【自家製サッカー概論】40 足元へのスルーパス
「技術の浸透化」というのは面白い現象だと思う。
最初は特殊性ばかりに目が行くが、それが、徐々に周囲に浸透していくことである。
分かり易い例が、2000年代頃から台頭した、スペイン、バルセロナが発端となったポゼッションサッカーだと思う。
ポゼッション率7割を優に超え、ボールを繋ぎながら相手を圧倒していくサッカー。
一時期は、このスタイルでタイトルを総なめにした。
そこから、世界はポゼッションを高める試合運びをする様になっていった。
本家のそれとは違うが、自分たちなりのポゼッションを高めていった時期があったのである。
そんなポゼッションサッカーが隆盛を極めた時期、ユーロ2012、スペイン対イタリアの決勝戦である。
この試合の2点目は、左サイドバック、ジョルディ・アルバ選手が決めたものだったが、その形が凄まじかった。
左でボールを受けたアルバ選手が、中盤のシャビ選手(当時)に送ると、一気に駆け上がり、イタリアディフェンス陣を追い越そうとする。
その瞬間にシャビ選手からパスが送られ、アルバ選手のトラップ一発で、イタリア守備陣の背後を取ったのである。
そして、GKとの1対1を制してゴール。
縦パス1本で相手の裏を取る。これは「スルーパス」だと思う。
「スルーパス」とは何だろうか。改めてネットで調べてみた。
引用は「サカイク」というサイトの「少年サッカー用語解説」の「スルーパス」の項。
そこにはこうあった……。
「スペースへのパスの一種。相手ディフェンダーの間を通して、ディフェンスラインの裏側へ出すパスのこと」
「なるほど」と思う。こうして解説されると、そのプレーの性質がよく理解できると思う。
話を元に戻して…。
先に上げたシャビ選手 → アルバ選手へのパスは、正確には「スペースへ出したものではない」と思う。
だが、確実に、堅守で鳴らすイタリアディフェンスの背後を狙ったものである。
だから、このプレーも「スルーパス」と呼んでもいいと思う。
そして、この瞬間を見て、(こうした背後の取り方は面白いな)と思ったのである。
さて、この「足元へのスルーパス」は一流のテクニックであって、Jリーガーには出来るものなのか?
京都サンガの練習場で、囲み取材の折に聞いて回った。
3名ほど聞いたが、全選手とも「出来ると思う」との返答だった。
だが、試合で見たことはほとんどないのである。
一度、宮吉拓実選手がディフェンスラインと並んで立ち、トラップ1本で相手の背後にボールを置き、シュートを放った場面があった。
それ以外ではほとんど見たこと無い。つまり、タイミングといい、精度といい、かなり難しいのだろうと思った。
あれから10年くらい経つが、この「足元スルーパス」は、あまり浸透していないプレーだなと思う。
だが、ブンデスリーガデビューした上月壮一郎選手が見せてくれた。
ライプツィヒ戦で見せたブンデスリーガ初得点は、ワンタッチで相手の背後を取るプレーだった。
全く以て素晴らしいプレーである。相手の背後を取るのに、このプレーが有効だということを改めて示してくれた。
ラインコントロールがしっかりしていればこそ、こうしたワンタッチ目の重要度が増すだろう。
止まった状態からワンタッチで相手の背後を取るプレーは見られるようになってきた。
次は、走りながら、その選手の足元にパスを出して裏に抜けるプレーも見てみたい。
かつて、ポゼッションで世界を圧倒したスペインが繰り出したスルーパスが、日本人選手からや、Jリーグでも随所に出てくる様になるのではないかと、本気で思っている。
「スルーパス」には2種類ある。
スペースに出して相手の背後を取る場合と、「足元にボールを送り、ワンタッチ目で相手の背後を取る」場合の2つである。
こうしたプレーが一般的になれば、日本サッカーのレベルも格段に上がるのではないだろうか。
そんなプレーを探しつつ、試合を観るのも一興だと思う。