【短編小説】牡羊座の魔女は情熱を絶やさない【1】
むかしむかし、あるところで、女の子が魔物に追いかけられていました。
「ちょっとぉぉぉぉぉ! なんでこんなことになるのぉぉぉぉぉ!?」
くせっ毛の長い紅髪をなびかせ、岩肌に囲まれた洞窟の通路を全力で走ります。背後からは、緑色の肌をした小鬼―—ゴブリンの群れが、剣や棍棒を振り上げて迫っていました。
「あんたのせいだかんねっ! 責任取ってなんとかしろっっ!!」
女の子はすぐ後ろを走る男の子に罵声を浴びせます。
「はぁ、ハァ……そんなこと……いったって、おれ……無理……!」
息も切れ切れ、腰に下げたショートソードがカチャカチャと泣いています。
「お前こそ、その手に持ってる杖は飾りかよ!」
「魔導士だから持ってるに決まってるでしょバカじゃないの⁉ それとお前って言うな! 私はティルナ・スクルトリス! こんど名前以外で読んだら焼却するからね!」
「口悪いな! だったら俺にだってコピア・パーリフっていう名前がある!」
「あんたの名前はどーでもいい!」
「おま……っ! ああもうなんでもいいから、後ろの奴ら何とかしろーっ!」
「そんなの……なんとかしてあげる!」
女の子――ティルナの走る先には、広い空間が広がっていました。
待っていたと言わんばかりに足の回転を速め、杖尻を地面に引きずりながら意識を集中させます。
大地に散らばる星の力を具現化する構成を思い浮かべ、孤立した輝きを光の線で結び、ひとつの絵に仕上げていく。ティルナはいつものように魔術発動のイメージを重ねます。
「球凝らす炎、飛び爆ぜる弩豪、破砕せよ仇なす祖楼——」
詠唱と共に、体内に光と熱が満ちていくのを感じる。
準備の完了とともに、ティルナは後ろを振り向いて両手を突き出します。
「火炎球!」
杖の先で生み出された、人の頭ほどの火球が勢いよく放たれました。
そしてちょうど空間に入ってきたゴブリンと、コピアを巻き込んで爆発します。
「あ、やば」
立ち上る煙、点々とくすぶる火。
ティルナは羽織っているマントの埃を払い、後頭部を撫でました。
「まあ仕方な」
「本当に燃やすなぁぁぁぁ!」
薄くなる煙の中からコピアが現れ、ティルナに詰め寄ります。
「なんにも躊躇しなかったな! 俺もゴブリンも一緒か⁉」
「さすがにそこまで言わないけど……とにかく、かすり傷ひとつないみたいだし、万事オッケーってことで」
「どうせ巻き込んでも仕方ないとか思ってたろ?」
「ぜんぜん思ってない」
「嘘を隠す顔しろよ。ったく」
コピアはその場に座り込み、息を吐いて高い天井を仰ぎました。遥か先にある割れ目から小さく青い空が見えます。
「一応感謝はするよ。助けてくれたこと」
「礼儀正しいじゃない。私はちゃーんとね、あんたが無事だって未来が見えてたんだから」
「言ってろ」
「ってか……コピア、だっけ? なんでゴブリンに襲われてたわけ?」
《続く》
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