7 Epigenetics of lupus エピジェネティクス
Dubois 7章はエピジェネティクス
Pearl: エピジェネティクスはEpi はギリシャ語の「ἐπί(epi)」「上に」「超えて」「周囲に」といった意味と、Genetics は「遺伝子」を合わせたもので、遺伝子の外側、周囲にあるメチル化などによって遺伝子の発現が調整される仕組みを意味する。
・SLEでもDNAの過度の低メチル化やヒストン修飾の異常が免疫細胞において報告されており、これが自己免疫反応を引き起こす原因の一つとして研究されている。エピジェネティクスを理解することで新しい治療法の開発が期待される。
・DNAメチル化は、エピジェネティック修飾で最も研究されている。DNAメチル化はジヌクレオチドCpG部位にあるシトシン(5-mC)残基の5′位で起こる。つまりCpG部位のシトシン残基にメチル基が付加される現象をDNAメチル化という。
・メチル化は遺伝子間領域や繰り返し配列で主に進んでおり、SLEのプロモーター領域などではメチル化が抑制されている(低メチル化)。
Pearl: DNAメチル化はクロマチンをコンパクトにし、転写因子の結合を妨げ、遺伝子の発現を抑制する。
Comment: Generally, DNA methylation is involved in gene silencing by compacting chromatin conformation and affecting transcription factor binding, inhibiting gene transcription.
・メチル化されたDNAは、特定のタンパク質が結合してクロマチン構造を変えますが、メチル化されていない部分は遺伝子発現を促進する構造をつくる。メチル化はDNMT1やDNMT3A、DNMT3Bなどにより制御される。DNMT1は既存のメチル化を維持し、DNMT3AとDNMT3Bは新たなメチル化を確立し、TETファミリー酵素は脱メチル化を引き起こす。
※つまりDNAのメチル化は遺伝子発現を抑制させ、逆に低メチル化は遺伝子発現が促進される
Pearl: SLE患者のT細胞、B 細胞、単球、樹状細胞、好中球、間葉系幹細胞など様々な細胞で全体的なDNAの低メチル化パターンが見られる。
Comment: A pattern of global and site-specific DNA hypomethylation in various cells is found in SLE patients, including T cells, 6 , 7 B cells, 8910 monocytes, 9 dendritic cells (DCs), 11 neutrophils, 12 and mesenchymal stem cells
SLEにおけるDNAメチル化異常と遺伝子発現
・5-アザシチジン(5-aza)やプロカインアミドなどのメチル化阻害剤で処理したマウスT細胞が自己反応性を示すようになり、インターロイキン(IL)-4、IL-6、インターフェロン(IFN)-γを分泌し、自己抗体とループス腎炎(LN)を誘発された。
・メチル化異常は、免疫細胞の活性化、インターフェロン刺激遺伝子(ISG)、自己抗体産生、組織損傷などの炎症過程に関与する遺伝子の異常発現を引き起こす。
・しかし、SLEでは、IL-2、Foxp3、CD8A、CD8B、Notch 1、グルココルチコイド受容体(GR)の高メチル化も認めており、かなり複雑なDNAメチル化パターンである。つまり免疫細胞は概ね低メチル化パターンだが、メチル化が促進している部分もあるという。
Pearl: 重症のループス腎炎のpDC( 形質細胞様樹状細胞)は全体的にメチル化は増えている
・SLEは概ね低メチル化によりある種の遺伝子の発現が亢進するが、逆にメチル化が増えている部分もある。しかもそれが、pDCのところ。
・pDCの遺伝子あたりを勉強したければ第四章
Pearl: 免疫複合体がpDCs(plasmacytoid dendritic cells)により取り込まれると、細胞内のTLR7やTLR9が核酸に反応しインターフェロン調整因子(IRF3、IRF5、IRF7)を活性化し、IFN-α、IFN-βおよび他の炎症性サイトカインの発現を誘導する。
自己抗原→自己抗体→(免疫複合体)→pDC→type1インターフェロン活性化→JAK/STATの流れ
https://note.com/takenouchi14/n/nd3589a2b3307?magazine_key=mf7e35ac2aecd
・そのpDCは全体的にメチル化が増えているってこと。うーん、なぜだ。
次はSLEにおけるヒストン修飾。ヌクレオソームとヒストンとクロマチンの復習。
※ヒストンにDNAが巻き付いたものをヌクレオソームという。ヌクレオソームはクロマチンの単位(ヌクレオソーム∈クロマチン)で、ヌクレオソームは、146塩基対のDNAに囲まれたヒストン8量体で構成されているのがクロマチン。
・このヌクレオソーム構造により、DNAが非常にコンパクトに折りたたまれ、細胞核内にDNAが収納されている。
・エピジェネティクスとの関係では、ヒストン(ヌクレオソームの芯みたいなもの)はその表面に化学的な修飾を受けることで、遺伝子の発現を調節する役割をはたしている。
・ヒストン8量体の外側に突出したヒストンのN末端には、アセチル化、メチル化、ユビキチン化、リン酸化、SUMO化、アデノシン二リン酸リボシル化、脱アミノ化、プロリン異性化など、さまざまな翻訳後修飾がある。これらの修飾はヒストンとDNAの相互作用を変化させ、クロマチンの弛緩や凝縮に影響を与え、DNA複製、遺伝子転写、選択的スプライシング、DNA修復に関与する。
….さらに続くが難しくてちょっとスキップ。高校時代物理化学選択で、大学で統計物理学をやっていた俺としては....筆が進まない
Pearl: ループス素因マウスは(lupus-prone mice)、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤であるトリコスタチンA(TSA)によって、グローバルな低アセチル化を認めたヒストンH3、H4が是正され、疾患は改善した。
Comment: First identified in lupus-prone mice, global hypoacetylation in histones H3 and H4 were evident in MRL/lpr mice splenocytes, which can be corrected by histone deacetylase inhibitor trichostatin A (TSA) and disease improvement.
※脱アセチル化酵素阻害薬、二重否定なので分かりにくいが、つまりアセチル化を促進するとよくなった、ということ。
※DNAも概ね低メチル化であり、ヒストンも概ね低アセチル化、というのがSLE、ということ?
・ヒストンのアセチル化は、SLEにおける修飾の中で最も研究されているものである。ループス素因マウスで初めて同定されたMRL/lprマウスの脾臓細胞では、ヒストンH3およびH4のグローバルな低アセチル化が明らかであり、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤であるトリコスタチンA(TSA)によって是正され、疾患が改善した。
※ヒストンH3、H4は4種類のコアヒストン(H2A、H2B、H3、H4)
・またTSAはループスT細胞におけるCD154(CD40L)、IL-10、IFN-γの偏ったアセチル化の発現を是正する。
・同様にMRL-lpr/lprマウスにヒストン脱アセチル化酵素阻害剤を投与すると、IL-6、IL-12、IL-10、IFN-γの発現が減少し、腎疾患が改善した。
※つまりヒストンをアセチル化をすると免疫が抑えられループスが良くなるかも、という話。
※SLEの単球ではグローバルなH4(ヒストン4)変化が見られ、増加したH4acの63%がIRF1によって制御されている可能性があり、SLE発症におけるIFNの役割を裏付けている。 ループス患者のCD4 +T細胞でも、全体的なH3/H4低アセチル化が確認され、ヒストンH3アセチル化の程度は疾患活動性の増加と負の相関があった。
Pearl: 薬剤性ループスのヒドララジンはDNAメチル化阻害剤であり、DNAメチル化を阻害することで、自己反応性T細胞やB細胞が活性化されることにより自己抗体が産生されることにより、ループス様の症状が引き起こされる。
comment: Autoantibody against histone is a hallmark of SLE, particularly for drug-induced SLE (such as the DNA methylation inhibitor hydralazine), supporting the role of the dysregulated DNA-histone structure in SLE pathogenesis.
・低メチル化によりループスが引き起こす、といういい例。薬剤性ループスは抗ヒストン抗体が関連しており、SLEの病態とDNAヒストン構造の関連を裏付けている。これは恥ずかしい話、知らなかった。
Pearl: ゲノムワイド関連研究(GWAS)により、何千もの疾患関連遺伝子変異が同定されてきたが、驚くべきことに、GWASのバリアントのほとんどはゲノムのノンコーディング領域であった。エピゲノム解析によると、ノンコーディング遺伝子変異の大部分はエンハンサーに濃縮されており、これらの変異がエンハンサーの機能を調節して遺伝子の発現を制御している可能性が示唆されている。
Comment: Genome-wide association studies (GWAS) have identified thousands of disease-associated genetic variants. Remarkably, most GWAS variants are in the noncoding regions of the genome. Epigenomic analysis indicates that the majority of noncoding genetic variants are enriched in enhancers, suggesting these variants might regulate the enhancer function to regulate the expression of genes.
なんと!疾患関連遺伝子変異の多くはノンコーディング領域であり、そのほとんどはエピジェネティクスのエンハンサーの部分であった。つまり、遺伝子変異によりエピジェネティクスな部分の転写促進機能に異常がでることが問題である、ということ。そういえば高校の同級生に10年ぐらい前に会ったとき、エピジェネティクスを研究していると言っていたことを思い出した。そのときは、遺伝子の上(epi)??? と聞いて、そんな感じという回答をもらった記憶がある。あー恥ずかしい。
・Duboisはここから3Dゲノム、RNA Modification, miRNA、IncRNA、CircRNAなどがでてくる。どれも全く聞き馴染みがない。やばい、ので3Dゲノム、RNA Modification, miRNA、IncRNA、CircRNAについて少し勉強をしておきます。
さて、
SLE治療のターゲットとしての3Dゲノム
・最近の研究で、SLEのリスクSNPは、3Dゲノムを通して疾患クリティカル遺伝子の発現を制御するエンハンサー内に位置することが示された。エンハンサーの細胞型特異性に基づけば、疾患関連エンハンサーは、疾患関連細胞型における疾患重要遺伝子発現を制御することで、的確な治療を実現する新規治療標的として機能する可能性がある。例えば、rs2431697エンハンサーを標的としCRISPR-SAMは、SLE患者のPBMCにおけるIFNスコアを効率的に低下させた。
疾患関連遺伝子変異の多くがノンコーディング遺伝子変異のエンハンサーであるため、このようなエンハンサーを介した治療法についてはさらなる報告が期待される。
…. 頑張って読んだがいろいろスキップ。
実践的には、エピジェネティクスがバイオマーカーとして使えるか?
Pearl: SLEの診断や病勢評価のためにDNAメチル化やヒストン修飾、ncRNAにおけるいくつかの変化が参考になるかもしれない
Comment: Like a plethora of autoantibodies and molecules that serve as SLE biomarkers to facilitate diagnosis and disease status assessment, several alterations in DNA methylation, histone modification, and ncRNAs correlate with SLE global disease activity and specific organ involvement.
・SLEでは、自己抗体やさまざまな分子がバイオマーカーとして使用されているが、エピジェネティクスの変化、特にDNAメチル化、ヒストン修飾、非コードRNA(ncRNA)も、病気の活動性や臓器障害と関連しているためバイオマーカーとして使用できるかもしれない。
・プロテオミクスやトランスクリプトミクス(RNAシーケンスなど)、全ゲノムシーケンスデータと統合され、複数のデータセットを比較してクロスバリデーションやマルチオミクス解析が行われており、これにより、SLEの理解がさらに深まり、より精度の高い診断や治療法が期待される。
・これらのエピジェネティックなバイオマーカーを臨床的に使う利点はいろいろある。
長期的な安定性:エピジェネティックな変化は、血清や血液、尿から得られる細胞外小胞(リキッドバイオプシー)や組織サンプル(新鮮、凍結、ホルマリン固定されたものなど)で長期間安定して検出することができる。
迅速で信頼性の高い検査方法:エピジェネティックバイオマーカーは、最新の技術を活用して迅速かつ正確に測定できる。具体的には
DNAメチル化の測定(MeDIP-seqやBS-seq)
ncRNAの測定(lncRNA、sRNA、circRNAなどのシーケンス)
クロマチンアクセシビリティの測定(DNase-seqやATAC-seq)
ヒストン修飾の測定(質量分析)
RNA修飾の測定(m6A-seq)
クロマチン-クロマチン相互作用の測定(4CやHi-C)
Pearl:現在使われている薬剤にもエピジェネティックな調整に関与した作用機序がある
Comment: Despite the complexity of global and site-specific epigenetic dysregulation in SLE, several attempts have been made to manipulate epigenetic dysregulation broadly and specifically 268 in SLE, and mechanisms of action related to epigenetic regulation have been identified in current medication used in SLE
・一卵性双生児のエピゲノム研究によって明らかなように、SLEの疾患の特徴は、ヒストン修飾やncRNAと同様に、DNAメチル化がSLEのバイオマーカーや治療標的として病原的な役割を果たし、応用される可能性があることを裏付けている。
・しかし、SLEにおけるDNAメチル化とヒストン修飾の調節異常には、様々なメディエーターや環境因子が関与しており、特定の細胞や組織における特定のエピジェネティックな事象によって調節される特定の遺伝子の発現や活性は、非常に複雑である。
・SLEにおけるエピジェネティックな調節異常はグローバルで部位特異的な複雑である。しかしそれでもSLEにおけるエピジェネティックな調節異常を、特異的に操作する試みがいくつかなされており、SLEで現在使用されている薬剤にもエピジェネティックな調節に関連した作用機序が同定されている。
・SLEにおけるRNA修飾や3Dクロマチンの潜在的治療部位を標的とした低分子化合物に関する研究はほとんどない。
最後に...
SLEに対してより安全で効果的なエピジェネティック治療薬を開発するには、複雑なSLEの病態におけるエピジェネティック修飾の役割をより包括的に深く理解し、特定の部位により選択的に薬剤を投与する必要がある。そんな薬剤がでてくるかもしれない、と思うと非常にワクワクするのである。
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