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レースにおけるキューブを考えるー"8-12%理論", "rule 62", "Keith Count","Isight Count(Reichert Count)", "Kleinman Count"そしてちみっとEPC

終盤ですれ違うとあとは走り合いになり、先に進んでいる方はキューブを考えることになる。で、いろんな見積もり方があるが、一回まとめてみました。結果的にめっちゃ大作になっちゃった!


課題ポジション

というわけで、しばらく使用します以下の課題ポジション。アンリミテッドにおけるキューブアクションは?

課題ポジション White on roll, Cube action?

終盤の上がり合いになったときのキューブはなかなか悩ましい。世の中にはいろんな見積もり方が紹介されており、今回まとめて考察してみることにする。いくつかを知っておくと、めっちゃ迷った時に役に立ちます。

8-12%理論

最も有名で、よく知られている理論。お互いのピップカウントを数えて、その差が

・8%以内:ノーダブル
・8‐12%:ダブルテイク
・12%以上:ダブルパス

となる。

非常にシンプルで使い勝手もいいが、本当の最終盤(残り数枚の場合、”Roll×Roll position”で考えた方が良い)やチェッカーが偏っている場合(後述するEPCが役に立つかも)などには使えない。

上記ポジションだとピップ差が7であり、8‐12%の中に入っている。この理論から行くと「ダブルテイク」となる。

Rule 62

「Cube Like a Boss」という本で初めて知ったが、元ネタは「Backgammon Boot Camp」という本から。

趣旨は「キューブが来た場合、テイク出来る最大の差」の計算方法になる。

・ピップカウントが62以下の場合「5を引いて7で割り、小数点以下切り捨て」
・ピップカウントが62以上の場合「10で割って1を足し、小数点以下切り上げ」

とめっちゃ簡単。

「Backgammon Boot camp」の著者Walter Triceさんは著書の中で「レースにおけるキューブの9割ではこのルールが使える」と書いているが、逆に言うと1割では使えない(だいたい上記の8‐12%理論が使えない時と概ね同じかと)。そのことさえ頭に入れておけば十分使えるのじゃないだろうか。

「テイク出来るか?」なので、キューブが来たとして黒の立場から考える。

ピップカウントは68なので、「62以上」の場合で考える。上記の計算から、テイク出来る最大の差は「8」となる。今回のポジションはピップ差が7なので「テイク可能」となる。

Keith Count

Tom Keithさんが提唱。元ネタは以下より。

計算方法は以下の通り。

1.ピップカウントを計算する
2.ピップカウントを補正する

・1ポイントの2枚目以上は1枚につき+2
・2ポイントの2枚目以上は1枚につき+1
・3ポイントの4枚目以上は1枚につき+1
・4~6ポイントの空き(ギャップ)は1か所につき+1

3.補正後のピップカウントに、ダブル側はさらに1/7を加算(小数点以下切り捨て)して、2者の差を計算する。

・5以上:ノーダブルテイク
・4:ダブルテイク
・3,2:リダブルテイク
・1以下:ダブルパス

以上に基づき計算してみる。

白側:ピップは61→補正し62→1/7加算し70。
黒側:ピップは68→補正なしで結局68のまま。

その差は2なので「ダブルテイク」となる。

Isight Count(Reichart Count)

Axel Reichartさんが提唱。元ネタは以下の通り。

https://bkgm.com/articles/Reichert/insights-with-isight.pdf

一般的には"Isight Count"として知られているが、「Conquering Backgammon」という本では提唱者の名前から"Reichart Count"として紹介されている。

補正がKeith Countとやや違うので注意。

1.ピップカウントを計算する
2.ピップカウントを補正する(太字がKeith Countとの違い)

・1ポイントの3枚目以上は1枚につき+2
・2ポイントの3枚目以上は1枚につき+1
・3ポイントの4枚目以上は1枚につき+1
・4~6ポイントの空き(ギャップ)は1か所につき+1
・クロスオーバー差、ベアオフ差があれば差分につき+1

3.P=80-(あなたの補正後ピップ)/3+2×(両者の補正ピップ差)を計算する

P<68:ノーダブル
68≦P<70:ダブルテイク
70≦P≦76:リダブルテイク
76<P:ダブルパス

今回の計算では補正すべき項目に全く引っかかっていないので、ピップは白61、黒68のまま。

P=80-61/3+2×(68-61)=73.7

となり、「ダブルテイク」となる。

Kleinman Count

Danny Kleinmanさんが提唱。元ネタは以下の通り。

自分用のメモ(皆上強志さんのサイトで読みましたが、現存していません)には補正式が書いてあるのだが、元ネタには書いてないので補正しなくてもいいかもしれない。ていうか、式が凄いので計算が実用的ではないということと、補正までしていると実戦では全く使えない気もするが、この点に関してはまた後述します。

補正がIsight Countと似ているのだが、やや違うので注意。

1.ピップカウントを計算する
2.ピップカウントを補正する(太字がIsight Countとの違い)

・1ポイントの3枚目以上は1枚につき+2
・2ポイントの3枚目以上は1枚につき+1
・3ポイントの4枚目以上は1枚につき+1
・4~6ポイントの空き(ギャップ)は1か所につき+1
・クロスオーバー差があれば差分につき+0.5
・ベアオフ差があれば差分につき+2

3.K=(両者のピップ差+4)の2乗/(両者の合計ピップ-4) を計算する

K>0.55 ダブルテイク
K>0.7 リダブルテイク
K>1.2 ダブルパス

となる(注:元ネタには1.2でのテイクパス判断のみの記載)。

Isight Count計算時に補正はなかったので、せずに計算。ピップは白61、黒68のまま。

K=(7+4)の2乗/61+68-4=121/125=0.97 だいたい1

→ダブルテイクとなる。

実際に使ってみて感じることは

1.差は大きくないことが多いので、2乗計算が入った式にビビってしまうが意外と計算自体は大変じゃないことが多い。
2.元ネタにないので補正は不要かも、と書いたが、補正のあるなしが「差」に響くことがあり(値が1-2異なるだけで、2乗すると大差になることがある)、補正をするかどうかで値が大きく変わることがある。で、経験上補正した方が正確なことが多い。

なお、Kleinman Countの素晴らしいところは、キューブ判断だけではなく、勝率計算も見積もることができるというところ。

上記記事から引用させていただくが、下記の通り。

K=2 Trailerは16%に直してね!

なのでポイントマッチのキューブ判断にも応用可能。

いやあ先人の知恵ってすごいね!


Appendix: EPC(Effective Pip Count)

ここまでで「えっ、EPCは?」と思われたあなた、鋭い! 鋭すぎる! というわけで、ちみっとだけEPCについても触れておきます。

Effective Pip Count(以下EPC)とは、ピップロスとかを考慮したいわば「ホンマのピップカウント」のようなもので、ご存じのようにXGには標準装備されており、ピップカウントの横にそっと表示されています(見出しの写真参照)。

例えば今回のポジションなら、白のピップカウントは61ですがEPCは69.4であり、8.4の"westage"がある、ということになります。

このEPCが真価を発揮するのは、いわゆる"Roll vs Pip position"です。例えば以下のようなポジション。

ポジション1 White on roll, Cube action?

正直「どうすんのコレ」状態。ポジションの偏りっぷりからは、なんとなく今まで紹介してきた「8‐12%理論」や「Rule 62」は使えなさそう。

Keith Countだとどうなる? 白の補正ピップは30+17=47、1/7足して53。黒は補正不要な56なので余裕でダブルパス?

確かにパス。では少し変えてみて以下のポジションなら?

ポジション2 White on roll, Cube action?

Keith Countなら共に補正計算後のピップは53。これも余裕でダブルパス?

にはならないんですよ。解析的にはパスからは程遠く、どっちかというとダブルとノーダブルの境目。

こういう「片方がローポイントに寄っており、もう片方が普通の形に近い」場合は従来の方法が適応できないことがあり、EPCが有効。

EPCは上記でも紹介した「Backgammon Bootcamp」の22‐24章で解説されているが、著者のWalter Triceが書いた以下の記事でも読むことができる。

簡単に説明すると以下の通り

1.NロールポジションのEPCは「7N+1」
2.きれいにベアインした形でwastageが7ピップ
3.フラットポジションでwastageが10ピップ

で、両者の差がN-3より少なければテイクで、それ以上ならパス

今回白は8ロールポジション。なのでEPCは57となり、差が5であるかどうかがテイクパスの境界となる。どうぞ上記ポジションのEPCでご確認ください。

実戦での考え方としては、ポジション2を例として

1.白は15枚がローポイントに寄っており、EPCは7×8+1=57。
2.黒はピップ53。westageを見積もる以前に、パスのラインは57+5(N(=8)-3=5)=62であり、後述のように「15枚がフラットにベアインしてwestageが10なので、このポジションでwestageが9を超えることはあり得ないだろう」→黒はテイク出来る

となる。

で「なんで白のEPCが微妙に57.2なのか?」とか「黒のwestageの見積もり方は?」などの疑問がおありかと思うが、今回ここでは触れません。

今回書いておきたいTipsは二つです。

1.チェッカー15枚がローポイントに寄っていたら、どんなポジションでもEPCは57(7×8+1)になる。
2.いったんEPCを見積もると、その後「Rollポジション側」は一回ごとに基本的にEPCが7ずつ減っていく(ゾロ目だと14)。「Pipポジション側」のEPCは出目に左右されるので、キューブ判断がしやすい。

1.何ロールなのかが重要なので、どこに何枚なのかは問われない。なので7ロールポジションならEPCは50だし、6ロールポジションなら43。
2.Rollポジション側は基本的に2枚ずつ上がっていくので、EPCも1ロールごとに7ずつ減っていく。対照的にPipポジション側は出目に依るので、例えば「次12が出たらキューブやな」など、相手が振る前にキューブを見積もることが可能。

あれ? 全然「ちみっと」じゃなくなっちゃった! まあいいか!

いやあ、ギャモンって奥深すぎ!


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