2023年はChatGPT元年になるのか
はじめに
年末年始にChatGPTの存在を知り,それ以来毎日のように遊んでいる。何も知らない人のために簡単に説明しておくと,Open AIという会社が開発したAIのchatbot(オンライン上で人間のように振る舞うチャットアプリ)のことだ。
GPTはGenerative Pre-trained Transformerということらしい。情報をどこからかそのままの形で持ってくるのではなく,人との会話のやり取りを通してより人間らしい受け答えができるようになるチャットプログラムということのようだ。
本稿では,僕が年末から年始にかけてChatGPTを使って遊んできた記録を簡単にまとめる。
できること
チャットウィンドウに文字(命令するために打ち込む文字列を「プロンプト(prompt)」をという)を打ち込むと,リクエストに応じた情報を与えてくれる。「〜を作って」,「〜を書いて」とお願いすると,自分で考えて書いてくれる。「魔法のようだ」と思った人も多いことだろう。プロンプトは日本語で入力してもいいし,英語や他の言語で入力してもいい(古英語のような古典語も理解してくれるとのこと)。生成する言語も,「英語で答えて」とか"Write… in Japanese."のような形で指定できる。
会話の生成(日本語)
最初に僕がお願いしたのは「喫茶店の店主同士が喧嘩をしている会話を作ってください」だった(ChatGPTは過去のスレッドがログとして残っているため,遡って確認できる)。以下に生成されたものを貼り付ける。
会話の生成(英語)
なるほど,たしかに喧嘩をしている会話。ただし日本語はぎこちない(英語を直訳した感じの日本語)。英語はどうだろう。「Get out of here!で終わる簡単な会話を英語で作ってください」とお願いした。
すごい,と思った。会話は自然であるし,Get out of here!が「冗談はやめてくれ」という意味で使われているところがいい。cheesy name(安っぽい名前)という表現を使っているのもおもしろく勉強になる。
英詩の生成
詩も作れると聞いたので,お願いしてみた。「英語教師の恐怖」というテーマで,AIに関する懸念を英詩にしてもらった。
韻(rhymes)を踏んだ4行連句(クワトレイン:quatrain)になっている(aabb)。1行は7〜9音節の句で構成されていて,リズムもいい。参考までに僕が朗読した音声を置いておくのでよかったらこちらもきいてみてください。
リズムがいい英文を作れるのは理解できたので,英語の俳句(Haiku)を生成するようお願いしてみた。以下,"Write a haiku poem of the love of ... by not using the word ...(…という語を使わずに…の愛について詠んだ英語の俳句を書いてください)"と指示。それぞれ何について詠んだものだかわかるだろうか(ヒントは「誰でも知っている一般的な飲み物または食べ物」)。答えはこの記事の最後で。
ちなみに,本家の日本語の俳句を作ってほしいとお願いしたら,五七五のモーラ拍リズムの縛りをいまいち理解しておらず,ダメだった。
単語から例文を生成
僕は英語教員なので,特定の単語や表現を使った英文を考えなければならないということがしばしばある。この作業は,英語の非母語話者(以下「ノンネイティブ」とする)はなかなか大変で,妥当で信頼性のある英文を生み出そうとするならば,信頼できる英語の母語話者(以下「ネイティブ」とする)に確認してもらう必要があったりする。英語力が非常に高く,十分に英文の良し悪しを判断できる人ならばこの限りではないが,それでも少し心配なので,テスト問題などを作成する際はそういう人たちに尋ねることに越したことはない。
ということで,僕が最近多用しているプロンプトは"Write five sentences which include the word (or phrase) …(…という語(または句)を含む英文を5つ書いてください)"だ。以下,英検1級などの試験で登場するinfiltrate(〜に潜入させる;〜に潜入する;〜に浸透する,しみ通る)という語を含む英文を5つ生成してもらった。
どれか1つ選んで教材に使ってもいいし,「〜に浸透する,しみ通る」という意味を含む英文がないので,もう少し具体的に指定して,さらに英文を生成してもらってもいい。Write a few more sentences, this time along with the word "water".と追加でお願いすると,最終的に以下のような英文も得られた。
英文を考えるのは,英語教員として大切な仕事。積極的に活用したい。
単文から状況を生成
僕はNetflixで海外ドラマを見ることが多い。日本語の字幕をつけてざーっと見てしまうことも多いが,英語教員なので,原文のセリフのニュアンスを知りたいという気持ちから英語の字幕にして見ることも多い。よく「英語教員をしている」というと,「英語の海外ドラマや映画は字幕なしで理解できるのか?」と尋ねられることが多いが,英語圏で長く生活した経験のある人でないとできない場合がほとんどなので,Language Reactorなどのアプリを使って字幕を駆使して見ていることが多い。
簡単に言うと,聞き取れないセリフと遭遇することが多く,そのほとんどの場合は,表現を知らなかったり,その表現の使用場面に立ち会ったことがないために生じていることが多い。先日,Locke & KeyというNetflixのドラマを見ていたら,"Looks like we're gonna need to up the ante."(Locke & Key, Season 3-7)というセリフを聞いている時にこの問題が生じた。up the anteとは元々は「ポーカーなどの掛け金を釣り上げる」という意味で,「リスクを冒して作業の水準を上げる」という意味で使われる表現であるが,最初聞いた時は全く理解できなかった(anteという語の発音 /ˈænti/も知らなかった)。
「なるほどよくわかった」とここで終わりではなく,英語教員ならこのセリフが使われる別の状況をもう少し知りたいと考えてしまうところ。ChatGPTにお願いして,会話文を生成してもらった。プロンプトは"Looks like we’re gonna need to up the ante. Write a dialogue which includes this sentence."と書いた。以下が生成された会話文。
当該の表現だけでなく,他にもfall behind, turn A around, push the product line, put one's best foot forward, let this quarter slip awayなど,英語教員としては気になる興味深い表現がたくさん使われている。言語使用場面まで生成できるというのは,英語教員としては積極的に利用していきたいプロンプトだ。
さいごに
こんな感じでChatGPTと遊んできた。僕が試してみたのは,個人的に仕事で便利そうだなと思ったことや遊び心。これはまだまだChatGPTができることのほんの一部だろう。
噂によると,英文エッセーのルーブリックを評価付きのサンプルエッセーとともにプロンプトに入れれば,それなりの採点をしてくれるらしい(関西大学の水本篤先生のTwitterより)。これが本当だとすると,英作文の採点は,人の教員が行うブレのある採点基準よりも信頼性のある採点方法が得られることになる。
気をつけないといけないのが,ChatGPTのアプトプットには間違いもあるということだ。なので,生成されたアウトプットを100パーセント鵜呑みにして信じてしまうことは推奨できない(参考:Togetter「ChatGPTは基本、「アウトプットが正しいかどうか判断できる」人しか使えない。」)。
周りの人に勧めてみてわかったのが,英語があまり理解できない人は,英語が理解できる人と比べて,ChatGPTの魅力はいまいち伝わりづらいようであった。プログラミング言語(コード)も書いてくれるというらしいから,SEの人たちも重宝している人は多いのだろう(SEの中でも英語ができる人は特に)。
現在は無料で公開されているが,利用者が増えてきたからか,使えなくなってしまうことが頻繁にある。僕は月額1万円くらいなら払ってもいいと豪語していたけれど,国が大きな投資をして一般庶民がアクセスしやすいようにインフラを作ってくれたらいいなとも感じる。とある筋によると,月額$42(約5,500円)というプロフェッショナルプランが登場するとかしないとか(Sangmin.ethさんのTwitterより)。
いずれにせよ,2023年は,ChatGPTをはじめとするAI技術と連携したサービスがこぞって各業界から登場しそうだなと感じさせる年末年始だった。2023年はChatGPT元年になるのだろうか。
英語の俳句の問題の答え
a) ice cream b) coke c) coffee d) beer e) sake (Japanese alcohol beverage)