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英文法とイントネーション:声域を意識する(第1回)

「日本人は英文法ばかり学んでいるから英語が話せない」

そんな文言を時々耳にします.実際に,私自身を含め多くの日本人は,中学,高校,さらには大学と英文法に触れる機会は多く,英文法を学んでいる人が多いのは間違っていません.しかし,英文法を学ぶことが,英語を話せなくなることに繋がっているとは思いません.むしろ,英文法を学ぶ人が少なくなってしまうと,ますます英語が苦手な人が増えてしまうのではないかと懸念しています.

さて,唐突ですが次の単語はどのような意味だかわかるでしょうか.

permit

簡単すぎると思われましたか.「許可する,許す」と思った人はもちろん正解なのですが,次の音声を聞いてみてください.


そう,アクセントの位置が違いますね.第1音節にアクセントがあるためこの発音では名詞になります.いやらしい引っ掛けクイズのようでしたが,permitという単語を見ただけでは,動詞なのか名詞なのかは判断できません.実際の発音を聞いてみるまでは(または使用されている前後の文脈を参照しないことには),わからないわけです.

さて,このpermit(名詞)のアクセントですが,最初はper-のところから比較的高い音程で始まり徐々に声が落ちてゆき,-mitに至ってはかなり低い音程になっていることがわかります.アクセントはこうした声の上がり下がりで表現されるのですが,この声の上がり下がりのことをイントネーションと言います.イントネーションを適切に操ることで,permitのような同じ綴りでもアクセントの位置によって異なった品詞や意味を持つ単語を適切に表現することができます.動詞と名詞の区別は大切な文法事項ですから,英文法とイントネーションは切り離すことができないことがおわかりになるかと思います.

本稿では,英語を話す技術と大いに関係していると思われるイントネーション英文法といかに関係しているかについてお話ししたいと思います.こうしたことを知ることで英語特有のリズムやメロディーを理解し,リスニング,スピーキング,リーディング,ライティングそれぞれの能力もバランスよく向上させることに繋がると考えています.

第1回の投稿では文法の話を少し置いておいて,イントネーションを操る際に重要となる「声域」についてお話しします.英語で様々なイントネーションを表現するためには,この声域についてよく知っておく必要があります.

声帯と声の高さ

言葉を発する際,私たちの身体の中でどんなことが起こっているか考えたことがありますでしょうか.まず,空気を肺まで吸い込み,今度はその息を吐き出します.息を吐き出す途中で,身体の中とりわけ声道と呼ばれる声の通り道の色々なところで振動や共鳴が起こったり,呼気が阻害されたりしながら言語音声となって口の外に出てきます.単に深呼吸をしてみるだけでは,口から出てきた息は何の意味も持たない呼気ですが,「あー」とか「いー」とか発音をしてみると,日本語でも使われている母音であることがわかります.

この母音を発音する際に,声道で起こっていることを確認してみましょう.人差し指と中指2本を喉仏に当てながら「あー」と発音してみてください.喉仏が振動しているのがわかると思います.このように,母音は喉仏の内側にある声帯という場所が振動して生み出されるのが特徴です.肺から上がってきた呼気を喉仏の内側にあるこの声帯(筋肉のひだのようなもの)で振動させることで母音が生み出されます.また,声帯は母音だけでなく子音(声帯を振動させる子音は有声子音と呼ばれます)を発音する際にも振動します.このように,私たちは話すために不可欠な音声を生み出すために,声帯を頻繁に動かしていることがわかります.

次に,声の高さ(英語では「ピッチ(pitch)」と呼ばれます)について考えてみます.「あー?(⤴︎)」と末尾を上げ調子で発音してみましょう.最初と最後では「あ」の音程が違うことに気づくはずです.実は,言い始め(声が低い)と言い終わり(声が高い)で,声帯の動きが異なっています.つまり,言い始めは比較的ゆっくり声帯が振動しているものの,声を高くするにしたがって声帯の振動は速くなります.このように,声帯を速く動かせば動かすほど声は高くなります.イントネーションとは,こうした声帯の動きを使ったピッチの上がり下がりのことを言います.

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