僕と猫の世界は東京世田谷六畳一間。


朝起きるとカーテンの隙間から漏れ出した無数の光で目が覚める。

一方猫は、そんな僕を上から見つめてにゃ〜と鳴く。

一方僕は、そんな猫に今日も羨望の目を向けながら、うんちの後始末をしてご飯の準備。

そんな僕に構うことなく、猫は何十回何百回遊んで、よく飽きないなと思うようなボロボロになったねずみのおもちゃを必死に噛んでいる。

そんなねこを横目に気だるそうにカーテンを開ける僕。

誰もが驚くくらいの早さで窓辺に駆けつけて昼寝をする猫。

誰もが驚くくらいの早さで布団に逆戻りする僕。


明るい外の世界に嫌気がさした。


なんでだ、なんでこうなってしまったんだ、もしタイムマシーンが存在するのならあの頃に戻ってもっと上手く生きられたはずだ、なんて妄想が自分を苦しめていることなんて今は気づく事ができない。


もはやこれは夢なんじゃないか。毎日毎日流れてくる星座占いに一喜一憂し、世界のニュースに心を傷めて、あの人と自分を比べては落ち込んで、頑張って這い上がろうとするたびに自分の存在価値に気づいてしまった、あのやるせなさはどこに葬り去ればいいのか。


『悩んでいる時間があるということは暇だから』なんて言葉が吐き気がするほど身体中に突き刺さって、そんな簡単な言葉で言いくるめられたあの夜を思い出したくないから今日も。


深呼吸すれば感じてしまう新鮮な空気も今じゃ途方もない先の未来に僕が輝く場所なんてないんだと言われてるような気がして。

死にたくはない、けど死んでいるような生き方もしたくないんだって分かっているから身動きがとれない。

自分より才能がある人があの世に行ったと知った時の、あのやるせなさと言ったらどうしようもない。


よく耳にするBGMがなぜか気に入って、毎晩毎晩意味もなくリピートした。


宇宙を目指すぐらいの度胸がなければこの世では僕はただの意味のない存在になってしまうのだろうか。

目に見えない微生物や虫でさえもこの世に貢献しているというのに。


何の取り柄もない僕も誰かの、何かの、この世界の、特別になれるのだろうか。


そんなことを夢に見て冷や汗をかいて起きる僕の横にいつのまにか来た猫はどこかほほえんでいるような表情ですやすや眠っている。


食べて、寝て、遊んで、食べて、寝る。

そんな健康的な猫の生活。そして一生その繰り返し。


小さな僕の部屋。


そんなちっぽけな僕の部屋が猫の世界。


こんなに幸せそうに今日も窓辺で昼寝をする猫が、明日宇宙を目指してしまったら?


僕も一緒に連れて行ってくれるだろうか。




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