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こんな夜更けにドリルかよ

昔話でも書こうかな。


深夜一時過ぎのこと。

明日やることを整理しておこうとパソコンに向かったときに、それは聞こえた。

ウイィィィィィン……! ウイィィィィィィィィィン……!

部屋の壁の向こう側から、電動ドリルを回す音が響いてくる。

本当に電動ドリルを使用していたのかは分からない。見えないから。
でもこの音はおそらくドリル……! この音を聞いた100人中、98人はドリルと答えるに違いない。あとの2人はドリルを知らない人でしょうね。

というか問題は電動ドリルかどうかじゃない。
集合住宅で深夜に騒音を響かせることが問題なんだ!
こんな夜更けにドリルかよ! 正気か!? 部屋でやるDIYのレベルじゃないぞ!! この住宅の壁に対する信頼度は限りなく0ですけど!!

とは言いつつも、実際のところ別にそこまで怒りは感じていない。うるさいけどヘッドフォンすれば気にならないし、僕が寝るときに稼働していても入眠できると思う。

怒りはないけど、心配はしている。
隣人……ドリル使用者の安否を。

どういうことか?

それはかなり昔に、こんなことがあったから。
(回想中に回想するのは読み手が混乱するのでやめましょう)


たしか日付が変わるか変わらないかくらいの時間。
ゲーム実況はせずに普通にゲームをしていたら。

ピンポーン。
ピンポーンピンポーン。

僕の部屋じゃない。隣の部屋だ。
こんな夜遅くにチャイム鳴らすとか怖っ。

あくまでも他人事の僕。ゲームはやめない。

ガチャリ。
扉を開ける隣人。
えっ開けちゃうの? 僕なら絶対開けないし居留守使うよ。

「下の階に住んでるんだけどさあ……」

声の感じからそれなりの年齢を感じる男性。
語気に穏やかさはない。

「足音がうるさいんだよ……ドンドンドンドンさぁ! こっちは夜遅く帰ってきて疲れてるんだよ! 寝れねえだろうが!!」

めっちゃ怒ってる!! 怖い!! 何で開けたんだよ!!
でも貫通してくる話を聞く限り、迷惑をかけているのは隣人。

「〇されてえのか!! あぁ!?」

よっぽど迷惑していたのか、ストロングなワードも飛び出す始末。
ちなみに相当声が大きいので、周辺のお家全体にも届いているはず。
みなさん固唾を飲んでいるに違いない。僕もゲームを一時停止している。

一方、隣人は「普通に暮らしています」と弁明。
隣に住んでいる僕としては、今まで大きな音は特に聞こえなかった。
横に響く音と下に響く音は別なのだろう。

「なんか変なことやってんじゃねぇだろうな……部屋んなか見せてみろ」

結構な要求を出す階下の住人。そしてあっさり招き入れる隣人。
ノータイムマジか!? 潔白の証明にしても勇気あるねアナタ!
そこまで鬼気迫る状態だったのだろうか。

ドアが閉まり静寂が訪れる。
ずっと静かだ。薄壁一枚隔てた隣室の話し声は聞こえてこない。

いろいろ想像しちゃう僕。
嫌だよ数日後に制服着た方々に「先日隣の家で……」なんて切り出されて状況説明するの。そんなの小説とドラマとアニメとゲームの中だけで充分。

それから聞こえてくる音はなく、騒動はいつの間にか収束した。
隣人と階下の住民がどんなやり取りをしたのかは、一切分からない。
聞き込みも来なかったので、平和に解決したのだろう。


……なんてことがあったので、ドリルは挑戦的過ぎると懸念したのだ。
相当昔のことなので、隣人は当時と別人だろうし、階下の住人も同一人物か不明。

幸い過去イベの再来はなかった。
だけど夜中に電動ドリルでDIYはしない方がいいですよ。


っていう思い出話でした。

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