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シナリオ・センター本科課題5『鏡』

感想

3週間で書けたので、ペースは上がっている。

「メッセージ性」云々より「楽しんでもらう」を重視して書いた結果、評判も良かったので、このスタンスで今後も書いていきたい。

あらすじ

深夜ドラマ風。美容師・黒尾慶一は、鏡に映る表情でお客の嘘がわかる。彼のもとへ、長髪をバッサリ切りたいという女性客がやってくる。

『美容師はモテたい』 

   人 物 

黒尾慶一(29) 美容師(スタイリスト)

宮本瑞希(23) アパレルショップ店員

手島和輝(22) 美容師(アシスタント)


○Hair Salon Crow・店内

他の従業員が働くなか、一人腕を組んで立っている黒尾慶一(29)。

全身黒できめ、髪はパーマをかけてワックスをつけている。

黒尾N「美容師とは接客業だ。いくら腕が上手くても、接客が下手では指名はもらえない」

手島和輝(22)、黒尾のもとへきて、

手島「アニキ、きました」

手島が目をやった先には、宮本瑞希(24)が座っている。

瑞希は茶髪ロングで、暖色のロングスカートを履いている。

黒尾「……かわいいか」

手島「かわいいっす。しかも背高くてモデルみたいっす」

黒尾「おし。しっかり見とけよ。俺のテクニック」

手島「はい!」

黒尾、瑞希のもとへ行く。

黒尾N「少ない会話からお客の好みをつきとめ、その人に最適な接客を心掛ける。そしてあわよくば、連絡先を」

黒尾「本日担当する黒尾です。よろしくお願いします(一礼)」

瑞希「よろしくお願いします」

瑞希は女性の中では低く、落ち着いた声をしている。

黒尾「どんな髪型にされますか」

瑞希、スマホを差し出す。

瑞希「こんな感じで…」

ベリーショートのモデルの顔写真が映っている。

黒尾「結構短いですね」

瑞希「えぇ、まぁ」

黒尾、スマホと瑞希の顔を交互に見て、

黒尾「ちょっと、ロングからこれだと、切り過ぎかなって気も……」

瑞希「あー……」

黒尾「後ろを少し残したほうが、かわいさが出て良いと思うんですが、いかがでしょう」

瑞希「あ、はい、じゃあそれで」

黒尾、鏡に映った瑞希の表情を見る。

黒尾「あれですかね、春だから心機一転みたいな感じですか」

瑞希「あー、まぁ、長いと面倒だなと思って」

黒尾、再び瑞希を見つめる。

黒尾「わかりました。では、シャンプーの準備をしますので、お待ちください」

   ☓   ☓   ☓

黒尾、手島のもとへやってきて、

黒尾「あの子、嘘ついてる」

手島「また見抜いたんですか」

黒尾「ショートにしたいって言うから理由を聞いたら、適当にごまかされたが、何かわけがある顔だった」

手島「……失恋とか?」

黒尾と手島、目を見合わせる。

黒尾「まさか、おま、そんな安直なわけないだろう」

手島「いやいや、女子が髪をバッサリ切るって、失恋しかないっすよ!」

黒尾「と、とりあえず、俺が探りを入れるから、お前はシャンプー、いつも通りな」

手島「うす」

   ☓   ☓   ☓

瑞希は白いケープを羽織り座っている。

瑞希の髪は濡れている。

黒尾は瑞希の後ろに立ち、

黒尾「それでは、切っていきますねー」

手島「はい」

黒尾は瑞希の長髪を、肩の高さで切っていく。

黒尾N「俺は嘘がわかる。モテたい一心で接客を続けていたら、鏡に映る表情で、相手の嘘を見抜けるようになってしまった」

黒尾「うちの店、初めてですよねー」

手島「あ、はい。前の店が潰れちゃって……」

黒尾、鏡に映った瑞希を見る。

黒尾N「これも嘘だ。初対面では、本当のことを話さない客も多い。まずは、無難な話題から」

黒尾「お仕事は、何されてるんですか」

瑞希「アパレルの店員です」

黒尾N「これはホントだ」

黒尾「アパレルですか。どうりで、おしゃれな服だと思いました」

瑞希「あぁ、とんでもないです」

黒尾「背も高いから、モデルさんかと思いましたよ」

瑞希「いやいや、無駄にがたいがよくて、困ってます」

黒尾N「よし。次は、プライベートな話題へ」

黒尾「今日は、何か予定あるんですか」

瑞希「あー、実は岩手の実家に帰るんです」

黒尾N「これもホントだ」

黒尾「岩手ですか。何か用があるんですか」

瑞希「なんていうか、父が危篤で…」

黒尾「えっ、大丈夫ですか?」

瑞希「元々持病があったんですけど、急に悪くなって、母に呼び出されて」

黒尾「すみません、なんか、デリカシーなくて」

瑞希「いえいえ、こちらこそ、すみません」

黒尾N「しくったー、重い雰囲気になってしまった」

黒尾「とりあえず、バッサリ切りました」

瑞希「あ、はい」

瑞希の髪は肩の高さまで短くなった。

黒尾はカットを続ける。

黒尾「実家かー。俺は長らく帰ってないっすねー。親は何してるんだろ」

瑞希「連絡とってないんですか?」

黒尾「そうっすねー。親は俺のこと期待してないし、俺も好き勝手生きてるって感じで」

瑞希「でもいいですね、それ」

黒尾「そうすか?」

瑞希「私の友達に、実家がお寺の人がいて」

黒尾「お寺!」

瑞希「その人は長男で、跡取りなんですけど、それが嫌で、家出してこっち来てて」

黒尾「あー。それは嫌ですよねー。跡取り」

瑞希「もう何年も帰ってないらしくて。だから、そういうしがらみなく生きてるのはいいなって」

黒尾、鏡に映った瑞希を見る。

瑞希、黒尾と鏡越しに目が合い、目を逸らす。

黒尾「そうですか」

   ☓   ☓   ☓

手島がドライヤーで瑞希の髪を乾かしている。

後ろで、黒尾は腕を組んで考え事をしている。

黒尾「……そういうことか」

手島、黒尾のもとへきて、

手島「ドライヤー終わりましたけど、アニキ、いきますか」

黒尾「いや、いい」

手島「まじすか、じゃ俺、いってもいいすか」

黒尾「いや、アイツはやめとけ」

手島「なんでですか」

黒尾「あいつは、男なんだよ」

手島「……はい?」

黒尾「いや、男だった、と言うべきか」

黒尾は瑞希のもとへ歩いていく。

手島は振り返り、驚いた顔で瑞希を見つめる。

黒尾「お待たせしました」

瑞希、軽く一礼する。

黒尾は瑞希の後頭部を見て、

黒尾「もう少し、カットしますね」

瑞希「あ、はい」

黒尾、後ろの髪を切っていく。

黒尾「さっきの、お寺の男の子? の話ですけど」

瑞希「はい」

黒尾「俺はクソ男なので、すぐ女に飽きるんですよ」

瑞希「はい?」

黒尾「でも急に別れようって言うと、向こうを傷つけるじゃないすか。だから徐々に、匂わしてくんです。お前のこともう好きじゃないって」

瑞希「はぁ」

黒尾「だからそのー、徐々に匂わせていけばいいんじゃないすかね、その人も」

瑞希「……」

黒尾「実家に帰って話はするけど、家を継ぐ気はないみたいな。てか、何年も帰ってないんですよね、その人」

瑞希「はい」

黒尾「だったら帰って、顔見せるだけで十分ですよ。絶対喜びますよ、親は」

瑞希「そうですかね」

黒尾「はい」

黒尾、カットを終えハサミをしまう。

バックミラーを開き、瑞希に後頭部を見せる。

黒尾「やっぱり後ろも短く切っておきました」

瑞希「……え?」

黒尾は鏡に映る瑞希を見て、

黒尾「かっこいいですよ、すごく」

瑞希「あ、ありがとうございます!」

黒尾「また、いらしてください。うち、エクステとかもできるんで」

瑞希「……はい!」

   ☓   ☓   ☓

黒尾、モップで床の髪を集めている。

黒尾N「美容師とは接客業だ。少ない会話からお客の好みをつきとめ、その人に最適な接客を心掛ける」

手島、机の上の雑誌を片付けながら、

手島「でもアニキ、自分からは絶対別れないって言ってませんでした? 前の彼女とも3年くらい付き合ってたって…」

黒尾、鏡に映った自分を見て、

黒尾「あほ。こっちが嘘をつく時だってあるんだよ」

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