フィンランドのNATO加入に関する具体的な効用を考える
日経新聞の5月8日付記事フィンランド首相、安保環境「全て変わった」
NATO加盟申請「月内に決定」にあるように、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟に向けた動きが活発だ。ロシアにとっては、長い国境を接するこの国に対してどのような戦略が考えられるだろうか。フィンランドにとって、NATO加盟は具体的にどのようなリスクヘッジとなるのだろうか。素人ながら、以下4つの可能性を考えてみた。
(1)サンクトペテルブルグ防衛を大義名分とした侵攻
WWIIと重なる時期に起きた冬戦争のきっかけは、ソ連が対ドイツを想定したとき、フィンランドとドイツが良好な関係であったこと、ソ連第二の都市レニングラード(現在のサンクトペテルブルグ)が国境に近すぎるという名目だった。この地理的状況は現在も変わっておらず、都市の防衛すなわち脅威の排除を目的とした強引な侵攻は想定できうるものである。
(2)バルト海を経由した飛び地(カリーニングラード)へのルート保全
サンクトペテルブルグとカリーニングラードを繋ぐバルト海航路はヘルシンキ湾を通ることとなり、その要衝にヘルシンキとエストニアの首都タリンが待ち構える。ロシア船舶の安全な輸送が脅かされているという名分を与えると、侵攻の口実となってしまう。
※商業上の定期航路は無いようだが、軍事目的または有事の補給等での使用は十分に考えられる。
(3)領土問題をめぐる対立を利用
冬戦争およびその後の継続戦争において、フィンランドは領土(カレリア地域)の一部等※をソ連に割譲している。現在ではロシア連邦を構成するカレリア共和国と、フィンランド国内のカレリア地域に分断されている状態だ。また、フィンランド国内のロシア語話者は2015年時点で70,000人存在する2)。シナリオとしては、フィンランドに残った北・南カレリア等に親ロシア勢力を組織し、その支援あるいは域内ロシア人の人権が脅かされているなど難癖をつけたうえで人命保護を大義として侵攻することが考えられる。
※ほかサッラ、ペッチャモなど3)
(4)北極海権益確保のための侵攻
これは少し可能性は低いが、スカンジナビア北端での北極海進出拠点を巡る係争が考えられる。ただこの場所において国境を接しているのはノルウェーであるため、直接的な影響は無い。あるとすれば、ノルウェーはすでにNATOであるため、その後方支援絡みで関係することとなるであろう。
最後に
歴史と地理をふまえた内容を述べてきたが、あくまで想像のケースである。しかし特に(3)においては、同様の手法でジョージア、ウクライナを混乱に陥れている例もあることから、現実からかけ離れてはいないとも思う。
今後、NATO加盟はほぼ確定であると想定しているが、今まで中立であったフィンランドの劇的な体勢転換が、どのような影響を与えるかについては未知数の部分が大きいのではないだろうか。そういった意味でも、現状ウクライナ侵攻をどういった形で収束させていくかが最大の課題となるのは明白である。NATOの拡大がロシアを思いとどまらせる方向に働き、なんとか1日でも平和が訪れることを願うばかりである。
<参考文献>
1) 戦後の欧州情勢の変化とフィンランドの中立政策の変貌(外務省調査月報 2000/No.2)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/pr/pub/geppo/pdfs/00_2_3.pdf
2) フィンランド基本情報
https://toolbox.finland.fi/wp-content/uploads/sites/2/JP_FINFO_facts_LR.pdf
3) フィンランド共和国における言語状況
https://opac.ll.chiba-u.jp/da/curator/900022785/Sh-H0037.pdf
4) Wikipedia:カレリア
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%AC%E3%83%AA%E3%82%A2