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魚のごった煮と現状、理想と憧れは超能力と共にの話。


夢を追っている。

と言うことは即ち憧れを抱き、それに向かって日々精進していると言うことである。

しかし自分の生きる日々を思い返すとそれは果たして精進と言えるのであろうか。
勝てば官軍。全て良い結果が出て初めてそれに意味があったと言える。


憧れに向かって生きるのであれば常に高みを目指していかねばならない、
そうすることによって自身の成長も得られるわけである。

じゃあそれは何かと考えると、自分の理想に合わせた生活や行動を取るということで、
例えば人が倒れていれば助けるのは勿論、
誰も見てなくてもゴミをポイ捨てしないとか、店員に対し悪態をつかないなど、
挙げればきりのないような小さいことを意識しながら生きて行くということだと思っている。
一種のダンディズムみたいなものだ。


じゃあ自分はそう生きれているのかと考えた結果、
答えはNOであった。

しかし今からでも遅くはない、
少しでも前進して理想の自分に近づくためにこれからはもっと背伸びしてでも上の生活を求めていこうと思った所存である。


じゃあまずは人並みの生活、それは大変だとしても自らその労に入っていく気概。憤怒。

まずは小さくともそれは外食やコンビニ弁当ではなく、
しっかりとスーパーで食材を睨み、自身で鍋を振って栄養を付ける。
言えば自炊をするということを決めたわけである。

日々自炊をしている人間が見たら
「こいつは何を言ってるんだ」
と思うかも知れないが、
そういう小さいことを積み重ねることによって、
自尊心を少しずつ高めていこうじゃあないかと近所のスーパーに歩いて行き、
じゃあ自炊の祖はやはり魚だよねってことで鮮魚コーナーを見て刺身じゃ米食えねぇな、
と思いすぐにもう調理してあるコーナーに向かった。

この時点で早速元の動機は霧散してしまったのである。

うーむと見るとそこには色んな魚がごった煮されている惣菜があった。
しかもそれは100円とあるじゃあないか。

人並みの生活のために米は炊いた。
それは37歳が親に泣きついて送ってもらった米である。
このオーバーサーティで親に貰った米というのも、これまた人並みの生活とは無縁である。

その米に合わせて食うこの何の魚か分からんごった煮は合うのではないかと小躍りしながらレジへ向かい購入。
今は5円も惜しい僕は、毅然とした態度でレジ袋は要りませんと言い放ち、踊りながら退店した。

しかし店を出た瞬間に思う。
俺はなぜスーパーに来たのだ。
高みを目指しながら生きていく為ではないのか。

それなのに今こうして手には100円で買った惣菜。
そしてそれにうつつを抜かし小躍りをする俺。

これは何だ、結局今の現状から抜け出せない、
出たくないという気持ちの表れではないかと思った瞬間、
手に持っているごった煮を僕は捨てたくなったわけである。

しかしそんな勿体無いことを出来るはずもなく、
家に帰りテーブルの上に惣菜を置いてしばし正座してそれを睨んだ。

入れ物の中にある魚は、やはり何か分からなかった。
もしかしたら「魚のごった煮」と書いてあったから魚だと思っただけで、
それは魚じゃない何かなのかも知れない。

僕はこれから胃に入れるこれが何かわからないまま買ったということもまた、
自身の意識より金銭の問題を優先した自分の浅はかさと相まって辟易してきたわけである。

しかし憧れと理想のために生きると決めたが、
今こうして改めて対峙するその100円の惣菜は、
考えてみると自分の身の丈には合っているわけである。

理想に向かって生きていくのは大切なことだ。
しかししっかりと地に足をつけ、背伸びをせず、自身の目線で世界を見つめて身の丈にあった生活をするというのも人というものではないだろうか。

ならばそれを無視し、憧れだなんだと言って無駄に高騰している食材を買い込み、
大して料理も出来ない僕の味付けで食材の本来の味を台無しにすることは、
それはもう食材への冒涜であると同時に人の道を踏み外していることになるのではなかろうか。

そう思い直して僕は電子レンジにそれを入れて温め、
米を茶碗によそい惣菜を一口食うと、
それはとても美味くって6畳一間、僕は3×3×3を鳴らしひょっとこの面を被って踊ったのである。

動機などこの美味さの前では無力。
何が理想、何が憧れ。
金なんか無いんだからとにかく質素に暮らせ。
手に入れられるのはもっと先のことだ。
お前がそれを見つけたのは前を向いて生きていこうとした結果だ。
ということは今回手に入れた惣菜はもうお前自身なのだ。


そう思って完食すると腹も膨らみ、
頭もクリアになって普段通りにパソコンを開きネトフリで現実逃避。

ストレンジャーシングスを見るとヒステリーで他人を巻き込む女にイライラし、
氷結を飲みながらああだこうだと悪態をついて、
自分の憧れや理想などという考えはすっかり忘れ
「僕も超能力欲しいなぁ」
と思ってまたいつもと変わらぬ生活に魚のごった煮で戻るのであった。


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タケイ ユウスケ
夢の一つに自分の書く文章でお金を稼げたら、 自分の書く文章がお金になったらというのがあります。

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