ウェブサイトリニューアル時の戦略の作り方
再現性高く戦略的なウェブサイトを作るためのノウハウを一般化できないかなぁ。なんてことを考えてみました。
私の個人サイトもそうなんですが、「とりあえず」で作ったサイトって結構多いんですよね。私も、いつかはリニューアルしなくてはと思いながらもなかなか取り組めずにいます。
しかし、本来ウェブサイトはビジネスにインパクトを与えられるものでなくてはいけません。
そこで、(一応)上級ウェブ解析士である私が戦略的にウェブサイトをリニューアルする際の手順を共有いたします。
1.リニューアルの目的(課題)の設定
「ウェブサイトをリニューアルしたい」そう思って、実際にリニューアル依頼をかけるときは何かしら目的意識ないし課題意識を持っているものと思います。その目的(課題)を社内及びサイト制作者と共有するために言語化を行います。
As is/To Be分析
まず、理想的な状態を思い描きます。この際の理想とはウェブサイトのデザインや機能的なことではなく、ウェブサイトがどのような役割を果たすべきかという点で考えます。例えば、ページビュー○件/月やウェブサイトからの資料請求◯件/月といった具合です。
その理想に対して、現状はどうでしょうか。資料請求の件数の理想が30件/月なのに対して、現状は10件/月などのように理想に対する現実を直視します。
そうすることで、取り組むべき課題が見えてきます。
例えば、ページビュー数や訪問者数を増やしたいのであれば、ウェブサイトのリニューアルではなく、広告やSNSといった露出を増やした方が効果的かもしれません。といった具合に、必ずしもリニューアルをお奨めするできるわけではありません。
6W2H分析
次におこなのは6W2H分析です。上記のAs is/To Be分析で抽出された課題をWho, What, Whom, When, Where, Why, How, How muchという8つの質問で深掘りしていきます。
課題を分解することで対応策の目処を立てることができます。
現状サイトのウェブ解析
上記二つの課題設定を行いながら、ウェブ解析も並行して行います。
もちろん、直帰率(非エンゲージメント率)やCVRなどアクセス解析を用いて数値に基づく課題抽出も行うのですが、それ以前にスマホ・PC双方から現状サイトを確認して、目視できる課題の抽出も行います。
例えば、レスポンシブ対応(スマホ最適化表示)していないケースや、いろいろ詰め込みすぎた結果サイト目的がわからなくなっているケースなどが多いです。
2.顧客理解
さぁ、上記のステップでは「何のためにリニューアルを行うのか」「リニューアルして何を成したいのか」といった目的設定を行いました。次のステップは「顧客理解」をすることです。どんな人をターゲットにするのか、そのターゲットはどんなニーズを持ち、どんな要因で躊躇するのかなどを検討していきます。
STP分析
まず行うのは、ウェブサイトのターゲットを決めることです。市場をセグメント分けし、狙い打つセグメントを明確にします。
採用サイトであれば、「新卒」を狙うのか「中途・転職組」を狙うのか、あるいは「第2新卒」を狙うのかといった具合です。ポジショニングについては次のステップで深掘りしていくので、ひとまず置いておきましょう。
ペルソナ設計
ここでは設定したターゲットセグメントに属するユーザーの解像度を高めていきます。
ペルソナ設計ではデモグラフィックデータ(定量データ)と呼ばれる年齢や性別などのデータと、サイコグラフィックデータ(定性データ)と呼ばれるどんなことに興味を持っているか趣味・趣向などのデータを組み合わせながらユーザー解像度を高めていきます。
既存サイトにJuicerという解析ソフトを導入していればAIが自動作成してくれるので、参考にしながらペルソナを作っていきましょう。
ここでウェブサイト特有というか、確認しておかなければならないのは、どんなデバイスを使って閲覧しているのかという点です。ここはアクセス解析から導き出せるので「スマホ:PC」の比率を確認しておきましょう。スマホ比率が9割なのであればスマホファーストでサイトデザインを行うべきですし、BtoBサイトのようにPC比率が高いのであればスマホサイトのデザインにコストをかけるのはもったいないですよね。
ユーザー心理を探る
ここでは、ペルソナで導き出されたユーザーの心理への理解を深めます。
可能であればユーザーインタビューを通して、ユーザーの悩みやニーズ・ウォンツを引き出します。
また、目標とするCVに対してどんな阻害要因があるのかの検討を行います。
ユーザーインタビューができない場合はソーシャルメディアを通したソーシャルリスニングを実施します。
ここで収集できた情報をテキストマイニングにかけるなどして、傾向を見出します。
悩みや、ニーズ・ウォンツの傾向が掴めたら、それらの情報をもとにインサイトの仮説を立てます。
簡略化した例を挙げると、「肌が荒れやすい」という悩みを抱えて「痩せたい」というニーズがあるなら「健康的なダイエット」がインサイトになるかもしれません。あるいは、「意中の彼を落としたい」がインサイトかもしれません。
そのインサイトをついたとして、心理的なハードルになるものはないかも併せて検討しましょう。
先述の例で言うと、「サプリを飲むだけで健康的にダイエット」という商品を出したとして、「怪しい」とか「定期購入させれるんでしょ」といった心理的ハードルが生まれるかもしれません。
3.サイト構成要素の作成
ここで、ようやくサイト構成について検討を進めていきます。
まずは、ユーザーのニーズやインサイトに基づいて訴求する便益(伝える価値)を決めます。
訴求する便益は大きく分けて「機能的価値」と「情緒的価値」に分けられます。
先ほどの「健康的に痩せられるサプリ」の例でいくと、「肌荒れしない」と言うのが機能的価値、「何をしても続かなかった私でも、続けられそう」と言うのが情緒的価値になり得ますね。(情緒的価値とは優劣の客観的基準を持たない価値を指します)
訴求便益を決定するにあたり、「自社の強みを活かせるか」「競合に対する優位性を保ことができるか」と言う点を検討していきます。
強みの検討
自社の強みを主観(絶対評価)と客観(相対評価)で検討します。
まず、SWOT分析で脅威や機会に対応しうる強みは何かを検討します。これが自社主観で導き出す強みになります。
ここで導き出された強みをコア・コンピタンス分析にかけて、競合との相対的な強みを抽出します。
訴求便益の検討
前のステップで導き出した、ユーザーのインサイトやニーズ・ウォンツに対して自社のどの強みをぶつけることができるかを検討します。ここではバリュープロポジションと呼ばれるフレームワークを使用します。
ユーザーのニーズに対して、自社が提供できること、競合が提供できることを書き出します。その中から、(ニーズがある前提で)自社に提供できて、競合に提供できない価値はないかと言う検討を行います。
競合優位性の検討
上記で抽出された自社だから提供できる価値について、VRIO分析にかけることで希少性や模倣困難性を数値的に表し、競合に対して優位に立てるかを検討します。
併せて、POP(Point of Parity:これを備えてないと選んでもらえない)とPOD(Point of Difference;これを備えると選んでもらえる)を整理し、提供する便益の土台を作ります。
コンセプトの決定
ユーザーニーズに対して提供する便益が決まり、競合に対する優位性も確保できたら、いよいよサイトのコンセプトを作成します。
ターゲット – 商品サービス、理想 – 具体策という軸を交差させると、交差点に課題が見えてきます。その課題を解決するための手法がコンセプトであるとする十字フレームと呼ばれるフレームワークなどを活用するといいでしょう。
このコンセプトで「どんなサイトにしたいか」「デザイン方針」などを擦り合わせていきます。
4.整合性と戦略評価
上記のステップで、ウェブサイトサイトで伝える内容(What to Say)を固めるところまできました。次のステップで行うのは、事業としての整合性と、強い戦略であるかという戦略に対する評価です。
企業方針との整合性
ここでは、上記のステップで固めたWhat to Sayが、企業の方針ないし事業部門の方針に則っているかを評価します。
企業には、「企業理念」「社是」「ビジョン・ミッション」など呼び方は様々ですが「戦略上位概念」と呼ばれるものが存在します。
戦略というのは、カスケードダウンをしていくのでウェブサイト制作といった末端業務中に、理念などは思考の奥底に追いやられてしまうことがほとんどです。しかし、企業として向かう方向とずれてしまうと、インパクトが生まれないどころか、企業ブランドの毀損につながる可能性が高いので、コンセプトの段階で整合性をとっておくことが重要です。
How to Sayの検討
What to Sayが決まれば、次はそれをどう伝えるか、です。
ここでもう一度ターゲットを振り返ってみましょう。第2ステップで定めたターゲットにはどんな表現が刺さるでしょうか?
伝えたい価値を届けるにはどんなメッセージが必要でしょうか?
こういった自問自答を繰り返しながら「戦略的メッセージ(How to Say)」を磨き上げていきます。
戦略の評価
ここまでで、ウェブサイトリニューアルの戦略が組み上がりました。
しかし、それだけで満足してはいけません。本当にその戦略が機能するか、という点を十分に吟味しなくてはなりません。
その際は、4つのSに対する評価を行います。4つのSとはSelective(選択的か)/Sufficient(十分か) /Sustainable(継続可能か) /Synchronized(自社の特徴と整合性があるか)を指します。
4つ全てが合格でなくても良いのですが、一つも当てはまらない場合、その戦略は十分に機能してくれないでしょう。
特に、私が重要視するのはSelectiveとSynchronizedです。ターゲットや伝える価値が十分に絞り込まれているか、それは自社の強みを発揮し、会社の方針に則っているか。という2点さえクリアしていれば、残り2つのSは加点方式となります。最低限この2点はクリアしておきたいところです。
全体感
ここまで、いろいろと書き綴ってきましたが、実は一つのフレームワークの中で行なっています。というのも、AB3C分析というフレームワークを細かく検討した内容なのです。
AB3C分析とは、従来の3C分析(Company:自社、 Customer:顧客、 Competitor:競合)にAdvantage(競合優位性)とBenefit(顧客への提供便益)を加えたフレームワークです。
ここまでの記述を図式化すると、こちらになります。
終わりに
さまざまなフレームワークを活用しながら、【何のために、誰に、何を、どう伝えるか】という点を整理し、制作担当者と協働しながらウェブサイトのリニューアルは進めていきます。
ここでは細かい説明を省いてしまいましたが、私が毎週執筆している【ウェブ解析士協会公式note】 では、フレームワークの説明や使い方などマーケティングに関するノウハウを無料で公開しています。ぜひご覧ください。