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ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ / メトロポリタン美術館
あなたは何を祈りますか
東野圭吾
『クスノキの番人』(再読)
『クスノキの女神』
を読んでいます
あなたは何を祈りますか
私だったら何を祈るだろうか
ひとつだけ、祈念を
ふと死産した子を想った
あの子が無事に産まれた未来を
ただあの子が産まれた未来にはきっと今のお子ちゃんたちはいない
そしておそらく夫婦関係も今とは若干異なっていたと思う
あの子が無事に産まれた未来を望むことは
現在の生活を、夫婦関係を、お子ちゃんたちの存在を
なかったものにしてしまうような気がして
私にとってはあの子の輝かしい生存と成長を祈念することは
誰にも言ってはいけないような、してはいけないことのように思うのです
「アラジンの魔法のランプじゃあるまいし」
と作中でも登場人物が何を祈念するか考えたとき
ジーニーが出した3つの条件を思い出す
「願いを増やすことはできない」
「誰かを好きにさせることはできない」
「死者を蘇らせることはできない」
そう
私の頭に最初に浮かんだ祈念は
きっとクスノキにだって叶えられない
こんなにも幸せな現在を否定することになってしまうのだから
では
何を祈ろう
もう私にはひとつしかない
あの子が蘇ることではない
それはなにも珍しいことではない
今となりで安らかに寝ているお子ちゃんたちが
不幸な事故に遭遇せず
健やかに成長していくことだった
そしてそれはきっと
万が一この子らどちらかを失ったとき
失った子を蘇らせることではなく
失わずにすんだ子を見守っていくことに
全力を尽くすのだろう