1.問題
2.出題趣旨
3.採点実感等
4.解答例
設問1について
Cは甲土地を時効取得し、純資産が増加している。この所得は、所得税法上、いかなる所得に分類されるか。
この点、時効取得による所得は、自己の計算と危険において営利を目的とし対価を得て継続的に行う経済活動から所得ではないため、事業所得(同法27条1項)には該当しない。
また、非独立的に、従属的な労務提供の対価として稼得された所得でもないため、給与所得(同法28条1項)にも該当しない。
さらに、資産の譲渡による所得(譲渡所得、同法33条1項)は、承継取得による譲渡をさし、所有権を原始取得する時効取得は、資産の譲渡に該当しないと考える。このため、譲渡所得に該当しない。
そこで、一時所得(同法34条1項)に該当するかを検討する。
まず、時効取得による所得は、前述した事業所得、給与所得、譲渡所得以外の所得分類、すなわち、利子所得、配当所得、不動産所得、退職所得、山林所得にも該当しない。そして、時効取得による所得は、営利を目的とする継続的行為からの所得ではなく、さらに、前述のとおり労務その他の役務の対価、あるいは資産の譲渡の対価ではない。
このため、Cによる甲土地の時効取得による所得は、一時所得に該当すると考える(土地時効取得事件判決に同旨)。
5.ケースブック租税法〔第6版〕との関係
所得分類の検討順序については、平成28年の採点実感において、「この場合、最初に検討すべきは譲渡所得や給与所得であり、これらに該当しないとした場合に一時所得該当性を検討し、その結果一時所得に該当しなければ雑所得になるという検討順序になるべきであるが、この検討順序をきちんと意識できていない答案が少なからず見受けられた。」との記述がある。この教えにしたがって順番に検討を加えた。
なお、採点実感では「ただし、上記Cの利益が課税されることを当然の前提とした設問である(課税されるという前提の下で所得分類を聞いている)ことは、ここで読み取っておかねばならない。」と指摘されているし、設問は、所得分類しかきいていないので、純資産増加説と非課税所得にならないということには言及しなかった。
ケースブック租税法では、時効取得した資産の年度帰属について詳しい設問が用意されている(ケースブック租税法〔第6版〕264頁以下)。このためであろうか、採点実感では、所得分類が問われているのに、年度帰属について回答している答案が散見されたようである。