モリカとあみとなぎさで、ソータのお部屋に行ってきちゃった❤️
なぎさは、久しぶりにソータのお部屋に行ってきた。
それもひとりじゃなくって、バイトの子 モリカと、モリカが好きな子 あみと三人でね。
なぎさとソータの関係、モリカもあみもフシギ不思議マカ不思議だっていうんだもん。
ふたりはソータに会ってみたいっていうもんだから……..。
ソータに連絡したら、ソータはびっくりしてた。女の子三人がやってくるってことじゃなくってね。
「なぎさにお友だちができたんだね。この前、モリカさんの話は聞いたけど、そのカノジョ(?)のあみさんまでもお友だちになったんだね。」と不思議がってた。
表玄関じゃなくて、西の端にある小さな木戸をあけて、お隣との間にある植え込みに沿って、北に進むと、ソータのお部屋の入り口があるの。
ソータのお部屋は、母屋とつながっているいるようだけど、詳しくはわかんない。
なぎさに続く華麗なる少女姿のモリカが「こんなとこに住んでんか。ボク、想像していたとこと全然違うな。てっきりアパートかマンションの一室だと思ってたよ」
その後ろに続くボーイッシュな出立ちのあみが「わたくしの記憶にもございませんわ。木造のお家の一角、離れっても言えないけど、なぜか、記憶にないのに昭和というラベルがピッタリきそうね」と言う。
なぎさは入口のドアノブに手をかけると、いつものように鍵はかかっていませんでした。
「ノック、なさらないの?」とあみはびっくりした表情でなぎさに聞いた。
「うん、そう。ソータがね、いつもあいているから自分がいなくても中で待っててっていうの」
モリカは、ニヤニヤしながら「ボクには理解できないんだ。なぎさとソータさんの関係……」とつぶやいた。
いつもだったら何にも言わず、なぎさはお部屋にあがっちゃうんだけど、きょうは初めてお友だちを連れてきたので、声を出した。
「ソータ!来たよ。モリカとあみ、いっしょだよ」
奥からソータの声がした。
「いらっしゃ〜い。適当に上がって、狭いところだけど、遠慮せずにね」と。
なんかソータの声は、いつもより声が明るく、微笑みがのって聴こえてきそうな感じだった。
あみが「これ、どうぞ」と言って、大き目のクーラーバックから取り出し、ソータに手渡したのは「生ドーナツ」の詰め合わせだった。
モリカは、「あああ、自分の好きなスイーツをお土産にしたな」と思ったが、口にはしなかった。
ソータは、うれしそうな顔してそれを受け取り、「コーヒー、好き? すぐに淹れられるけど。それとも、紅茶がいい?」
ソータとなぎさはコーヒー党、はてさてあみとモリカは何と答えるかな。
「ボク、コーヒーがいいです」とモリカ。
「よかった!きのう買ってきたばかりのフォレスト・コーヒー、淹れようと思ってたんだ」とソータ。
あみは一瞬、顔を曇らせたけど、すぐに顔晴れやかに「わたくしもソータさんの入れてくださるコーヒー、いただきたいわ〜」とお願いモードになって言った。
なぎさは、ソータの淹れてくれるフォレスト・コーヒー、大好き。
「よかった。あみが大好きな生ドーナツとソータの淹れるコーヒー❤️」
ソータが奥で、コーヒーを淹れている間、モリカもあみもお部屋の中の本棚を眺めていた。
「何これ、この本の数!」
「すごいわ、個人のお宅でこんなにご本を所蔵されているの、初めて見たわ」
「これでも減ったそうよ。本や資料のお片付けで大変だったみたい」
「ソータさん、なぜ、ご本を整理なさってるのかしら」
「こんなにたくさんの本、趣味で集めてたんじゃいよね」
「なぎさもよくわかんないけど、今まで大学の講義に使っていたり、研究に必要だったりした本だったそう」
「ええ、それじゃ、ソータさんは大学の先生じゃなくなったってこと? もうご研究もなさらないのかしら」
「ボク、大学に行こうと思ってないし、研究ってのも知らないからよくわかんないな。高校出たあと、どうするかって迷ってる」
「わたくしは高校を卒業して、大学に行きたいと思っているわ。でも、その先が心配だわ。学費が高いし、たとえ奨学金がもらえたとしてもそのあとがね……」
「そうか、モリカもあみも今高校生なんだ。 そんな話したことなかったね。まあ、最近出会ったばっかしだったしね。」
ソータが奥から大きなトレンチにコヒーカップ4つとソーサーを4枚重ねて持ってきた。
本棚に囲まれたお部屋の中央のテーブルに置き、並べると、ソータは再び奥に戻り大きなサイホンに入ったフォレスト・コーヒーを持ってきた。
「ええ、これ何? 何?」とモリカはびっくりしながら、はしゃいで見せた。
「よくあるコーヒーメーカーじゃなくって、サイホンで淹れていらしゃるんですか?」
「初めて見た。コーヒーったら、インスタントか、せいぜいひとり用のドリップバッグでしか淹れたことないし」
「なぎさもそうだったの。お家にコーヒーメーカーあったけど、洗うの面倒になって使わなくなっちゃってた。ソータのお部屋に来るようになって、サイホンで淹れてくれたフォレスト・コーヒーの虜になっちゃったの❤️」
カップにコーヒーをそそぎつぐと、フォレスト・コーヒーの香りに包まれていった。
そして、ソータが「コーヒーをどうぞ。あみさんでしたね。お持たせの生ドーナツもいただきましょう」と言うか言わぬか間に、あみは「左手で生ドーナツをつかみ、右手にコーヒーカップを持ち上げ、口をつけた。
あみは、コーヒーを少しすすると、カップを持ったまま、左手の生ドーナツに被りついた。「うわああ、美味しいコーヒーだこと、生ドーナツにびったりですこと、わたくし感激!」と言い放った。
わたくし言葉で上品な言葉づかいをしながら、右手にコーヒーと左手にドーナツと両手づかいのあみ、ボーイッシュな出立ちにぴったしだった。
華麗なる少女 モリカは、「ソータさん、ボク、初めてコーヒーが美味しいこと知りました。ありがとうございます。ボクの大好きなあみ❤️ あみの大好きな生ドーナツもきょうは格別だったね」と、ソータの顔を伺ったり、あみのうれしそうな顔を伺ったりしてる。
その情景を眺めているソータの顔は、いつになく晴れやかな顔をしていた。
そして、ソータはコーヒーを一口すすると、何やら話し始めた。
「さっき、私の話をしてたね。大学の先生じゃなくなったことや研究をしなくなったこととか…….。」
あみもモリカもドーナツやコーヒーカップを置くと、ソータの顔を見た。
なぎさは、以前、お互いの過去や未来について話し合ったことがある。
あみやモリカにいったいどんな話をするのだろうか。
なぎさは、コーヒーカップを持ったまま、ソータの次の言葉を待った。
このあと、どんな話になっていったのか、ここで書き続けるのには少し考える時間が欲しいな、と思うなぎさでした。
そうそう、これだけは書いておこう。いや書いておかなくちゃ。
きょうのカバー写真のこと。
くろねこさんとしろねこさんがケンカ寸前の絵。
これはね。ソータのお部屋の本棚にあった本、この前、借りてきた、松山猛さんの『少年Mのイムジン河』(木楽社,2002年)という本の挿絵なんです。
この挿絵も松山猛さんがお書きになったようです。文章だけじゃなくって、挿絵もご自分でお描きなるなんて素敵ですね💓
この本は、20年以上も前に出版された本で、昔、放送禁止になったらしい「イムジン河」という曲の作詞者だった松山猛さんの本です。