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§243.01 税率構造
1.その後の税率の変遷
(略)
2.超過累進税率
(略)
⑴ 課税所得が100万円以下の場合には10%の税率を、100万円超の場合には20%の税率を、それぞれ課税所得の全体に適用するという累進税率の方法(単純累進税率)を採用した所得税制の下で、所得100万円の人と所得101万円の人との税引後所得額を比較し、その合理性を検討せよ。
説例の単純累進税率を採用すると、所得100万円の人の税引後所得は90万円(100万 - 100万 x 0.1)である。所得101万円の人の税引後所得は、80万8千円(101万 - 101万 x 0.2)である。税引前所得が増えているのに、税引後所得が減ってしまうため労働意欲に強い悪影響を与える。したがって、合理的な制度とはいえないと思われる。
⑵ ⑴の検討に基づき、超過累進税率による課税の合理性を検討せよ。
超過累進税率の下、100万円までの税率はその人の所得額に限らず10%となり、100万円を超えた人は20%となる。このため、所得100万円の人は、税引後所得は90万円(100万 - 100万 x 0.1)である。所得101万円の人の税引後所得は、90万8千円(101万 - 100万 x 0.1 - 1万 x 0.2)である。単純累進税率と異なり、所得が増えても、税引後所得額は減らないため、労働意欲への悪影響は限定的であると思われる。
3.累進税率と平準化・所得分割
⑴ 現行所得税法は課税退職所得について分離して税率表を適用することを、また、課税山林所得は分離して五分五乗方式で税率表を適用することを、それぞれ定めている(89条1項)。これらの所得についてこのような課税方式が採用されることの効果を具体的に検証せよ。
山林所得については、「立木は植えられてから伐採できるまでに数十年単位の非常に長い時間が必要であり、定型的に平準化の必要性がきわめて高い」とされる(佐藤〔第4版〕217頁)。このため、他の所得から括り出して、課税山林所得金額を5分の1し、税率表を適用した金額を5乗して算出される額を税額とする。たとえば、100万円の山林所得があると税額は5万円(100万円の5分の1である20万円に5%の税率を適用した結果である1万円を5乗することで5万円を算出)となる。この課税方式により、税率表の低い税率が適用されることとなり、平準化が達成されると思われる。
退職所得については、「退職所得の担税力が低いということもありますが、それ以上に、きわめて長い期間勤めて手にした所得だという性格を考え、平準化措置として定められているという性格が強いと考えられます」(佐藤〔第4版〕189頁)と指摘されている。所得税法30条2項により、退職所得控除後の金額に2分の1を乗じた額が、退職所得金額となる(同法21条1項2号)。そこから所得控除した金額が、課税所得金額となり、課税所得金額は分離して税率表を適用する。退職所得の収入金額から平準化措置により大きく減額された課税退職所得金額に税率表を適用することとなる。この課税方式により、税率表の低い税率が適用され、平準化措置の目的が補強されると思われる。
⑵ 累進税率の下では、一般に課税所得が分割されればされるほど、総税額は減少する(§212.02 N&Q 2.参照)。この効果がどのようなメカニズムでもたらされるか、具体的な例に所得税法89条1項を当てはめて検証せよ。
2,400万円の課税所得が1人によって稼得されているとき、これを1,200万円ずつ2人に分割すると税額は、どのように変わるであろうか。課税総所得金額が2,400万円のとき税額は6,804,000円であるが、課税総所得金額を1,200万円に分割すると税額は合計で4,848,000円となる。このように、課税総所得金額を分割し、低い税率の恩恵を享受することで、税額を抑えることができる。
なお、計算にあたっては、こちらの税率を適用して、控除額を控除して計算した。
4.比例税率
(略)
5.平均課税の内容と限界
⑴ 所得税法には、「漁獲から生ずる所得、著作権の使用料に係る所得その他の所得で年々の変動が著しいもののうち政令で定めるもの」(所法2条1項23号)とされる変動所得と、「役務の提供を約することにより一時に取得する契約金に係る所得その他の所得で臨時に発生するもののうち政令で定めるもの」(所法2条1項24号)とされる臨時所得に関する定めが置かれている(変動所得については所令7条の2を、臨時所得については所令8条を、それぞれ参照)。
これらの変動が激しい所得や臨時的な所得について、通常通りの税額計算方法を適用することにはどのような問題点があるか。
ベストセラーや大漁などによる所得は多額の所得が生じた年、複数年契約の契約金などの臨時に多額の所得が生じた年は、累進税率を緩和する必要がある(佐藤〔第4版〕375-376頁)。つまり、変動所得は、年によって所得の変動が激しいため、所得額が多い年に累進税率表にしたがって高い税率で課税してしまうと、実際の担税力よりも重い税率で課税されてしまう。臨時所得は、契約金のように複数年にわたるサービスの対価であるのに、高い税率を適用されてしまうと、同様に、実際の担税力よりも重い税率で課税されてしまう。このように税率を緩和する必要性がある。そもそも暦年による課税期間は人為的に区切った期間であり、複数年度における所得を念頭に、税率を設定することも許容されるのではなかろうか。
⑵ (略)この制度は、どのような目的または効果をもつ制度と説明できるか。また、この制度を設けることにはどのようなデメリットがあると考えられるか。
この制度は、累進税率を緩和する目的・効果をもつと説明できる。また、「実際に収入があった年に税額計算を終わらせるという要請と、変動所得や臨時所得に対する過大な累進税率の適用を避けるという要請とを、うまく折り合わせようとしたものだと考えられます」と指摘される(佐藤〔第4版〕376頁)。
(デメリットについては、調査した範囲で、明記している文献はみつからなかったので、追加調査したい。)
⑶ 生涯のある短い期間に高額の所得が集中している場合(たとえば5年間だけ数億円の収入があるスポーツ選手)に、現行の平均課税の制度は十分に対応しているといえるか、所得税法90条および変動所得・臨時所得の定義などを調べて検討せよ。
所得税法施行令8条1号は、「3年以上一定の者のために専属的に役務を提供する契約を結ぶ際に契約金」で「1年分の収入の2倍以上の金額になるもの」などが臨時所得にあたるとされている。説例における生涯のうち5年間のみ数億円の収入のあるスポーツ選手は、後段の1年分の収入の2倍以上という要件をみたすことができず、臨時所得にはあたらないと思われる。この点、「このようなタイプの所得に対してどのように課税すべきか–––––『生涯所得』というようなものを想定して何らかの対応が必要であると考えるか否か–––––は、興味深い問題である」(佐藤〔第4版〕377頁)との指摘がある。
6.その他の税額計算の特例
(略)
7.税額控除
(略)
⑴ 30万円の所得控除が、課税総所得金額1,830万円の納税者に追加して適用される場合と、同じく330万円の納税者に適用される場合との、納付すべき税額に及ぼす影響の異同を指摘せよ。
計算すると次のような結果となる。所得控除だと課税総所得金額が多いほど減税額が増えるのに対して、税額控除だと課税総所得金額にかかわらず、減税額は一定である(なお、佐藤〔第4版〕373-374頁参照)。
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⑵ 基礎控除、配偶者控除、扶養控除などの人的控除を税額控除とすべきであるという意見の利害得失について検討せよ。
人的控除は、「人が健康で文化的な最低限度の生活を送るのに必要な所得には課税すべきではないという社会政策的考慮(参照、憲25)から設けられているものだと説明されてい」(佐藤〔第4版〕348頁)ることを踏まえると、所得額にかかわらず、一律に控除することが、形式的な平等を徹底できるし、所得額の低い納税者の節税額を増加することができ、所得控除の趣旨にかなうともいえる。
しかし、納税者の生活実態は所得に応じて異なるので、所得に応じて減税額を変動させることは、実質的な平等を確保でき、一理あるのではないか。上述の例をみると、総所得の高い納税者についても減税額が増加している点は気になる。加えて、上述の例で、還付を認めると国庫からの持ち出しが発生するが、人的控除の趣旨を超えていないか疑問である。
⑶ (略)
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