【小説】漆黒のリファクタリング 〜深淵なる整理整頓〜序章:暴走の予兆
<あらすじ>
とにかく速く、動くコードを書きたがる新人プログラマー・緋色カナタ。 彼が書いた散らかったコードが、今、大きな問題を引き起こそうとしていた。
そんな中、型破りなコンビが彼の指導に名乗り出る。
「これより、漆黒のリファクタリング術を伝授しよう」
厨二病全開の天才エンジニア・九十九アキト。
「もう!また厨二病発症して......でも、私も付き合ってあげるわ」
完璧主義の女神・天野リコ。
トランザクション管理は深淵の如く。
ドメインモデルは混沌の渦。
そして迫り来るクリスマス商戦。
暴走する炎は、光と闇の導きによって、 真に輝かしきコードへと昇華できるのか。
技術の先に見出す、成長の物語。
エンジニア青春×リファクタリング小説、開幕――。
序章:暴走の予兆
「やったぜ!」
深夜のオフィスに、緋色(ひいろ)カナタの声が響き渡る。先週から取り組んでいた緊急の注文システム改修が、ついに完了した。
「これで在庫切れバグも直ったっす!」
彼のIntelliJ IDEAの画面には、OrderServiceクラスの新実装が映し出されている。動作確認済み、テストも追加済み。彼にとって、あとは triumphant なコミットメッセージを書くだけだった。
// git commit -m "🔥🔥🔥在庫バグ完全撃破っす!🔥🔥🔥
class OrderService(
private val orderRepository: OrderRepository,
private val stockRepository: StockRepository,
private val paymentGateway: PaymentGateway
) {
fun processOrder(userId: String, items: List<CartItem>) {
// エラーになるから、まず在庫チェック!
val stocks = stockRepository.findByProductIds(
items.map { it.productId }
)
// ここでチェックしとけば大丈夫っしょ!
items.forEach { item ->
val stock = stocks[item.productId]
?: throw ProductNotFoundException(item.productId)
if (stock.quantity < item.quantity) {
throw OutOfStockException(item.productId)
}
}
val order = Order(
id = generateOrderId(),
userId = userId,
items = items.map {
OrderItem(it.productId, it.quantity, it.price)
},
status = OrderStatus.PENDING
)
// saveは別々の方が速いっす!
orderRepository.save(order)
stockRepository.updateStocks(stocks)
paymentGateway.processPayment(order)
}
}
翌朝。
「……この実装は、誰のものかしら?」
天野リコの冷たい声が、朝のオフィスに響く。
「このコミットメッセージと……この散らかったコードは」
天野の口調には明らかな不快感が滲んでいた。
天野の目が、自然とある机に向けられる。しかし、その机はまだ空。遅刻常習犯の緋色は、まだ出社していなかった。
「ククク……新たなる混沌が芽生えたか」
後ろから九十九アキトの声。天野は溜め息をつく。
「もう、あなたまで変なテンションに」と言いながらも、天野はコードを凝視している。「でも、これはまずいわ。トランザクション管理が全然できてない」
「然り」九十九が眼鏡を光らせる。「在庫は闇の深淵に消え去り、注文は宙吊りとなる運命」
「日本語で話して!」
その時、エレベーターの到着音が鳴り、緋色カナタが姿を現す。
「お、おはようございまーす!」満面の笑みで現れた緋色だが、天野と九十九の表情を見て、笑顔が凍る。「あ、あの……」
「緋色くん」天野の声は静かだが、威圧感が漂う。「このコード、あなたが書いたの?」
「は、はい……」緋色は小さく頷く。「でも、ちゃんとテスト書いて、動作確認も……」
「テストがすり抜けるのは当然だ」九十九が腕を組む。「なぜなら、同時性の闇を考慮せぬテストなれば……」
「つまり!」天野が遮る。「同時に複数の注文が来たらどうなるか、考えた?」
「え?」緋色は首を傾げる。「在庫チェックしてるから、大丈夫っすよね?」
天野は大きく息を吐く。九十九は意味ありげにニヤリと笑う。
「闇の師範として、汝に告げよう」
「誰が闇の師範よ!」と天野が突っ込みつつも、静かに続ける。「緋色くん、私たちと一緒にこのコードを見直しましょう」
「え?」
「ふふ……我らが授けん。漆黒のリファクタリング術を」
「私が通訳するから大丈夫よ」天野が補足する。「それに、このままじゃクリスマス商戦が危ないもの」
その時、霧島が現れた。
「いやぁ、僕からすれば、トランザクション管理の甘さは新人あるあるだと思うんだけど……」
「誰も聞いてないわよ!」天野が突っ込む。
桜井も加わり、優しく微笑む。「でも、緋色くん、すごく頑張ったのよね。そのエネルギーを活かしつつ、もう少し整理整頓……」
緋色は複雑な表情を浮かべていた。確かに機能は実装できた。
でも、何か大切なものを見落としているような不安。
そして何より、尊敬する「闇神さん」と「天使さん」に指導してもらえるという期待。
「お、お願いします!」緋色が深々と頭を下げる。
「僕に漆黒のリファクタリング術を!」
「もう、感染させないで!」天野が九十九に向かって抗議する。
その時、モニタリングツールのアラートが鳴り響いた。 本番環境で、在庫不整合のエラーが検出される——。
これは、若き炎が光と闇の導きによって、新たな輝きを放つまでの物語の始まり——。
(続く)