商店街活性化、”手つかずの秘境” は個店売場
商業界は、人類の歴史上最古のビジネスと言われますが、その体系的理論的な理解は遅れています。
商学の研究家である三家英治先生は、商業の世界は、産業界でのポジションが低く、後から登場した他のビジネスに次々に抜かれて最下層に位置づけられている、といいます。
引用:三家英治著『要説 商業とは何か』より
学問としての商業学も理論的な体系化は早くから試みられてきたが、ほとんど進歩せず、発展途上国にもなれない暗黒大陸のど真ん中にある未開拓地域のようなものであった。商売と学問は別物と考える商業者は多く、現実の商売は経験と勘に頼り、商業の普遍的な考え方の究明つまり学問には全く関心を寄せなかった。
近年は、商学から派生したマーケティングに母屋を取られた感もあり、若手の商学研究者はマーケティング研究の合間に商学を覗いている、という程度である。
引用終わり
と、三家先生危機感を募らせておられます。先生同様、商業の現実と向かい合える商業理論の構築が商学界の課題だと認識する学者は少数ながら存在します。
商学、商業学といえばもちろん商業の全体を理論的に説明する体系的な知識であり、解明の努力です。商店街活性化の取組に商学系の学者、研究者が招聘されるのは、その体系的な知識をもとにした助言。指導を期待してのことですね。
ところが(これは是非機会を作って是非あなたに直接確認してもらいたいのですが)現在市販されている『商学原論』、『商業を学ぶ』、『商業学』などの教科書類を開いてみるとすぐ分かりますが、商学・商業学関係の教科書、研究書には「売場」がまったく取り上げられていません。
たかが売場、と思われるかも知れませんが、すべての小売業が共通して持っている買い手との接点、唯一の収益を上げる場所、利益の源泉が売場です。売場の良し悪しで店舗の業績、ひいては企業の業績が決定します。
売場即ち、消費購買行動と小売業経営が向かい合う唯一の場所。
この売場についてまったく言及していない、出来ないのが現在の商学、商業学の水準です。
売場はどのような要素で構成されているか?
我々はすべての売場を行使している基本要件、つまりこれらが無いと売場は成立しない、という要件は三つあると考えています。
品ぞろえ・提供方法・売場環境の三者です。
この三者をそれぞれどう作って組み合わせるか、こうして出来上がるのが売場、我々は『業容』と呼んでいます。業容=商いの容(かたち)ですね。
現実の社会に存在しているのはすべて『業容』であり、類似の業容を集めて名づけたのが『業種・業態』です。
たかが「売場」じゃないか、と思うかも知れませんが、とんでもない。
消費購買客が購入する消費財はすべて「売場」で購入されます。
商品が売れる・売れない、は売場のあり方で大きく左右されます。
売場=売買接点を持たない小売業はありませんし、立地、業種業態によってその有りようは千変万化します。
商学、商業学は、小売業にとってアルファであり、オメガである「売場」の解明をなぜスルーしているのでしょうか?
難しくなりますが、商学は商業を理解するための枠組みの構成をまちがえていおるのでは無いか?と思います。
すなわち、商業とは生産と消費を媒介する機能、そのあり方は生産と消費のあり方によって決定される、というもの不足時代特有の考え方が今も商業の理解の基本になっています。
だから、小売業にとって生命そのものとも言える『売場』を解明するという課題を認識することが出来ていないのです。(この項はここまで)
小売業について理解したいこと、「売場」の構造、業種・業態の生成―発展のメカニズム、革新、分化、競争など、商業の動態は売場を理解せずに説明出来ることは何一つありません。早い話、だれでも見ればすぐ見分けられるコンビニエンスストアとスーパーマーケット、ドラッグストアとディスカウントストアの違いを理論的に説明するには売場の理論的な解明が不可欠です。
ところが既存の商学・商業学は売場を理解するという問題式がありませんから、これらの業態の違いを説明することが出来ません。
売場を理解していない、説明出来ないことの弊害は現在取り組まれている中心市街地―商店街活性化の現状に如実に現れています。40年以上に渡って活性化を指導支援してきた商学、商業学ですが、効果を蓄積出来るような有効な指導助言をすることが出来ないまま現在に至っています。
活性化といえば各地で苦戦―撤退が続く再開発―高度化事業で整備された集客の核となることが期待された大型店の惨状が有ります。
いろいろ原因がいわれていますが、共通しているのは、今どきの中心市街地で維持出来る「売場」が作られていなかった、ということです。
本来なら、「中心市街地で成立する核店舗」の売場構成について理論的に解明してベストのテナントミックスを構成すべきところ、ありきたりのテナントで埋めているだけですから、オープンしたかと思えばあっという間に沈没です。
もう一つ指摘しておきますと、今問題になっている「目標数値・通行量」についても、通行量と売場と得意客の関係は理論的に解明されていません。単純に通行量を増やせばそれで売場は賑わうのか、それとも通行量をお客に変貌させるには「売場」に仕掛けが必要なのか?
参画している学者・研究者の皆さんから専門家らしい意見が述べられることはほとんどありませせん。もちろん、商学全般については優れた知見を持たれているのでしょうが、商店街で必要な商学的知識の中心は「売場」に関するもの、商店街活性化=各個店の売場の活性化を実現する具体的な取組についての指導助言ですが、提供されることはありません。
いま商店街活性化に欠けているのは「売場」の活性化を実現する、繁盛を実現するための売場の作り方についての知識と技術です。
知識があれば繁盛出来る、とは限りませんが、知識が無ければ「試行」に必要な仮説を立てることが出来ません。
(ご承知の通り、当社が推進する【キラリ輝く繁盛店づくり】は、売場の理論的解明を【業容論】として提供しています。【品ぞろえ・提供方法・売場環境】の3点セット、三位一体の店づくり、ですね。店舗段階での有効性は全国各地の商業者の皆さん自身の努力で実証されています。
取り組みは、これからがいよいよ商店街活性化、業容革新を点から線、線から面へ拡大する段階ですが、特に、中心市街地―商店街活性化の広範な取組では、商学(売場論)の不在という問題があって、なかなか本丸を攻められない、という状況にあることをしっかり理解し、暗中模索で堂々巡りを繰り返す主流派の動向に惑わされない覚悟が大切です。