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英文法とイントネーション:アクセント構造を意識する(第2回)

英語学習に辞書は欠かせない存在です.辞書を使う目的はいろいろとありますが,多くの学習者が頻繁に辞書を使う目的は「意味を調べるため」なのではないでしょうか.さて,みなさんは単語や語句の発音を調べるために辞書をどの程度活用しているでしょうか.「英語を実際に話しながら発音を聞いて覚える」ことができれば理想的ですが,日本で外国語として英語を学んでいる私たちにとって,辞書で発音記号を参照しながら学ばなければならないことも多いはずです.ordinaryという語の発音を辞書で見てみましょう.

or・di・nar・y | ɔ́ːrd(ə)nèri|-n(ə)ri, -nèri |

発音記号を見ると,「最初の母音は/ɔːr/を使うのだな」とか「-naryのところは綴りはaを使っているけど発音は/neri/となっているな」とかいろいろなことが見えてきます.また,綴り字を見てみると,・で区切られていることもわかります.この・は音節の切れ目を表しています.音節というのは英語のリズムを考える上で基本的な単位で,音節数は原則母音の数と一致します(発音記号中に母音がなくても1音節と数えることもありますが,ここではこの話に立ち入らないことにします).手を叩いてリズムを取る際の拍子と考えればいいでしょう.ordinaryは4つに区切られているので4音節の語ということになります.

次に,発音記号の上についている/  ́ /や/  ̀ /といった記号に注目してみましょう.ordinaryの発音記号では,第1音節の母音字の上に,/  ́ /がついています.また,第3音節の母音字の上には/  ̀ /がついています.これらは強勢記号(stress mark)と呼ばれ,比較的強く目立って発音される箇所を示しています.強勢(stress)というのは単語や語句の中で強く聞こえる位置について述べていることばで,その単語でもっとも強く目立って聞こえる箇所には第1強勢があるといい,その音節の母音字の上に左下がりの/  ́ /という記号を付けます(音節が1つしかない語の場合は第1強勢の位置は明らかなので,ほとんどの辞書の表記でこれらの記号は付けないことになっています).また,ordinaryのように音節の数が多くなると第1強勢以外にも目立って発音される第2強勢が現れます.第2強勢のある音節の母音字の上には右下がりの/  ̀ /という記号を付けます.第2強勢のある音節の母音字の上には右下がりの/  ̀ /という記号を付けます.単独で単語を発音した場合,こうした強勢は特別な事情がない限りは決まった場所に現れます.

辞書によっては/ˈɔːrd(ə)ˌneri/のように第1強勢のある音節の前に/ ˈ /を,また第2強勢のある音節の前に/ ˌ /という記号をつけることがありますが,本稿では便宜上こちらの表記にしたがって例を示していこうと思います.なお,「強勢」とほぼ同義で「アクセント」という言葉が使われることがありますが,本稿ではイントネーションに関係する場面ではアクセントという言葉を用いることにします.

ちなみに,日本で使われているアメリカ英語を基本とした英和辞典などでは, | で区切って左がアメリカにおける標準的な発音を,右がイギリスにおける標準的な発音を表すことが多いです(辞書によっては逆であったり,AmEやBrEなどと記載していることもあります).上のordinaryの発音記号を見てみると,イギリスにおける標準的な発音では,第2強勢が表れないことがあることもわかります.

辞書における強勢の表記が理解できたら,ordinaryのような「強勢が2つ以上ある単語」でピッチ(声の高さ)がどのように変化しているのかを確認してみましょう.

第1強勢が第2強勢よりも前に来る場合

第1回の記事「英文法とイントネーション:声域を意識する」では,英語の発音ではピッチが大きく変化するということを簡単に説明しました.Kenのように1音節しかない語では,その音節だけで比較的高いピッチからかなり低いピッチまで声を落としていることがわかりました.また,fashion(2音節語),Washington(3音節語)やmechanism(4音節語)のような音節が複数ある語では,第1強勢のある第1音節とその次の第2音節をまたいで同じピッチ変化が起こっていました.ここでは,上記で述べたような強勢が2つある語のアクセントを,①第1強勢が第2強勢よりも前に来る場合,②第1強勢が第2強勢よりも後ろに来る場合,に分けて見ていきたいと思います.

まずは,第1強勢が第2強勢よりも前に来るordinaryを単独でしっかりと発音した場合(語を単独でしっかり発音することを引用形(citation form)で発音すると呼ぶことにします)を見てみましょう.(注1)

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