THE SECOND 〜漫才トーナメント〜 2024を観て思ったこと
今年もめちゃくちゃ最高の大会になっていた THE SECOND 〜漫才トーナメント〜 の感想を書きます。
大会の正式タイトルとして、〜漫才トーナメント〜 ていうめっちゃシンプルなサブタイトルついてることを昨年書いた感想を見返して気づき、そういえばそうやったなぁと思い、2024はその後に付くんやと思いました。
【観る前に思ったこと】
ザセカンドに関しては、前回(初回)の時点でひとつの賞レースとして完成されていて、もう今更運営面でとやかく言うことはないって思ってはいたけど、やっぱり今年もノックアウトステージからめっちゃ良くて、最終的に審査するのは観客であり人間なので、どうしても一切ブレないってことは有り得ないものの、少なくともそれ以外の点においてはかなり公平性を保てるように運営されていると思われて、安心して観られました。
昨年からの審査の変更点として、今年はトーナメントで対戦する2組が終わってから審査をすることになり、昨年は1組終わるごとの審査だったので先攻に対して様子見で3点満点をつけにくくなりがちだったのが改善されたので、必ずしも先攻が不利ということは今年は無かったように思います。
ただ、その一方で、2組観終わってからの採点は自然と「相対評価」になりがちで、昨年の審査傾向より明らかに「両組3点」じゃなくて「3点と2点」という付け方をする人が増えた気がして、昨年のように僅差での勝敗というのはつきにくくなったように思うし、勿論勝った組は高得点出るけど負けた組が実際の面白さほどの点数がつかない、という傾向が新たに生まれたように思います。まぁこの点は、運営側の努力というよりは、審査員をする観客側の意識の問題だと思うし、勿論審査員全員が絶対評価を意識して且つ優しい気持ちで両組3点つけてしまったら、300対300でドローの試合結果しか生まれないので、ある程度の比較は必要だと思うし、これはもう審査員に選ばれる観客側のリテラシーに委ねるしかないので、引き続き見守りたいところです。
既に前段が長くなってる中申し訳ないんですけど、もう少し前段を引き伸ばして、ノックアウトステージの軽感想も残させてください。やっぱりザセカンドは、勿論地上波全国ネットでやる本戦も最高に面白いけど、ノックアウトステージから本当に面白くて、これが有料だけど配信で誰でも観られるっていうのが本当に有り難いです。これが昨年は見逃し配信なかったからツラかったけど、今年から短いけど見逃しがあったから、本当に有り難すぎましたね。
やっぱりザセカンドはタイマン形式のトーナメントだからこその観応えが魅力である分、本戦はどうしても組数がかなり絞られるので、そこに至らないノックアウトステージ敗退の中にも、観逃したくなかった場面はいっぱいあって最高でしたね。それこそ大師匠ザ・ぼんちの、あの芸歴とは思えない荒々しい漫才をかましながらの6分きっちりで終えるプロすぎる時間管理、そして審査で1人だけ1点が入ったことへのまさと師匠の魂の「いらっしゃる…」発言はめっちゃシビれましたし、それこそ今のザ・パンチの衝撃を世間より少し先に知ることにもなったし、ランジャタイがめちゃくちゃおもろかった上で暴れすぎて大タイムオーバー且つ1点10人超えの大敗北とか、32→16でのかもめんたるの激面白過ぎる漫才、囲碁将棋の決して衰えていないソリッドな漫才、ロビンフットの骨折活かし漫才、インポッシブルvsななまがりの最高の一戦、その後16→8でのななまがりの1点も3点も多いある意味最高の勝ち上がり方、等々マジで名勝負名場面ばっかりで、正直ノックアウトステージ観てないお笑い好き、賞レース好きの方、マジで勿体ないです。ちゃんとお金と時間使う価値がありまくるのが、ノックアウトステージです。
ノックアウトステージの面白さに比例して前段が長くなってしまいました。次から、グランプリファイナルという名前の本戦トーナメントの感想です。
【グランプリファイナル 一回戦】
ハンジロウ vs 金属バット
1戦目からまさにザセカンドでないと観られない対戦カード、出自から芸風から全然違う2組の対決で、めちゃ面白かったです。
ハンジロウはノックアウトステージでザ・ぼんちを倒した勢いもあり、流石の面白いネタでトップ出番から堂々とした仕上がりでしたが、金属バットのこの1本目は完全にめちゃくちゃ出来良くてウケも上回ってて、納得の高得点勝利だったと思います。
金属のこのネタ、かるたであ行からボケを並べていくっていう、スタイル的には全然オーソドックスというか寧ろオールドスタイルとでも言えると思いますが、そこに大阪のイヤな部分を煮詰めたようなあるあるを、決して食べやすく下処理することなくダイレクトにぶち込んだ感じが、金属の見た目や口調の危なっかしさに見事にマッチしてて、強い笑いになってましたね。何よりこれを『大阪“交通安全”かるた』と称してるところが最高で僕は大好きでした。
金属は、個性抜群の芸風だしネタのテーマや中身のワードで全然危ないことも平気で言うのに、あくまでも漫才のスタイルはしっかりしたしゃべくりってのが、ギャップの魅力もあり、最高っすね。
そしてハンジロウのこの『元嫁カフェ』の漫才については、ちょっと個人的に思うところがあって、このネタお笑い詳しい方なら見たことあると思いますが元々コントで、別にコントのありネタを漫才に落とし込むことは何にも悪いことないんですが、このネタの設定となる「元嫁カフェ」てのが、漫才コントとしては特殊な設定というか、これ自体がボケになってるようなものなので、漫才としての掴みの喋りのところからコントインするところで完全に世界観がぶつ切りになってしまって、漫才としては見にくくなってしまった印象を受けました。
ちょっとこの話題はこれだけで長文の記事書けてしまうのでここで深くは掘り下げないですが、設定自体が凝ってて設定バラしで笑いをとれるようなコントは、漫才に焼き直すとどうしてもコントインの手前で野暮な説明を入れざるを得ないか、説明を省くとコントインでぶつ切れ感が出て漫才として見にくくなるかで、コントとしての完成度が高いほど漫才で見ると劣化版に感じてしまうような気がします。僕個人の感想ではあるけど、設定が凝ってたり斬新だったりするのはしゃべくりの方が合ってて、漫才コントの場合あくまでも設定、シチュエーション自体は比較的わかりやすい現実的なものの方が見やすいと思ってます。そういう意味で、昨年のM-1の真空ジェシカの『Z画館』は、設定のぶっ飛んだ漫才コントだったけど、この設定に入るまでにめちゃくちゃ端的な説明が、笑いもとりつつ無駄なく行われてて、別格の凄さがありました。逆に言うと、これくらいのことしないと、設定そのものの非現実性が軸になるコントを漫才でやるのは、なかなか難しいように僕は思います。
ラフ次元 vs ガクテンソク
2戦目は、いつの間にか“ある言葉”として当然のように使われ出した「関西ダービー」でしたが、更に芸歴も1年違いで同時期に同じ劇場で活動してきた、近すぎる存在同士の対決ということで、僕みたいに大阪吉本ずっと好きで追ってきてる者からすると激アツすぎるし、純粋にハイレベルなしゃべくり漫才対決でもあって、めちゃくちゃ面白かったです。
ラフ次元は昨年のノックアウトステージでギャロップに1点差で負けたときのネタで、名刺代わりにもなりながら構成と技術の熟練さで唸らせることもできる、しゃべくり漫才としてめちゃくちゃ良く出来たネタだと思います。まぁ素の自分たちの話をしているようで創作の設定だったりタンクトップだったり、やや強引というか都合良すぎる展開のさせ方な部分もあるにはあるけど、そこの演じ方がしっかり上手くて個人的にはあざとい印象もあまりなく、マジでめっちゃ面白く仕上がってました。単純に後攻のガクテンソクがもっともの凄いしゃべくりを見せつけてきたので、結果としては仕方ないかなぁと思いますが、点数は全然もっと高くてガクテンソクと接戦になるくらいまでついてほしかったと思ってます。
そんな仕上がってたラフ次元に勝ったガクテンソク、今年のノックアウトステージからずっと思ってましたが、言い方アレだけどまさにあの頃の最強のガクテンソクが戻ってきたという感じでえげつない仕上がりっぷりです。この1回戦もほぼノーミス減点なしのどえらいしゃべくり、しかもネタの主軸が「東京進出して国分寺に住む」ていう、リアルのエピソードが起点になって話が広がっていく展開が、めちゃくちゃ面白いラジオのオープニングの神回みたいで、これこそしゃべくりとして理想的なかたちという感じで、めちゃくちゃ面白凄かったです。何と言っても奥田のツッコミの速度と角度が本当エグくて、初っ端の国分寺を「転勤」と言い捨てるのとか、「事故じゃなくて怪我」とか、これぞ奥田の真骨頂という最適ルート最短経路のツッコミが出まくっててシビれまくりでした。しかもこのネタ、本戦候補ではあったけど直前までやる予定してなかったところ、1戦目の金属の大勝ちを見て強いネタを温存しようとして急遽やることにしたらしいけど、そんな土壇場で決めたとは思えないくらいの完璧な仕上がりだったし、流石にこれで負けるわけないですね。
あと何気に、東京来てまだ2年目でここまで国分寺っていう東京ローカルすぎる要素をイジる漫才が仕上がってて、国分寺のイジり方をしっかりモノにしてるの、漫才師としての腕ありすぎてマジでエグいです。
ななまがり vs タモンズ
2戦目の関西ダービーに続いてこちらも、東西の同期であること以上に深い関係性がある者同士もとい戦友という感じで、個人的には本戦1回戦でいちばん楽しみなくらいの爆アツ対決カードでしたが、やっぱりめちゃくちゃおもろかったですね。各々が各々のやり方で泥臭く笑いを獲りにいくような感じでどちらもずっとゲラゲラ笑えたし、結果的に1点差、しかも1点つけた人の数が勝敗の分かれ目になったという着地の仕方も含めて、最高のお笑いだったように思います。
ななまがりは今やお笑い好きなら誰しもが認めているレベルの、本当に天才的なネタを作り続けているコンビですが、特にこの漫才という形式においては、近年はもうとにかく変な活動をしてたり変な特徴をもってたりする変な名前の奴がひたすらいっぱい出てくるっていう、ネタのシステムとか伏線回収とかの構成で魅せる次元を超越した、ただひたすら大味のボケを放り投げ続けるっていう境地に行き着いていて、この原始的というか素材の味のみで勝負みたいな手法ながら、中身のボケが全部見事に見る側の想像を超えてくるのが、マジでえげつなくて圧倒されます。そんな圧倒的ボケの発想力勝負で今回もやっておきながら、地味に終盤にはグラドルの巨乳に目を奪われて話が入ってこないとか、何するかわからないと言って本当に何してるかわからないみたいな、ちゃんとベタも絶妙なタイミングで挟まれてるっていう緩急もあって、結構ちゃんと漫才としての強度も高かったように思います。
今回は結果として負けの方を引いてしまったけど、本当に面白さに関しては全然ここで止まる存在じゃないし、客層次第ではそれこそノックアウトステージ32→16のときのような圧倒的高得点を出せる可能性があるという意味で、実はM-1より向いてる可能性もある気がしていて、今後も漫才やってくれるなら、楽しみにしたいです。勿論、ななまがりはコントだとも思ってるので、今年こそKOC決勝に返り咲いてほしいし、優勝する姿を見たいです。
あと、ななまがりはノックアウトステージ16→8で1点6人もいたのに勝ち上がるくらいザセカの客層内でも賛否が分かれたCM跨ぎのネタが、僕的にはえげつなくおもろすぎてめちゃめちゃ声出して笑ったので、流石にあの1点の数を見ると本戦では披露できなそうではあるけど、そのネタがまたいつか日の目を浴びるとき、来てほしいっすね…
タモンズは、個人的に注目するようになったの最近なんですが、マジで今が全盛期といっていいんじゃないかっていうくらい、ネタも平場も乗りに乗ってる印象があって、今年はノックアウトステージからもうずっとベストパフォーマンスって感じで、この本戦もめっちゃおもろかったですね。それこそ昔のM-1でバリバリやっていかなあかんくらいの時期に予選とかで観た記憶だと、ツッコミのフレーズは練られてるけどあんまり身体に馴染んでない感じがして正直印象薄めだったんですが、今はそれこそM-1の呪縛から解放されたというのもあるのか、等身大のパフォーマンスというか、所謂“ニン”に合った漫才ができてる感じがして、ツッコミも相変わらず繰ったフレーズは使ってるけど気持ち乗っかってるから作り物感が一切なく、本当に素の自分たちで喋ってるのがそのまま面白い漫才になってるっていう、凄い良い状態だと思います。その感じがまさに本戦でもちゃんと出てて、見やすくて面白くてウケまくってて、めちゃくちゃよかったです。
タモンズが全国ネット賞レースど真ん中で脚光を浴びて結果を残す時代が来るんだから、マジで続けることの意義ってあるんやなぁって、思いますね。
タイムマシーン3号 vs ザ・パンチ
本戦1回戦最後の対決は、どちらもM-1ファイナリスト経験者で、そのM-1決勝ではあまり目立った活躍ができなかった2組ではありますが、かたやタイムマシーン3号はそれ以外のいろんな場面で幅広く活躍し今やメディアに引っ張りだこの人気者で、逆にこんな売れてても賞レースに出るのが凄いというレベルで、かたやザ・パンチは、M-1決勝最下位を機に、と言ってしまっていいのか、再び地下とは言わないまでも日陰の方に潜ることとなり、おそらく次にメディアで大々的に名前を聞くようになったのが吉本闇営業問題というような、不遇な時代を長く堪えてからの今年のザセカンドという、誰よりもセカンドチャンスという言葉が相応しいコンビで、かなり真逆な芸人人生を歩んできた2組と言っていいと思います。こういう対決カードが出来上がるのもザセカの醍醐味だし、何よりこの対戦、というか個人的肩入れも入っちゃいますがもうザ・パンチの今の漫才が、マジでめちゃくちゃおもろすぎて、この今のザ・パンチを世に出したことが今年のザセカンド一番の功労と言っても過言じゃないくらい、センセーショナルな一戦だったと思います。
タイマに関しては、本当個人的感情で申し訳ないんですけどこの世代のオンエアバトル激強芸人に対する僕の興味がだいぶ薄いというのと、ノックアウトステージで囲碁将棋に勝って本戦に勝ち進んできた、囲碁将棋の漫才を本戦で観る機会が失われたというのも相まって、あまり熱量ある感想ないです。勿論めちゃくちゃ面白かったですし流石の客ウケで相変わらず激強だなぁというのと、今こんなにテレビとか出まくっててyoutubeも好調で、それでも賞レース挑戦して結果出すのは純粋に凄すぎるなぁと思ってました。でもやっぱり、実力だけで勝てないのが賞レース決勝というか、ずっと潜ってたザ・パンチが再び日の目を浴びた瞬間の風速には、ただ強いだけじゃ太刀打ちできないもんなんだなぁとは思いましたね。そのドラマが、お笑いファンとしては何よりも面白いものではあるのですが。
そんなザ・パンチの衝撃ですが、今年のノックアウトステージ進出32組が発表されたときから、どうやら今のザ・パンチが凄いらしいという噂はまことしやかに聞こえてはいて、僕自身最近はおろか正直2008のM-1決勝以降ヘタしたら全然観てないかもってくらい、少なくとも記憶には残ってなかったので、だいぶ楽しみにはしてましたが、最初32→16で観たときマジでめちゃくちゃ笑いまくりました。そこでのネタも、この本戦1回戦と一応同じで雷オヤジのやつだったように思いますが、その設定がどうこうではなくて、とにかく出てきた瞬間から異常なまでの低姿勢で、特にパンチ浜崎のほうはとにかくずっと喋ってるしずっと動いてるし、まっすぐ立つっていうことを全然しないで、とにかくどれだけ媚びてへりくだってでも、何とかして全員に笑ってもらいたい、笑ってもらうまで絶対引き下がらないっていうスタンスがちょっとイカつすぎましたね。その雰囲気がボケのベタさとかと異常に噛み合って、漫才自体はシンプルな笑いの取り方だから我慢しようと思えば全然出来そうだけど結局根負けして笑っちゃうみたいな、異常なパワフルさが光ってましたね。まぁ僕は全然我慢しようなんて一切考えないので最初からゲラゲラ笑いまくりましたが。
上述の感じはあくまで僕の初見での印象ですが、きっと本戦で久しぶりにザ・パンチを観た多くの方も同じような感じで見事に力技で笑かされて、一気に虜になったことだろうと思います。僕もお笑いファン歴だいぶ長くなって、いろんな遅咲きの芸人さん、どれだけ人気なくて売れてなくても面白かったらいずれちゃんと結果出して売れていくっていうのを何度も見てきて、続けてたらいつか報われるというのを原則信じてるタイプだけど、こういう結果の出方もあるんかいっていうか、ワンチャンスで掴むんじゃなくて、一度コケてから長い年月を経てセカンドチャンスが訪れてそれを見事にモノにして世間に認めさせるという成功パターンを目の当たりにして、ますます続けることが正義なのかもって思っちゃいましたね。でもこれは本当に喜ばしいことなので、今のザ・パンチがここまで来てあのタイマにも勝って、何より世間を爆笑の渦に巻き込んだという事実、間違いなく今年のザセカを象徴するひと幕だと思います。マジでおもろすぎた…
【準決勝】
ガクテンソク vs 金属バット
またもや関西ダービーと言ってしまうと芸がないですが、芸風こそ違えどどちらも大阪を代表するような硬派しゃべくり漫才師の対決で、見応え抜群すぎましたね。
ガクテンソクは1回戦で金属がどえらい高得点で爆勝ちしたことで急遽強いネタを準決勝に回したと語ってますが、本当にもう1ミリも隙のない激強しゃべくり漫才で、これぞガクテンソクっていう完成度でしたね。マジで奥田の、どんだけ小っちゃいボケでも絶対に逃さない、何なら普通の日常会話だとしたら別にボケにもなってないような重箱の隅も隅のところまで抜け目なく拾い上げて、ツッコむことでそれをボケとして成立させるようなキレキレのツッコミを、最短で打ち続けて、バリエーションも緩急見事に使い分けててそれが全部決まってて、圧巻すぎました。マジでしゃべくりとして減点要素が全く見当たらず、少なくとも絶対評価では3点満点しかつけられない、つけさせない、えげつない仕上がりっぷりの漫才でしたね。
金属バットは1本目とはまた趣向が異なり、金属バットにしかできない設定と展開のさせ方で、この危なっかしい感じのネタを演技っぽくならずにどっしり構えたしゃべくりでやり切れるのが金属の凄いところで、めっちゃおもろくて好きな漫才でした。なかなか簡単に説明できない感じ、コンプラ的にヤバいとかじゃなく、そもそもあんまり漫才で見たことない感じの内容ではあるので、最後どういう着地になるんかなぁと期待込めて観てたら、「死ね」で完全にぶった切って強制終了ていうだいぶ乱暴に終わってって、それが僕は最高に好きでしたね。オチが綺麗なのもそれはそれで最高なんですが、こういう雑な締め方もまた、お笑い的には魅力的で、何より金属の芸風に合ってて最高でした。対戦という意味では流石に相手が完璧すぎて負けるのも仕方ないとは思うけど、あくまでも相手と比べたらってだけで全然めっちゃ良い出来でめちゃおもろかったです。
今更ですが金属は唯一の2年連続本戦進出者でありながら、必ずしもこれをきっかけに全国的に売れて人気者になって、ていう野望が一切見えないしたぶん本人らも望んでいないんだろうなぁと思われて、じゃあ何でこんな過酷な賞レースに出続けるんだっていうのは正直どう考えてるのか(ギャラの単価はマジでそうだと思うけど本当にそれだけなのか)、ただのファンには思い知れないところですが、ただのファンとしては年1でもこうして金属の漫才がテレビで観られる、全国ネットのOAに乗るというのが嬉しいし有り難いので、本人らが意欲的に出続けてくれるなら、引き続き楽しみにして、応援し続けたいですね。
タモンズ vs ザ・パンチ
準決勝1試合目がゴリゴリの大阪吉本対決でしたが、2試合目は純東京吉本対決となり、何気に珍しい直接対決でアツかったですね。ほんでタモンズもザ・パンチも、1回戦を経てちゃんと観る側にキャラとかが浸透した状態になったことでより伸び伸びと漫才できてる気がして、ちゃんと大きい笑い獲りに行きたいところで見事に爆笑が起こっているようにも見えたし、何より2組とも、ここまで年齢と芸歴を重ねてきたことで熟成された、おもろいおっさんの生き様、それこそベテラン芸人としての魅力が全面に出まくってて、良い意味で何も考えずにゲラゲラ笑える漫才をやってくれるのが、勿論めっちゃおもろいし何か嬉しい気持ちにもなれましたね。
まさかタモンズとザ・パンチに、2024年になってこんなにも笑かされるときが来るなんて、本当にお笑いの世界って何があるかわからんくて凄すぎるぜ……
タモンズは、1回戦も準決勝も個人的に何回か観たことあるネタで、おそらく今のタモンズにとっての代表作的なものなのかもしれないですが、細かいやりとりとかリアクションの感じとかは流石のアップデートで、このザセカンド本戦で観たのがいちばん面白かったように感じました。そういう意味では今年がまさに集大成的な仕上がりだったのかもしれず、それで惜しくもベスト4というのは残念ではありますが、結果に限らずこれでタモンズの面白さが世に伝わったことで更に上向きにいくということもあると思うし、ネタ以外での平場の立ち回りとかも今だいぶ勢いづいてて良い感じだと思うし、何気に生い立ちとかこれまでの芸人人生とかエピソードも豊富な感じもあるし、これを機に出るとこ出ていったらどんどん爪痕残していきそうな画は全然見えるので、今後のタモンズが個人的に結構楽しみではあります。
まさか2024年にタモンズの今後に明るい未来を見据えることがあるなんて、マジでザセカは凄い大会になってる…
ザ・パンチも、2本目を経て、ほぼ完全に客席を味方につけた感じがして、まぁ実は1点が4人もいたのでもうええって思ってる層も既に一定数いそうだけど全然8割は3点つけてるからまだ全然ホームを築けてるってことで、実際まさに今年の主役だってくらいウケまくりで勿論めちゃくちゃおもろくて、もう1回言ってしまうけど本当嬉しくなりますね。1本目が雷オヤジで、この2本目がゾンビ映画って、本来手垢つきまくりで今更手を出さないような、裏を返せば誰が見てもわかりやすい設定で、ボケもひとつひとつめっちゃベタなのに、キャラと根性と手癖と、使える武器全部使って何が何でもウケて終わるぞっていう泥臭さがあって、でもそれが徹底した低姿勢とコミカルさで全然汚らしく見えないのが、これはこれで長らく芸歴積んできた賜物って感じで、ガクテンソクの仕上がりとはまた違う、ベテラン芸人の凄味を感じました。マジでザ・パンチが今年の主人公なのか……
【決勝戦】
ザ・パンチ vs ガクテンソク
今年のザセカはまさかこの2組での頂上決戦になるとは…という感想を昨年も言ってた気がしますが、少なくともノックアウトステージから観てきた限り両組とも全然優勝のポテンシャルは感じられておりそこから考えるとあり得ない話ではなかったものの、実際にこういう対戦カードが生まれると、単純に思いつかない組み合わせすぎて現実味湧いてこないから、ザセカンドという大会の凄さを改めて感じられるっていう、そんなエグ決勝戦でした。
ザ・パンチはマジで今年のこの大会をもって一気に世間の見る目を変えたっていうもの凄いことをしてきたわけですが、今のこの芸風って良くも悪くもだいぶ味濃いっていうので、連続で何回も観ると正直飽きが来るっていう側面はどうしてもあるというか、相当お笑いリテラシーの高い人であっても毎回1本目のような新鮮な眼差しを向けるのは難しく、しかも準決勝の2本目からこの決勝の3本目まで実質2連続でネタをやってるわけだから、正直ウケが徐々に弱まってきた感じになってしまったのは、順番の妙という運の要素も含めて、仕方ないことかなぁと思いました。それでもずっと面白いしつい笑いが漏れてしまうくだりは細かくあるんですが、1本目のような高得点を維持していくのは難しかったように思います。
ただ、そんなことがあってもまだこの3本目を切り捨てられないのは、やはり終盤での「砂漠でラクダに逃げられて〜」の名ツッコミの復刻があったからです。勿論このツッコミそのものの面白さはお笑い的にしっかり評価しておきたいけど、今この場でこれが出たというこのエモさは、ザ・パンチのこれまでの芸人人生、ザセカンドに出てきた意義、いろいろ思い返して、どうしてもグッとくるものがありますね。勿論僕だってお笑い詳しいと言いつつ旧M-1ラストイヤーから今までのザ・パンチを知らずにいた俄だけど、あのときのM-1決勝のザ・パンチにはいろいろ思うところがあり、それこそその前年くらいからずっとザ・パンチが仕上がってると2chのM-1スレで話題になっててラストイヤーで満を持して決勝行ってああなってしまったとか、この「死んで〜」系ツッコミを捨てざるを得なくなったとか、そういうなのを思い起こすと、そこから16年経った今、完全に生まれ変わった姿で再び全国ネットの賞レース決勝に来て、最後の2組に残って、それで「砂漠でラクダに逃げられて〜」がこの大拍手笑いは、流石にエモくならざるを得なかったです。
結局優勝は逃してしまったものの、めちゃくちゃおもろくてめちゃくちゃ笑かしてもらえて、その上でここまでのドラマを見せてくれたザ・パンチ、本当にザセカンドで見られて嬉しかったです。本当にありがとうございました。
そしてガクテンソク!先に書いてしまいますが優勝おめでとうございます。先述のように先攻のザ・パンチが、エモさ含めて良い漫才ではあったものの点数という意味では正直そこまで伸びなそうな感じはしてて、ここでガクテンソクが2本目までと遜色ないパフォーマンスさえできれば盤石だと思ってましたが、それをちゃんと実行してくれて、3本やっても衰えない漫才のクオリティーに、実力+芸歴+経験値の厚みを感じられて、本当に完璧でした。
3本目もまず勿論めちゃくちゃ面白かったし、それこそ相方の誕生日っていう、この日既にタモンズがネタの設定にしていたりザ・パンチが掴みのボケに使っていた要素とちょい被り(この程度だと全然被ってるというほどでもないと個人的には思いますが)をケアする余裕も見せられてたりして、一切隙のない惚れ惚れするような完璧なしゃべくり漫才で、最初にザ・パンチが厳しいかもとは言ったものの、対戦相手関係なくこの出来なら優勝やわって改めて思いました。
あと、ザ・パンチでエモの話をしたけど、このガクテンソクの3本目も、思い返すとかつてガクテンソク(当時は学天即)が2020年のM-1ラストイヤーの敗者復活で披露したネタで、あのときも正直それまでの決して良くはないM-1の成績からもう完全にピーク過ぎてしまったと思われてたところから、最後の最後でめちゃくちゃ面白い漫才が観られて、それこそザマンザイで無双してた頃の強い学天即が戻ってきたと思ったけど結局4位で決勝に届かず、その時点では賞レース人生が終わっていったという、そのときのネタでした。そんな、悔しい思い出を帯びている、でもめちゃくちゃ面白くて良く出来た漫才で、再びはじまった第二の賞レース人生で優勝を掴んだっていうのは、これもまたもの凄いドラマで、胸が熱くなる結果になりました。
改めて、ガクテンソクの優勝めちゃくちゃ嬉しいです。本当におめでとうございます。
【観た後に思ったこと】
ザセカンドという大会、今年2回目の開催だったわけですが、今年のガクテンソクもそうだし昨年のギャロップもそうだし、本来漫才で最高の結果を受けておくべき、漫才以外のキャラとか華やかさで流行的に消費されることなく、漫才師として息長く活躍する裏打ちとして評価されるべき実力者がしっかり優勝しているというのが、めちゃくちゃ意義深いと思いますね。その一方で、昨年のマシンガンズだったり今年のザ・パンチだったり、漫才も面白いけどキャラ的にも漫才以外の場でハネられるポテンシャルのある芸人にもしっかりスポットライトがあたる結果になっていて、マジでめちゃくちゃ良い大会になってて、本当にお笑い好きとしては有り難い限りです。まさかフジテレビがこんな良い賞レース作れるなんて、2年前までは正直考えられなかったです。
改めてガクテンソクの話になるんですが、それこそ昨年のギャロップもそうでしたがやっぱり個人的に大阪吉本を見てお笑いオタクになった者として、ガクテンソクの優勝はやっぱり嬉しすぎますね。
それこそ僕はM-1オタクなので、ガクテンソク(当時は学天即)といえば2005年のデビューが衝撃的で、そもそもこの年アマチュアが2組準決勝、敗者復活まで残るという凄いことが起こっていて、うち1組が翌年決勝に行く変ホ長調で、もう1組が、当時アマチュアでエントリーした学天即でした。僕はまだ田舎の高校生でお笑いの舞台を観に行くという発想がなくて予選がどうだったとかの細かい情報は知らないけど、唯一敗者復活だけ当時確かyahooの生配信とかで観られたからそこで初めて観て、その時点でアマチュアなのにキャラとかそういうキャッチーなのに頼らず、設定こそ桃太郎やったけどかなりストロングなしゃべくり漫才をやっていた記憶があり、アマチュアでこんな無骨なネタで面白いって凄いって思った記憶が鮮明にあります。そこから吉本の劇場に所属するようになってプロとして活躍していき、近いうちにM-1も決勝行くんやろなぁと思ってたら、そもそもM-1が1回終わったのもデカいけど結局M-1では決勝に上がれず、2005年から19年かかっての優勝ということで、めちゃくちゃ長い時間かかりはしたけど、マジで続けるって大事やなって何回も言ってるけどまた思いました。
勿論ただ続けるだけじゃなく、面白いことができた上で、評価が伴わなくても腐らずに続けるってことなんで、めちゃくちゃ難しいことではあるんですけどね。
あとここでちょっとだけ話変わるんですが、個人的にガクテンソクと賞レース的に同じ境遇だと思うのが囲碁将棋で、囲碁将棋もM-1に限っては全然決勝行けていいのに1回も行けず、地味に狭間のザマンザイの時期にいちばん賞レース予選で調子よくウケまくるピークが来ていて決勝には行ったけど奮わなかったっていうのがあった中、昨年ザセカンドでようやく決勝でも評価されて、惜しくもギャロップに負けてベスト4だったものの、ザセカきっかけでかなり調子上向きになってきたっていうのが個人的にかなり嬉しくて、かつで同じような歩みを辿っていたガクテンソクは今年更に上の優勝をしたわけで、きっとここからグッと活躍の幅が広がっていってくれそうで、それがまた嬉しいですね。やっぱり面白い人はちゃんとみんなから面白いって評価されてほしいので。あと勿論囲碁将棋にもザセカンド優勝してほしいですこれはマジで。
最後にまた大会の話に戻りますが、正直この冒頭で書いたように、審査側はもうちょっと考えることあるように思う部分もなくはないものの、運営面においてはこれ以上求めることないかもってくらい、昨年時点でかなり良かったところから更に改善もあって、結構本気で言うことないです。あとはこれくらい良いバランスの大会運営を次回以降も続けてほしいというのと、欲を言うなら、もうちょっとノックアウトステージを広く公開してもらえればってところですね。今の時代観たい人が配信買って観ればそれでいいようにも思いますが、それこそベストバウトが深夜地上波で流れたりもあったけど、もっとyoutubeとか、拡散しやすい媒体で広報されるようなことがあれば、本当に僕らお笑い好きにとっても夢のような大会になるので、そういうのあれば、マジで一生ついていきます。
あと、やっぱり現代お笑い賞レースの象徴としての松本人志の存在は、僕はやっぱりまだまだ大きいし必要な権威だと思いますが、この仕方ない状況の中で、その代わりではないけど新たな権威として、有田哲平を引っ張ってきてくれたのは、マジで功績だと思います。実際、松本人志とは違うアプローチでめっちゃ良いスタンスとコメントで盛り上げてくれてましたし、有田のお笑い能力と愛、漫才師としての実力的に、これまで賞レースにほぼほぼ関わってきてないのが個人的に寂しいと思っていたので、これは嬉しかったですね。
勿論有田だけじゃなく、東野幸治のMCの立ち回りも最高だし、審査員じゃない立場での大吉先生の力みすぎてないコメント、更に脇を固める華丸さんや前年王者ギャロップ等々、大会としても番組としても間違いない面白さが保証された盤石の体制で、でもそれらが主役を食うことはなく、あくまでも出場者、漫才師がしっかり脚光を浴びる構図は保たれていて、そういう面でもマジで最高の大会だったと思います。
ザセカンドが今後も、このまま最高の大会として運営され、もっと広く世に注目されて、関わるすべての漫才師とお笑いファンが報われるような、更に素敵な大会になっていくことを、ずっと願い続けたいです。お笑いには、いつまでも夢を見させてもらいたいから…