ついに決着、市庁舎の位置条例
4月28日、さいたま市議会臨時会が開かれ「さいたま市役所の位置に関する条例の一部改正」が賛成多数で採決されました。この議決を持って、2030年を目途にさいたま市役所の位置が現在の浦和からさいたま新都心(大宮)に移転することになります。
日本共産党さいたま市議団はこの条例案に反対をしましたが、その理由を鳥海敏之議員(本会討論)と神田よしゆき議員(委員会討論)から抜粋してご紹介します。
●党市議団の立場(神田)
日本共産党さいたま市議団としては、移転建て替えに一律に反対するものではありません。庁舎の老朽化が進んだ場合には、庁舎の建て替えが当然検討されることになります。その場合には、豪華なものにせず、市役所機能を十分確保できる簡素なものにして周辺住民もふくめてご理解いただける計画なら賛成します。しかし、今回の移転建て替えは、問題がありすぎます。
●合併協定書では「検討」(神田)
移転の根拠としている合併協定書の内容についても、それは20年前のもので、事務所の移転建て替えを決めたものではありません。
合併協定書に「新市の事務所の位置について、さいたま新都心周辺を検討する」という文章が入ったのは、上尾市、伊奈町を含む4市1町の合併を主張していた大宮市に配慮したものです。合併当時と比べても、さいたま新都心のまちづくりは大きく変化しています。20年も前の合併協定書を持ち出して移転建て替えを早急にすすめる理由にはなりません。
また、さいたま市の(3市)合併時には役割分担として、行政の浦和・経済の大宮・芸術文化の与野として総合的なまちづくりを進めるとなっていて、それは新市建設計画で具体化されています。今回の移転は合併協定書の内容と明らかに矛盾します。ですから新市の事務所の位置についても「検討する」に留まっています。
さいたま市のまちづくりは、それぞれの役割分担を前提に町づくりが考えられてきました。新庁舎の移転建て替えは、その在り方を変えることを意味します。特に浦和地域の市民の皆さんには、明確に説明し理解してもらう必要があります。
●不十分な市民への説明(鳥海)
2021年2月定例会には、浦和区自治会連合会から、移転計画の再検討と説明を求める請願が提出され、これに基づいて、「市庁舎移転計画に関して浦和区自治会連合会の意向を最大限尊重することを求める決議」が採択されました。
内容は、市の様々な計画と庁舎移転の理由と整合性の説明をはじめ、今後のまちづくりビジョンの策定、現在地の利活用、市民参加の工夫など4点に渡るもので、どれも重要な問題であり、到底1か月足らずの説明で市民の理解が得られるような内容ではありません。
説明を行ったとして議会に提出された直近の資料では、昨年12月から今年1月までに全行政区の自治会連合会へ説明したとしていますが、参加者は僅か163名です。また、2月議会の決議以後、浦和区での近隣説明会が、オンラインで1回、対面説明会が2回行われましたが、参加者の合計は293名です。その他の手法として、HP・関係団体への周知・市報への掲載など報告されていますが、結局、最後には、今後も引き続き説明、出前講座を実施予定と添えられています。
移転の是非が大きく問われている現状で、本条例案を議決した後にいったい何を説明しようというのでしょうか。
しかも、現庁舎跡地利用はこれから段階的に検討するというのですから市民は移転に納得できるはずがありません。
説明会に参加した市民からは「まるで移転が決まったかのような説明だ」「市長は自分が言いたいことだけ言ってさっさと帰ってしまった」「残された職員が説明にあたったがまだ質問が出ているのに時間がきたと言って打ち切ってしまった」などの意見が寄せられました。
実際に説明会での質疑を見ても、特に対面での質疑では、「さいたま市民は移転など望んでいない。コロナ禍で行うなどありえない。」「私たちの身近な公民館や学校は長期間使用しているのに、市民の利用が少ない市庁舎に221億円もかけることに理解できない」など、移転に批判的な意見が多く出されています。「なぜ今、移転建て替えなのか?」およそ市長がいうように、「市民の理解が得られた」という状況ではないことを指摘しておきたいと思います。
●移転先のリスク(鳥海)
移転が予定されているバスターミナル用地の隣には、三菱マテリアルが保管している放射性廃棄物が、ドラム缶換算で4万110本に収められて眠っています。現状では、この放射性廃棄物は今後100年以上に渡って管理・保管が必要です。
今後予想されている東海地震・南海トラフ地震など、大規模災害に対する安全性は保障されるのか。確認が不十分です。災害発生時には、対策本部の中核を担う市役所がこのような場所でいいのか。改めて検討が必要です。
●いい加減なコスト比較(鳥海)
党市議団は、かねてから移転建て替えの費用だけでなく、現地建て替えの場合の費用も議会や市民にも示して比較検討ができるように要求してきました。
移転の場合のイニシャルコスト221億円は早々と示されたのに、現地建て替えについては一向に示されないばかりか、理由も示さずに試算はしないとのことです。
先の説明会資料と共に提出された最新の資料では、何と移転建て替えの場合の建設規模と同等の規模で現地で建て替えた場合の課題が示されただけでした。
移転先での庁舎建設計画では、20階建で高さは100メートル近く、延べ床面積は6万平方メートルという大きな規模となっていますが、なぜ移転先計画をそのまま現地建て替えに当てはめるのか理由も根拠も示されていません。
現地建て替えなら移転先と同等の規模でなくてもよい場合も考えられます。結局基本計画は変えないということであります。
これでは何の比較にもなりません。こんないい加減な比較検討など資料とは言えないのは当然です。
そもそも、移転の場合のコスト221億円には、駐車場やバスターミナル、及び周辺の整備などの費用は含まれていません。
さらに移転後の跡地整備にも多額の費用を要しますから221億円で済むはずがありません。 移転建て替え費用、跡地整備費用など合わせたらいったいいくらの税金が投入されるのでしょうか?400億円でしょうか。500億円でしょうか?あるいはそれ以上でしようか?
本来ならこのような多額な税金を投入するのではなく簡素なもとするべきではありませんか。
●現庁舎周辺経済への影響(鳥海)
旧浦和市の時代から市庁舎周辺には、庁舎内で働く職員を当て込んだ飲食店をはじめ多くの商店が営業を展開しています。市庁舎が移転することで当然議会棟も移転することになります。市庁舎の移転は地元経済に多大の影響を及ぼすことは明白です。跡地がどのように活用されるかによっては廃業を余儀なくされる業者も出てきます。
さらに移転先においても、市庁舎周辺に新たに地元商店が店舗経営を展開できるスペースは存在せず、結局大手企業の進出だけが可能となるだけです。
このような業者の暮らしと営業や地域経済への配慮を欠いた移転は認められません。
●市民理解を調査すべき(神田)
やはり市民への説明が不十分なまま移転建て替えを決めるべきではありません。まだ、現庁舎を活用できるわけですから、市民に説明を尽くし納得してもらう必要があります。場合によっては、住民投票やアンケートなどで住民の合意を得て市役所建て替えは進めるべきです。市民の説明、合意の努力も行われていない現段階で市役所移転建て替えをすすめる本条例は反対いたします。
●「たけコラム」激動の1日を振り返って
午前10時から始まった臨時会が終了したのは深夜1時15分でした。この1日でさいたま市の重要な問題に一つの区切りがついたことは間違いありません。
条例可決後の挨拶で市長は「これで、これから予想される人口減少・超高齢化社会に対応していくことができる」と発言しました。私は「なんで庁舎移転しないと対策できないのか」「移転費用をその対策に使えばいいじゃないか」と率直に思います。清水市長が就任してから断続的に福祉関連予算は削られ、その総額は200億円を超えています。市長就任時に「ハコモノ行政からの脱却」を掲げた姿勢はどこへ行ったのでしょうか。
「移転の決まった市庁舎は市民にとってどのような役割を持つのか」この点についても言及したいと思います。市庁舎は本庁勤務の職員が働き、加えて市議会が行われる議会棟がありますが、市民利用の窓口はありません。浦和にある現庁舎は浦和区役所が併設しているため市民窓口がありますが、移転後の新庁舎に窓口の設置予定はなく、市民の利用頻度は極めて低くなります。豪華絢爛な市庁舎を多額の税金を投入して作るより、市民が実際に利用する区役の機能強化や低下し続けている住民サービス向上のためにお金を使う必要性を感じます。
また条例には「将来的に、さいたま市役所の住所については、さいたま新都心にふさわしい住居表示の実施を検討すること」という付帯決議が自民党から提案され、賛否同数により、委員長採決で可決しました。この付帯決議は「浦和vs大宮」の議論から脱却のために提案されたものですが、そもそも合併を強力に推進したのも、地域対立を持ち出し会派が分裂したのも自民党です。自分達の意地とメンツとプライドで議会活動をすることは結構ですが、政策の原資は税金です。
議会が終わった後にふと頭をよぎったのは浦和vs大宮論争を煽り「庁舎移転をどこに建てるか、移転した場合の浦和の跡地に何を建てるか」という議論自体が「ハコモノ」ありきの議論になっていることです。
何より大切なのは「市民から預かった税金を市民のために使っていく」ということです。ハコモノ議論もそこそこに、今必要なのは不足している市民を支える行政サービスへの税金投入です。
どんな時でもどんな条例案でもこの立場を堅持し議論することを改めて決意しました。