中小小売商業高度化事業の現状
商店街、中心市街地商業街区活性化の支援策の中核ですが、事業は手段、高度化事業の目的は何か?
「中小小売商業の高度化」は定義されていませんが、商店街活性化をめぐる問題状況で「高度化事業」を活用して取り組まれる中核事業は何を目的にすべきか?
中小小売商業高度化事業(以下「高度化事業」)とは:https://machi.smrj.go.jp/support/4_5.html
”中小小売商業の構造改革を進め、消費生活様式の高級化・多様化や交通体系・都市構造の移り変わり等経営環境の変化に中小小売商業者が円滑に対応していくことを促進する事業”と位置付けられています。
具体的には、
①共同施設の設置、商店街の空き店舗を活用したテナントの誘致や店舗の計
画的な建て替え等を実施する経営近代化事業、
②集団で立地環境の良い新たな区域に移転等を行い、営業に必要な店舗、倉
庫、事務所等 を設置するほか、種々の共同事業の一環として集会場、イ
ベント広場、→駐車場等の整 備等を実施する基盤強化整備事業、
③ショッピングセンタータイプの店舗やそれと併設される施設を設置する共
同店舗等整備事業等がこれに当たります(引用end
つまり、高度化事業とはタイトルで区分すると:
①経営近代化事業
②基盤強化整備事業
③共同店舗等整備事業
ですね。
言うまでも無く事業は手段、高度化事業の目的は何か?
引用した「事業の概要」では、
”中小小売商業の構造改革を進め、消費生活様式の高級化・多様化や交通体系・都市構造の移り変わり等経営環境の変化に中小小売商業者が円滑に対応していくことを促進する事業” とあります。
これを踏まえれば「高度化」とは:”経営環境の変化に円滑に対応すること” ですね。
対応すべき「環境の変化」は?
引用した内容では「環境の変化」の把握が抽象的(漠然としたそれらしい文言の羅列)、これでは「円滑な対応」の実効的な具体策を構想し、高度化事業を活用して実施することは不可能です。
対応すべき環境の変化は、シビアに
①競争の変化(集積間競争の拡大)
②消費購買行動の変化
③商店街内部環境の変化
の三つです。日ごろ我々が説明しているところ。
これに的確に対応する方向と方法を決定し、取り組むべき事業群を設定、高度化事業の趣旨に合致するものについて支援施策としての高度化事業を活用する、ということになります。
高度化事業を成功させるには、上記の「環境変化三点セット」に対応する商業集積としての対応の方向と方法を決定することを厳守すること。
高度化事業の支援範囲は大変広く、その利用は事業者の企画によることになっています。それだけに高度化事業の計画は、環境変化に的確に対応する事業・内容であることが不可欠、環境変化の理解と対応の方向と方法の的確な決定が高度化事業の成否を左右します。
これまで取り組まれた高度化事業において、事業は完了したが、環境の変化への対応としては成果が得られなかったことがあったとすれば、それは
①環境の変化が的確に理解されず
②具体的な対応の方向と方法が適切で無かった
ことが原因として挙げられると思います。
対応すべき環境変化を確認してみましょう。
先に引用した高度化事業の事業概要には、
”消費生活様式の高級化・多様化や交通体系・都市構造の移り変わり等経営環境の変ありますが、商店街という商業集積の環境変化の認識としては、あまりにも「雑」と言わざるを得ない。
小売業にとって "消費生活様式の高級化・多様化” は、「消費購買行動の多様化」としてあらわれ、"交通体系・都市構造の移り変わり” は、それら自体として直接影響するというより、それらの影響もあいまって生じている小売機能の分化・拡大、多種多様な業種業態の登場、商業集積間競争の激化、というレベルで認識しておかないと対応を誤ることになりますね。
「環境の変化」を高度化事業の文脈で表現すれば、
①消費購買行動の高度化
②集積間競争の高度化
です。
この環境変化に、
③内部環境=外部環境の変化への適応に失敗して「仕舞た屋通り化」する趨勢に陥っている商店街、個店の経営実態
この状況において、あらためて "商業集積としての持続可能性を再構築する” 取り組みが「中小小売商業の高度化」であり、取り組むべき事業ミックスのうち、「事業概要」で三つに区分されている事業が「中小小売商業高度化事業」である、と言うことですね。
ここからが本論ですが、その前に。
#高度化事業では商店街は高度化できない” という風評について。
正しくは、商店街の高度化=商業集積としての持続可能性の再構築は、”高度化事業【だけでは】実現出来ない】という意味なので誤解無きよう・・。
―幕 間―
このスレッドの内容は、本来なら『商振法』・『大店法』~『中活法』作成以降において、商店街へ高度化事業が提示される時点で済ませておかなければならなかった「前提作業」ですが、今日までこれらの前提作業抜きで高度化事業が取り組まれた結果、近代化、活性化、大型店対策等々が、商店街の商業集積としての高度化の実現というあるべき目的―目標の体系と関係の乏しい、自己目的化した事業として取り組まれている、という現状を提示するものです。
今現在、商店街の「仕舞た屋通り化」を拒否、商業集積としての持続可能性の再構築を志す皆さんには、立場を問わず、是非確認していただきたく、特に商店街活性化の主役である商業者の皆さんには、取り組みを続ける限り、持っていなければならない基本的な知識の一つとして吟味していただきたいと思います。
ここからは(予定外ですが)、高度化事業はなぜ「商店街の商業機能の高度化」に効果を発揮出来ないのか?について。
商店街活性化が迷走、通行量の増大や賑わい創出、はては「まちづくり」と異名同質の取り組みを繰り返している原因の一つ、それも大きな部分を占めている―のが【高度化事業の混乱】です。
①混乱の状況
②その原因
③修正策
について書いてみたいと思います。
※このあたりに関心のある人は少ないかも知れませんが、商店街活性化、まちづくりに【使命感】を持って取り組まれる各位には是非吟味していただきたく。
まずは「混乱の状況」から
高度化事業をめぐる迷走は周知のところですが、我々もこれまでブログやツイッター、このnoteなどでも「商店街活性化、躓きの石は高度化事業」という趣旨で警告を重ねていますが、改善されたという話は管見限り、ゼロ、ですね。
アウガ、エスプラッツその他これに類似する「ハコ物」が竣工当時は「成功事例」と喧伝され、数年経つとほとんど例外なく「失敗事例」に早変わり。
中心市街地・商業街区の活性化を牽引する核店舗という位置づけからいつの間にか転進、市役所分館、子育て支援施設、コミュニティ施設等へ業容大転換。
その間、テナントリーシングも様々に試みられていますが、殆ど失敗。
ついに「商業核」という機能は果たせないまま「転進」が相次いでいます。さらに、のど元過ぎれば何とやら、今なお新しいハコ物づくりが画策されているという話も。
(「転進」は当初の計画が失敗だったわけですが、その総括は一個所も行われていない、すなわち、失敗は〈経験と勘〉になっていない、このことの意味することは何か?考えて見て下さい〉
「高度化事業の現状」は、“ハコ物づくりで商店街―中心市街地は活性化出来ない”ということが定説( ルーティーン)となっているようですが、本当は、「ハコ物無罪・企画有罪」でありまして、高度化事業が悪いのでは無い、その利用の仕方が度しがたいのだ、ということで、高度化事業はなぜ成功しないのか?
②その原因について。
これまで述べてきたことの屋上屋を重ねることになりますが、大事なことなのでもう一度
1.施策の企画
2.事業の位置づけ~利用のあり方、
3.ルーティーン批判
の3段階に分けて検討します。
(本来なら「商店街政策の新たな在り方検討会」クラスの任務です)
1.施策の企画
(1)概 要
①根拠法は『中小小売商業振興法』
目的(第1条)商店街の整備、店舗の集団化、共同店舗等の整備等の事業の実施を円滑にし、中小小売商業者の経営の近代化を促進する
②高度化事業:環境への円滑な適応を促進する
③高度化事業計画:環境変化の見積もりと対策の整合性確保
(2)問 題
①「環境変化」の把握と対策の整合性チェックが不十分
・多種多様な商業施設の展開による集積間競争の質的変化を認識するスキー
ムの不備
・競合する大型店等の実態把握の不十分
・事業を活用して対策を講じる商業者の知見・技術のレベルの把握不十分
②事業計画は環境把握不十分のまま、専門家の指導支援を受けて作成された
が、専門家は独自に環境変化を把握、対策を構想する力量を修得する機会
が提供されていない。
個人の技量研鑽に期待するのは疑問。
2.事業の位置づけ~利用のあり方
(1)前例踏襲ルーティーン
①商店街的「経験と勘」による取り組み事業の選択と先行事例への追随が基
本(商店街活性化全般のルーティーJン)
環境変化の見積もり、事業主体の力量を衡量した上での戦略的事業選択が
行われていない
②商店街活性化、核店舗etcといった、定義の無い疑似専門用語を多用して計
画としての体裁を整えるが、実体はすべて先行事例追随。環境変化への対
応が直面する戦略課題という認識が乏しく、結果、ハコづくり、事業実施
が自己目的化した。
※高度化事業に限ったことでは無い
(2)計画の不備
①極論すると「経験と勘」で事業を選択、先行事例を模倣して事業計画を作
成する、というケースが多そう。
②事業を効果あらしめるためには、上位計画―各種事業ミックスの中に位置
づけ、かつ、所要の知見・技術の修得向上に計画的に取り組むことが必須
だが殆ど行われていない。
③結果として事業終了後に現れるべき成果は殆ど得られず、ハコの場合は、
施設自体の持続可能性も確保出来ずに廃業、転用するという想定外の結果
となっている。
④当事業は高度な環境変化への対応が目的にも関わらず、変化を的確に把握
せずに事業を実施したことが挫折の最大の原因→多くの事例に共通
(3)経験が蓄積されない
①当事業に限らず、商店街活性化は全国の商店街で取り組まれていながら、
その経験とりわけ失敗要因が共有されない。
②事業自体はつつがなく終了したが、商店街の「仕舞た屋通り化」の歯止め
にはならなかった、という事例があまりにも多い。
個別事業の成功モデルはあるが、成功→商業集積としての持続可能性の
維持、再構築への効果の有無については言及が無い。“前車の覆るは
云々”と古諺にあるとおり、失敗事例こそ原因調査を厳にして教訓とすべき
ところ、全く記録、蓄積されていない。
③商店街活性化は、各種事業ミックスの最適推があってはじめて成就するプ
ロジェクトであり、成功事例の無い・前人未踏のプロジェクトして取り組
まないと実現できない性格の課題であるという認識が関係各方面に行き渡
っていない。
商振法―大店法施行以来半世紀、商店街活性化の現状を見るとき、これまでのルーティーン的取り組みのままでは「仕舞た屋通り化」を免れることは難しい。
究極の選択の時を迎えていますが・・・。
以上でタイトルに即した考察はお終いです。
これを踏まえたあるべき商店街活性化のプロジェクトについては、『アドボケイトプラン〈叩き台〉』を作成、目下無償頒布中です。
希望される方はメールで請求して下さい。
takeoquolaid@outlook.jp
『改正中活法』、「経済活力の向上」に関わる事業は高度化事業を筆頭に商店街活性化関連ばかり。「中心市街地の三要件(法2条)」的にも商業街区の商業集積としての持続可能性の維持、再構築はメイン課題です。
衰退趨勢~仕舞た屋通り化趨勢からのブレイクスルーを!
参考:『中活法』改正のキモ
中心市街地活性化の定義:
旧:市街地の整備改善と商業等の活性化の一体的推進
新:都市機能の増進と経済活力の向上
即ち、「商業街区の商業集積としての再構築」から「まちづくり」への転進。
プロジェクトから改善加上へ。
ブレイクスルーからインクリメンタルへ
逆行ですね