.ケースブック租税法〔第6版〕との関係
権利確定主義については、他の過去問の検討時に使った論証を使った。裁判例における基準を適用するにあたって、増額された賃料を請求する権利は請求時に発生するが、その時点では、金額が確定しないということを着目し、本問では、判決確定時に、金額が確定し、権利も確定的に発生したというかたちで論じてみた。なお、現金支払時期も、問題文で言及されているため、この点についても触れてみたところである。