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F-14という機体を模型的に熱く語ってみる②

近代的なナナニイ(1/72)F-14キットとしてイタレリから発売されたキットは、あっさりめの凸モールド&機首側面のディティールが絶望的でありながら、当時のF-14キットの中でもスタイルの良さは群を抜いていた。

機首側面のモールドが残念だったのは、機首ブロックが胴体パーツと一体成型された上での上下分割を採用していたからであり、型抜きの都合上どうしても不利になってしまうという物理的問題が故のこと。
F-14の機首左側面にはM61バルカン砲が搭載されていたため、砲身と弾倉の逃げフェアリングが張り出しているほか、ガンガスパージ用のスリットや電子機器冷却用のダクトなどのディティールが集中していて結構賑やかな印象がある。が、それらがまるごと抜けておらず、なんとなくのふくらみ、なんとなくのモールドしか存在せず、ペーパーをかければ一発で消えてしまうような状態だった。そのため、当時の作例ではバルカン砲周辺のパネルごとハセガワのキットから移植するという粗ワザが紹介されていて、筆者もそれを実行した一人だった(笑)

F-14は非常に複雑なラインで構成された機体で、模型メーカー泣かせの戦闘機と呼ばれている。ただその人気は凄まじく、退役してから18年にもなる機体だというのに今だにニューキットが発売され続けている。3D/CAD、レーザー加工機などといった新世代の金型工作機械が使われるようになってからはキットの解像度も著しく向上し、一昔前の32以上のディティールとギミックが72に凝縮されていることも珍しくない。

しかし、実物を縮尺して型取りしている訳ではないので、実機のプロポーションなりディティールを読み解くという設計者の力量が、模型の完成度を左右するという点においては昔も今もそう変わらない。故にニューキットであろうと決して手放しでは喜べず、組んでみると残念ポイントがいくつも出てきて、F-14は特に「あぁ、またか」と思うことも多いというのが現実だ。

F-14のスタイリングの難しさはどこにあるのか

機体の構成を簡単に書いてみたい。
開発当時世界最高峰と呼ばれた火器管制レーダー「AN/AWG-9」を搭載、操作を行うために複座。機首は太く大きいが、後部座席空間の終わりから急速に上下につぶされたようにしぼんでいく。その左右にウインググローブと呼ばれるVG翼駆動装置を収めたブロックが存在し、ここには主脚が収まり、外部にはパイロンが装着できるようになっている。
仮想敵国であったソ連の戦闘機/爆撃機が艦隊に向けて飽和攻撃を仕掛けてくるという、当時囁かれていた万一の事態に対処できるよう、大型の空対空ミサイル「AIM-64フェニックス」を4〜6発搭載し、運用できることがF-14の設計コンセプトだったから、機体規模もそれなりのサイズとなった。
それをスペースに限りのある空母甲板上でハンドリングできるようにするのと、発艦&空戦と高速巡航を両立させるために採用されたのご存知VG翼(可変翼)。
マッハ2.5クラスの最高速度を実現する大きなエンジン…と、それらをワンパッケージにするべく開発されたF-14のパッケージセンスは実際に模型で手に取ってみるとあらためてスゴイと思ってしまう。

艦上戦闘機とはいえ主翼を展張した状態では、第二次世界大戦のB-17爆撃機に相当する機体規模をもち、双胴双発という機体構成によって「巨大でずっしりとした印象」を与える。模型は実物をそのまま縮尺するのではなく、ある程度の抑揚とディフォルメを加えながら設計を行うため、このディフォルメという作業過程で実機の印象が設計に影響を与え、最終的には「似てる、似てない」の論争の火種になる。

F-14のスタイリングの難しさは、印象と実測で大きく異なって見えるという点にあるといっていい。例えば「太く、ずんぐりとした印象の機首」という記事を読んだ後で、発艦作業中のF-14の写真を見ると確かにそう見えるが、飛行中の姿や俯瞰して上から眺めると、思いのほか機首の存在感は大きくない。

TOPGUNブームが冷めやらぬ中、フジミから1/72のブランニューキットとしてF-14が発売された当時、組んでみると「なんか違う」と思ったものだが、最大の欠点がこの「機首のボリュームがない」ということだった。同じ時期に発売されたハセガワのニューF-14(スジ彫り版)と並べると、同じ機体なのか!?と思ってしまうくらいフジミのF-14は小顔。ハセガワの機首は一回り大きい印象だったが、これはハセガワのほうが正解で、F-14の機首の造形がいかにキット全体のバランスに影響を与えるかということを如実に表しているものだった。

そしてキャノピーの形状。これはどの戦闘機キットにも通じ、印象を左右する重要な部分になっているのだが、これによって損をしている戦闘機プラモの多いこと。徹底的に彫り込まれ、細部も精密に再現されているのにキャノピーが残念!というキットをこれでもかと見てきた人間にとって、イタレリの正確なF-14のキャノピープロフィールは感動ものだった。今見るといわゆるΩ型のバブルキャノピーは再現されていないのだが、それでも破綻がないのはなんとも不思議。

F-14のキャノピーはウインドシールド(第一風防)の後端が僅かに上がり、そのまま第二風防へとラインをつなぐ。第二風防で右肩上がりにカーブを描きながら絞り込まれ、そのまま特徴的な背中へとラインが繋がっていくという複雑なフォルムを持っている。実はこの「背中へ続くライン」の表現が難しいのか「F-14らしさ」がここでスポイルされてきたのがそれまでのキットだった、イタレリはまさにこの部分をしっかりと再現しており、肝心のキャノピーパーツに関しても、とかく扁平気味に表現されがちだったF-14のキャノピーを正確に再現されたものだった。

ちなみに当時決定版と呼ばれたハセガワ(凸モールド版)は、途中でキャノピーパーツのみ新金型で起こされたが、個人的には満足行くものではなかった。これは何かの模型専門誌でも書かれてあったことなのだが、先に書いたキャノピー直後の「背中」の峰の部分がボリューム、高さとも不足していたため、そこに帳尻合わせをした結果キャノピーの形状にしわ寄せが来てしまったことは否めない。
どちらかといえば扁平気味だったキャノピーのお陰で、ハセガワのF-14は「今一つ」という感があったのは事実ではないだろうか。ちなみにレベル1/32のF-14もまた似たような印象だったし、機首が太かった印象も手伝って「コレジャナイ」感をすごく感じたのを覚えている。

➡F-14という機体を模型的に熱く語ってみる③へ続く







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