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さいたま市学力テスト問題流出事件が問いかけるもの

さいたま市議会12月定例会の文教委員会において、11月に発生した中学校学力検査の問題流出事案について報告がありました。 議会での報告と各種報道から、この問題の詳細が明らかになってきています。

1. 事件の概要

2024年11月6日、さいたま市の中学3年生約1万人が受験予定だった学力検査が中止される事態が発生しました。

事件の発端は、前日の11月5日、さいたま市教育委員会に届いた一通の匿名の封書でした。差出人は中学3年生の保護者を名乗る人物。
封書には、実施予定のテストの理科の問題が写った画像が同封されていました。

封書の内容によると、ある生徒が学校内でテスト問題を撮影し、その画像を複数の生徒間で共有していたとのこと。
教育委員会は直ちに中学校長会に確認を行い、流出していた画像が実際のテスト問題と一致することを確認しました。

この事態を重く見た中学校長会は、試験の公正性、公平性への疑義が生じる可能性があるとして、翌日に予定されていた一斉実施の中止を決定しました。
しかし、その後の協議で、各学校が個別に実施日を定めて、流出した問題と同一の問題で実施する方針を示し、試験は全ての学校で行われたことが議会で報告されました。

この問題は全国的な注目を集め、NHKが全国ニュースとして報じたほか、毎日新聞、埼玉新聞など、多くのメディアが報道。

特に地元メディアは、進路指導の重要な参考資料としての位置づけに言及し、受験期を控えた生徒・保護者への影響を懸念する声を伝えました。

また教育現場における試験問題の管理体制の課題として、教育行政のあり方にも注目が集まることとなりました。

2. なぜ流出した問題で実施したのか

私が今回の文教委員会での質疑の中で最も注目した点は、問題流出が判明したにもかかわらず、同じ問題で試験を実施したという事実です。

委員からの質問に対し、教育課程指導課長は次のように説明しています:

このテストは北辰テストのような公式なテストではなく、あくまでも生徒の実力を測るためのもの。
たとえ問題が流出していても、学校ごとに実施日が異なり、生徒自身の実力を確認するためのテストであることから、実施することを決定した。
生徒が自分の現在の実力を知るための参考資料として使用する。

しかし、この説明には大きな矛盾があります。このテストは埼玉県の教育現場において、私立高校の個別相談で偏差値が活用されるなど、進路指導における重要な判断材料となっているのです。

別の委員からも「私立高校も合否の参考にしているという実態がある」との指摘があり、教育課程指導課長も「一部、私立でそれを参考にするということは聞いている」と認めています。

さらに、このテストには教育機会の公平性という重要な側面があります。

北辰テストなどの業者テストは受験料が比較的高額(5教科で4980円)であり、経済的な理由で受験できない生徒に対して、より安価な費用(通常860円、今回は560円に減額)で学力測定の機会を提供するという役割を担っています。

そのような重要な位置づけにあるテストで、問題が流出しているにもかかわらず同一問題での実施を決定したことは、テストの公平性と信頼性に関わる重大な問題を提起しています。「実力測定のため」という説明と、実際の利用実態との間の矛盾は、今回の決定のあり方に疑問を投げかけていると感じます。

3. 今後に向けて

この問題流出事案は、教育行政が抱える様々な課題を私たちに突きつけた気がします。

第一に、テストの位置づけを明確にする必要があるのではないでしょうか。「実力測定のためのテスト」という建前と、私立高校の合否判定に影響を与える実態との間にある矛盾。この点について、教育委員会は明確な説明責任を果たすべきでしょう。

第二に、情報管理体制の抜本的な見直しです。問題作成から保管まで、誰がどのように管理するのか。
情報流出が発生した際の調査体制はどうあるべきか。これらの点について、具体的なガイドラインの策定が必要です。

第三に、危機管理体制の確立です。
今回の対応では、教育委員会と中学校長会の間で混乱が生じ、保護者への説明やマスコミ対応にも課題が残りました。組織の指揮系統を明確にし、迅速かつ適切な対応ができる体制づくりが必要です。

最後に・・・

テスト問題の流出について、犯人は誰なのか。文教委員会での質疑では、「学校内の鍵のかかった場所」で保管されていた場所から問題が流出したことが明らかになっています。

児童生徒が簡単に立ち入れない場所で起きた事案という点で、教員など学校関係者の関与を疑う声も上がっています。現在、警察が捜査に入っており、真相解明が待たれます。

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