【HEARシナリオ部】2022年8月のシナリオ『回転に関わる彼女の回想』
自分は音声投稿サイト『HEAR』内でHEARシナリオ部に所属しています。
これは物語創作が好きなユーザーによる部活。
現在は1か月に1作、テーマに沿ったシナリオを公開するのが主な活動。
2022年8月のテーマは『回る』
5~10分程度のショートシナリオです。よろしければご覧ください。
===============
『回転に関わる彼女の回想』
洗濯機の中でくるくるしてるTシャツってさ、薔薇の花っぽくない?
私だけ? ロマンチックでいいじゃん、花言葉と一緒でさ。
なんか、回るものっていいよねー。
落ち着くっていうか、心が吸い寄せられるっていうか、とにかく魅(ひ)かれるの。
前にどこかで話したかもしれないけど、私ね、生まれたときから回るものが好きだったんだ。
赤ん坊のころはベッドメリー……天井から吊るしてるおもちゃのこと、それが回ってるだけでずっとキャッキャしてたんだって。
手のかからない、いい子だったんだよ。
公園に遊びに行けば、グローブジャングルっていう……球体を回転させて中に乗るやつ、あればっかり遊んでたし、理容室のサインポールを開店から閉店までずっと見てた。ショベルカーのキャタピラも好きだったけど、近づいてよく怒られたっけ。
そんなんだからさ、遊園地に行ったらコーヒーカップとかメリーゴーラウンドはマストなわけよ。あと観覧車とジェットコースターも。何回乗っても楽しいんだよねー。
あんたは見かけによらず回るものに弱くてさ。それでも無理して乗って、降りた後にぐたーってなってたね。素直に待ってればよかったのに。
そうそう、スノボも楽しかったな。
あんたがプロペラか、ってくらいスピンしてたの、今でも覚えてる。
ついでにいろんな温泉もまわったね。おかげで肌はつるつるスベスベ、血の循環も良くなって健康てきー。
……まあ、お金は全部私が出したんだけど。
回転寿司でバイトして、夜間の巡回警備して、工事現場で誘導棒を回して稼いだお金。
私が働いてたとき、あんたは何してた?
パチンコ屋でスロット回して、アプリゲームで10連ガチャ回して。
ボートレースもやってたっけ。「最初のターンで勝負が決まる」とか言っといて、外してばっかり。
全部、私のお金。
初めて見たあんたはすごくかっこよかったのに、どうしてなの?
初めて観に行ったライブのギター回し、最高だった。
それで興味を引きたくて、あんたの好きなローリング・ストーンズの曲も全部覚えたんだよ。
どんどん仲良くなって、告って、オッケーもらったときは目が回るくらい嬉しかった。
なのに、あんたはすぐに立ち止まったよね。
メジャーデビューの夢は諦めて、働きもせず、家では寝てるだけ。
「音楽業界は俺が回す」って豪語していたあんたは、どこへ行っちゃったの?
携帯も電気もガスも止まって、首が回らなくなって借金して、取り立てにおびえて部屋の隅から動かない。
私には金持ってこい、って怒鳴りつけてさ。
断ったら蹴って殴って……心臓止まるかと思うくらい痛かった。
だから、サヨナラしたんだよ。
何も回さない、回せなくなったあんたに魅力はないから。
そういうのって私からすればもう、壊れた扇風機と一緒。捨てるしかないの。
後悔はしてない。いい思い出は残す。そして私は先に進む。
生活が回らなくなったらおしまいだもん。
あ、洗濯終わっちゃった。
結局、最初から最後までずっと見ちゃった。
本当に私、回るものが好きなんだなあ。
……うーん、やっぱり真っ白にはならないか。脱いで作業すればよかったかも。
お風呂場とか、電動丸鋸(まるのこ)の刃はすぐきれいになったんだけど……仕方ない、捨てるか。
さて、こっちはどうしよう。
細かくバラバラにしたから袋には入ったけど、燃えるゴミじゃ回収してくれないよね。
スマホで検索しても、手軽に処分する回答はなし。
どうやって捨てるか、頭を回さなきゃ。
〈終〉
===============
【利用規約について】
以下のクレジット表記(3項目)をお願いしています
①台本のタイトル
②作者名と所属する部活(作者名:竹乃子椎武、所属:HEARシナリオ部)
③台本が投稿されている投稿URL(個人サイトや外部サイトに関わらず、ご覧いただいたページのURLおひとつだけで構いません)
<記載例>
One-shot Lover!
作者:竹乃子椎武
https://note.com/takenokoctake/n/ne4eee32fb3df
===============
各部員の作品はこちらにまとめています。よろしければご覧ください。
HEARシナリオ部では毎月ラジオも配信しています。朗読していただいた投稿の紹介や、部員同士で創作活動のウラバナシをしていますので、よろしければお聴きください。
頂戴したサポートは今後の創作活動の資金として使用させていただきます。 より楽しんでいただける文章や作品作りを目指しますので、どうぞこれからもよろしくお願い致します。