シナリオ・センター本科課題1『ハンカチ』
感想
1ヶ月以上かかってしまったので、まずは速度を上げたい。
あらすじ
母の葬式で、中村凛(30)は夫・孝太郎(30)に激怒した。「このハンカチはな、お母さんが私にくれた、大切なものなの」「察しろ?なんでこれを使ってるか!」
『幸福の赤いハンカチ』
人 物
中村凛(30)中学校体育教師
中村孝太郎(30)凛の夫・市役所職員
金井美智子(67)凛の母
河野俊之(65)凛の叔父
栗原充(68)火葬場職員
庄司貴子(45)医師
◯火葬場・火葬炉前(昼)
火葬炉の前に、棺と線香台が設けられ
ている。
棺の蓋は開けられており、金井美智子
(65)の遺体が見える。
栗原充(65)が、遺族に向かって話
す。
栗原「それではこれより、美智子様との最期
の時間となります。おひとりずつ、線香を
あげてお別れの言葉をかけていただければ
と思います。それでは、喪主の方から」
中村凛(30)が、線香台に向かい、
線香をあげる。
凛「お母さん、今までありがとう」
目には涙が溢れている。
次いで、中村孝太郎(30)が線香台
に向かい、線香をあげる。
孝太郎、無言で手を合わせる。
次いで、河野俊之(65)をはじめ、
他の親族も線香をあげる。
凛、涙をハンカチで拭く。鼻をすする
音が響く。
孝太郎「(小声で)大丈夫?」
凛、黙ったまま頷く。
孝太郎、凛のハンカチが目に入る。
ピンク色のシンプルなハンカチが、黒
い喪服の中で目立つが、よく見ると年
季が入って色あせている。
孝太郎「(小声で)そのハンカチボロくない?
新しいの買ったら?」
凛「(大声で)はぁ!?」
みなが一斉に二人のほうを向く。
孝太郎「え」
凛「お前もういっぺん言ってみろよ」
孝太郎「え、あ、」
凛「このハンカチはな、お母さんが私にくれ
た、大切なものなの」
孝太郎「あー…」
栗原「あの…」
凛「それをボロいから捨てろとか、よく言え
たな!」
孝太郎「いや、そうとは知らず…」
凛「察しろ?なんでこれを使ってるか!」
孝太郎「はい。すみません」
○火葬場・火葬炉(昼)
美智子の遺体が火葬されている。(ゴー
と燃える音)
◯火葬場・休憩室(昼)
休憩室で火葬が終わるのを待っている
一同。
テーブルには軽食が置かれている。
テーブルを挟んで向かい合う凛と孝太
郎。
凛「だいたい、お前は絶望的に情緒ってもん
がないよね」
孝太郎「え」
凛「こっちはお母さんとの最期の別れなのに
さ、お前がテキパキと手続き進めやがって」
孝太郎「いやいや、だから、僕のほうがそう
いうの得意だからさ?凛ちゃんにはお母さ
んに専念してもらおうと」
凛の隣に座っていた河野が話しかける。
河野「まぁまぁ凛ちゃん、とりあえずここは
落ち着いてさ」
凛「おじさん聞いて。この人、コスパがどう
とか言って全部安いプランにしてくんだよ」
河野「(孝太郎を見て)そうなのかい?」
孝太郎「だって、葬式高くないですか?二日
間でウン百万もとぶんだよ」
凛「だからお母さんに失礼だろ?」
栗原「あのー」
孝太郎「…はい」
凛「はーもう、怒りすぎて頭悪くなってきた」
孝太郎「え、大丈夫?」
凛「お前のせいだからなマジで」
栗原「あのー!」
凛と孝太郎、見合わせる。
栗原「火葬が終わりましたので、ご移動をお
願いします」
◯火葬場・火葬炉前(昼)
栗原、火葬炉から美智子の遺骨がのっ
た台車を運んでくる。
栗原「それではですね、これから二人一組で、
美智子様のお骨を拾って、骨壷に納めてい
ただきます」
栗原、凛と孝太郎に箸を手渡す。
栗原「まずは足の骨からお願い致します」
まばらに散らばっている遺骨を、無言
で見つめる凛。
突然、凛はハンカチで口を抑えて咳き
込む。
孝太郎「凛ちゃん?」
凛、ハンカチを見ると血で汚れている。
孝太郎「え、ちょっと、どうしたの!?」
河野が凛のもとに駆け寄る。
河野「大変だ。凛ちゃんを病院に」
孝太郎「は、はい!」
◯病院・診察室(昼)
喪服姿の凛と孝太郎が椅子に座り、庄
司貴子(45)の話を聞いている。
庄司「お腹に赤ちゃんがいます。吐血や頭痛
といった症状も、つわりによるものかと」
孝太郎はポカーンと口を開けている。
凛は真剣な顔で聞いている。
庄司「お母様のご葬儀も重なって、大変だっ
たかとは思いますが…妊娠初期は、体調が
安定しない時期が続くので、安静に過ごし
てください。お父さんもフォローをお願い
します」
孝太郎「お父さん…」
◯中村家・リビング(夜)
部屋の隅に祭壇が設けられいる。
孝太郎が、遺骨の入った箱を祭壇に置
く。
孝太郎「後でおじさんにお礼言わないとね」
凛「うん」
孝太郎、そのまま線香をあげる。
孝太郎「(手を合わせながら)ごめんね、凛ち
ゃん」
凛「え?」
孝太郎「(振り向いて)僕、凛ちゃんが体調悪
いの全然気付けなくて、こんなのでお父さ
んになれるのかな」
凛「んー、不安だね」
孝太郎「やっぱり?やっぱり不安だよね!あ
ぁ…」
凛「前お母さんにね、結婚相手には自分と真
逆の人を選ぶと楽しいよって言われて。孝
太郎と付き合うずっと前ね」
孝太郎「うん」
凛「お母さんはそれでお父さんと離婚したの
に、あーそれでも楽しかったんだって思っ
た記憶がある」
孝太郎「へぇ」
凛「で、あたしも気付けばこんなやつと一緒
にいるというね」
孝太郎「こんなやつって…」
凛「ま、いいの。あたしはこの子にいっぱい
愛情を注いで、お前にはめんどくさい手続
き系を丸投げするから」
孝太郎「はい」
凛「…お母さんには見せられなかったなー。
この子」
孝太郎「お母さんも喜んでるよ、きっと」
凛「…あ!」
凛、ポケットからハンカチを取り出す。
凛「あー…」
血が固まり黒っぽくなっている。
孝太郎「あー落ちるかなそれ」
凛、孝太郎を睨みつける。
孝太郎「べ、別に捨てろとは言ってないから
ね!?」
凛「ま、新しいの買おっかなー」
二人とも微笑む。
美智子の遺影(インサート)
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