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橋の下世界音楽祭2024

たけちゃんと音楽フェスに行く

橋の下世界音楽祭に行ってきた。
といっても参加者としてということではなく、くぼたたけしくん(以後たけちゃん)ヘルパーとしてついていった。ついていった、といっても、橋の下世界音楽祭に行こう!と言ったのは私たちヘルパーだから、彼の意志ではないのだけど、たぶん楽しんでくれるはず!というヘルパーたちの総意だ。

橋の下世界音楽祭はレッツ周りで毎年話題になっているものの、私は一度も行ったことがなかった。そのデビューがヘルパーとして、なんて面白い。
今回ヘルパーをするたけちゃんは、言葉は話さないけど行きたいところにはずんずん行くタイプで、やってはいけないことといいことを区別しない。てんかん発作があるから、倒れないように近くにいる必要があって、体調管理のためにこまめな水分補給や食事介助をする。排泄が自立していないから、時々下の世話が必要だ。けっこう大変な介助レベルなので、お出かけのときは、2人のヘルパーで介助する体制となっている。

というわけで私ともう一人コワモテのパンクス、修平さんの2人でたけちゃんについている。今回はせっかくなので他にも日曜日のおでかけ支援を必要としている別の青年たち2人にも声をかけて、ヘルパーと青年たち総勢7人でやってきた。

修平さんとたけちゃん

人間好きな人たち

音楽祭をやっている橋の下につくと、一目で「ここはいける!」と思った。ふんどしで過ごしている人がいたり、ヘンテコな造形があったり、オシャレじゃなくて、力づよい雰囲気。何より印象的なのは、日本ではあまり人と人が目を合わさないけれど、目があったらニコっとしてくれて、まるで外国にいるみたいだ。うん、これは、人間が好きな人たちの集まりだ。

そう思ったら、たけちゃんと一緒に歩いているのが俄然誇らしくなってきた。たけちゃんはそこらの人間とは違う。音楽が好きなのは同じなのだけど、なぜか石をタッパーにいれてカチャカチャやっていて、よだれを垂らしていて、人の波に関係なく進んでいく、その行動には謎が多い。ひと目で「こういう人ね」と思われない度合が、ずば抜けている。人間が好きな人たちなら、きっと彼に興味を持つだろう。とびきり美しい妹と一緒に歩いているみたいな気分だ。周りのひとが振り返るのが嬉しい。

最前列へ

音楽祭はたくさんの人でにぎわっていて、人に当たらず歩くために注意しなければならない。たけちゃんは、自分の行きたい方向があるようで、ずんずん先に歩いて行くので、修平さんと私で彼を金魚のフンみたいに追っていく。ぬかるみをよけたり、人に当たらないようにひきとめたり。

でも、あるとき、ひきとめないで見ていたら、進行方向にいる人に正面からぶつかっていくことはなくて、ちゃんと隙間を見つけていくんだなとわかってきた。私たちだったら50cmぐらいの場所からよけ始めるところを、彼の場合は至近距離からよける。だから「ぶつかる!」と思うあたりまで行くが、ぶつからないのだ。キャンピングチェアで座っている人の膝先で方向転換したり、見つめ合うカップルの間を抜けて行ったりするから、見ていると面白い。相手がどう思うかは、ええーっと、この場の雰囲気にまかせて考えないことにする。

前日の雨でお湯の中を歩いているような暑さなのだけど、それでもたけちゃんはぐるぐる、ぐるぐる会場を周っていく。そして、ステージで音楽が始まると、人込みの中をスルスル~っと最前列のかぶりつきまで行ってしまう。大柄金髪コワモテの修平さんと私が最大限に体を細く小さくして、金魚のフンみたいに彼を追っていく構図だ。
最前列までいくと、機嫌よく石をカチャカチャしたり、足元の石を拾ったりしてニコニコしている。楽しそうなので、周りの人もニコニコして隣を空けてくれたり、落ちた石を「落ちたよ!」とタッパーに戻してくれたり、肩を抱いたり、酒を勧めたり(!)してきた。やっぱり、ね、関わりたくなるよね、たけちゃんと。私も嬉しい。

最前列で嬉しそう
割って入っているようで迎えられている

謎が歓迎される場

そんなふうに過ごしていたら、あっという間に帰る時間になった。なんと3時間半もの間ノンストップで会場をぐるぐるぐるぐる歩き続けていた。会場は明け方までの雨でぬかるんでいたけれど、そんなの気にしないでずんずん進むから、彼の靴は泥だらけだ。そんなこともかっこいいな、と思いながら、車に帰って靴を履き替える。

散り散りになっていた他の青年たちとヘルパーもみんな集合し、それぞれどうだったか報告し合う。最初悲しげに泣き叫んでいたものの、その後落ち着いて木陰でのんびりしたり、ステージで踊ったりしていたシュウくん、大きな音が苦手だったから、少し離れた場所にいたものの、大好きな麺類を食べられたという優作くん。それぞれの充実した時間があったようだ。

橋の下世界音楽祭、おそるべし。クールでオシャレな世界に対し、パワフルな音楽や店や態度で人間くささをがつん!と投入して、人間くささに飢えている人たちの集まる場になっている。
来年も、その次も、たけちゃんと誰かが来て、やがて「たけし」として名前を呼んで迎えられたら嬉しい。たけちゃんの謎がだんだん解明されて、いつか誰かと旅行に行ったりして!妄想はふくらむ一方だ。


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