【過去問】財産分与と譲渡所得課税
1.問題
2.出題趣旨
3.採点実感
4.解答例
設問1小問⑴
1 Aによる財産分与が、本件土地という資産の「譲渡」(所得税法33条1項)に該当し、譲渡所得を課税されるのかが問題となる。
この点、譲渡所得は、譲渡差益に対する課税ではなく、資産の値上がりによりその所有者に帰属する増加益に対する課税であると考える。そして、未実現の資産の増加益に対して、資産が所有者の支配を離れて他に移転することを機会に課税するものである。このため、資産に対する所有などの支配を他人に引き継がせるあらゆる行為が「譲渡」にあたると考える(榎本家事件判決)。Aによる財産分与は、本件土地の所有権をBに移転しているため資産の「譲渡」にあたると考える。
2 次に、この財産分与によりAの「収入すべき金額」(同法36条1項)をどのように考えるべきかが問題となる。
この点、離婚によりAはBに対して財産分与義務を負う(民法768条)。そして、本件土地をAからBに譲渡することでAはこの義務を免れる。問題文より、本件土地は、財産分与の額として適正であったことから、免れた債務は時価相当であったと考える。Aは、本件土地をBに譲渡することで、時価相当額の経済的利益を得たと考える。このため、Aの「収入すべき金額」は、5000万円であったと考える。(名古屋医師財産分与事件判決参照)
3 さいごに、Aは本件土地を5年超保有している。このため、財産分与に関しては、5000万円から取得費4000万円と譲渡費用を控除し、さらに、特別控除額50万円を控除した950万円の2分の1である475万円が課税標準となる(同法33条3項2号、4項、22条2項2号)。この平準化措置は累進税率による税負担を軽減するために採用されている。
設問1小問⑵
1 Bは本件土地をCに譲渡しているため譲渡所得が課税される(同法33条1項)。この点、Bの本件土地の「取得に要した金額」(同法38条1項)がいくらかが問題となる。前述の通り、Bは、Aに対する財産分与請求権の履行として本件土地をAから受け取っている。このため、財産分与請求権の額が取得費となるところ、その額は本件土地の時価相当額であったと考える。なぜなら、問題文より、本件土地は、財産分与の額として適正であったからである。
2 そして、Bは本件土地を5年超保有せずにCに売却している。このため、5500万円から取得費5000万円を控除し、さらに、特別控除額50万円を控除した450万円が課税標準となる(同法33条3項柱書、4項)。
5.ケースブック租税法との関係
まず、財産分与と譲渡所得については、ケースブック租税法〔第5版〕§222.02の「4.財産分与と譲渡所得課税」で出題されている。ここで問われていることは、財産分与が「譲渡」(所得税法33条1項)に該当するのかという点よりも、名古屋医師財産分与事件判決を踏まえて、いくらの収入金額を、どのようなロジックで認めるべきなのかというところに焦点があたっているように思われる。解答例でも書いたが、同判決は、財産分与義務を免れたことが、収入金額に当たると考えているため、財産分与による譲渡は、代物弁済としての譲渡であると考えているものを思われる。(このため、§222.02「2.代物弁済と譲渡所得課税」において代物弁済の検討も求めている。)一番の問題は、結局、いくらなのかであるが、財産分与により免れる債務額は問題文で明示されず、ただ、小問の方で、財産分与の額として、本件土地を譲渡したことが適切であったとされているにすぎない。題意は、本件土地の時価が、免れた債務額として適切であったと考えているものと推測され、このため収入金額は5000万円と考えた。
今後、§222.02「3.共有と譲渡所得課税」を絡め、財産分与として本件土地の全体ではなく、2分の1の共有持分を分与したときも「譲渡」に当たるのかといった出題が考えられる。
また、財産分与の性格のうち、夫婦共通財産の清算の性格を強調し、共有財産の分割であって、「資産の譲渡」に当たらないと考えるべきであるとする説について問うことも考えられる。§222.02「4.財産分与と譲渡所得課税」⑵を参照。
さいごに、譲渡所得の計算については、§222.05「2.譲渡所得の計算方法」⑵で問われている。