中国での食事と酒の闘い 〜情熱中国大陸〜
中国での食事と酒の席は、ビジネスでは切っても切れない非常に重要な場所である。名刺の交換をして、酒の飲ませ合いをして、いろんな社長、政府の人達と仲良くなり人脈を広げる場、でしょ?と言う認識の人がほとんどではないだろうか。間違いではないが、それだけではない。
楽しい和やかな会とはいえ、真剣勝負の場所である。関係性をよく観察し、どういう人間かを観察し合っている。人を上手に立てながら、気の利いた冗談の一つも飛ばして皆を笑わせる程度の技量は必要だ。突然話を振られても、とっさにユーモアをたっぷり含ませ、話を振った当人にスパッと返し一緒に乾杯、更に返す刀でメンバーの共通項を突いたジョークなどで笑わせて、自分もまたもう一回飲む、くらいの余裕が必要だ。
今の話題の主役は誰なのか、急展開する場の雰囲気を読み、必要に応じて話の流れを大きく切り変える技も必要だ。こういう場で、「商談」を取り付けようとするような輩は、「ちっこい奴」と笑われるのである。
勘定の争奪戦も真剣勝負の一つである。メンツの取り合い、だけではない。食事会の大義名分、参加メンバーのバランス、人の序列順番の事、年齢の事、よくよく考えなければならない。
トイレに行く振りをして抜け駆けで会計済ませてしまう作戦は、誰もがよく使う手である。気付かぬ振りをして相手に華を持たせる時もあれば、そっと席を立った瞬間、数人がババっと立ち上がり、近寄って来て腕を掴まれる、という事はよくやられる事だ。その場合、
①皆の前で戦い、むしり取って会計に行く
②座って飲み直しその相手を潰す
③店の責任者を呼び、もしこいつから金を受け取ったら金輪際ここには来ないぞ!と大声で脅す(もちろん演技)
④仲良くしている振りで肩を組んで部屋の外に連れ出し、グッと睨み、ありがとう、次は頼むよ(ここはお願いだから下がってくれ)と言って譲ってもらう
などなど、様々な対応の仕方がある。笑って酒を飲みながら、皆それぞれ、誰が好きな奴で誰が嫌いな奴か、男気がある奴なのか、ない奴なのか、などを判断し合っている。もちろん仲間への愛情が当然ベースではあるが、自分をしっかりアピールしあい、お互いの品定めをする真剣勝負の場なのである。
昔、私のボスが台湾人社長とやり合う姿を見て、カッコいい!この勝負は大事だ!と痛感したものだ。潰れたボスを抱き抱えて自宅に連れて帰るのは大変だったが、大いに刺激を受けたものだ。
自分で会社を立ち上げたばかりの頃、ほぼ毎日、仲間の台湾人や香港人たちに飲みに連れて行かれ、「俺の日本人の友達だ」と、皆に紹介されご馳走になる日々が数ヶ月続いた。
ある日カラオケで、ブランデーがドーンと出て来た時、突然「はっ!」と思い出した。以前ボスと一緒に台湾人社長とブランデーをガブ飲みしあい、酔い潰れた時の事をだ。この「勝負」は大事だ!と初めて思った日だ。「自分には今できないが、いつか自分でビジネスをするようになったら、これは負けてはいけない勝負なんだ」と当時のボスと台湾人社長を見て思った事を思い出したのだ。
早速その日から実行しようと試みたが、日本語の達者な台湾人の呉さんにたしなめられた。「竹居、気持ちは嬉しいが、ここはお前のショバでも仕切りでもないのに払う理由がない、そして失礼で滑稽だ」とたしなめられてしまったのだ。その日は悔しくしょんぼりしたが、それ以来、私は自主的に自分から声をかけ、飲み会に工場や協力者、友人達を呼び集めるようになった。少なくとも自分の会社に協力してくれている工場の仲間には、どんな大社長でも負けなかった。
「注文出してるんだからご馳走されるのは当たり前」と言う考えが多いが、現地で戦っている私にとっては、工場がいてくれ無ければ「物が作れない」のだから、「実際に物を作ってくれる工場の人は何より大切である」。普段苦労させているのだから、たまにご馳走するのは至極当たり前の事、なのである。
お金はいつも苦しかったが、この勝負は絶対負けないよう踏ん張った。いつも払おうとする現地工場の社長や仲間達に、「ここはあなたのショバでも仕切りでもない」と突っ張るのである。昔の歌のように、"ツッパる事が男の~たった一つの勲章"なのだ(笑)。当然100戦100勝とはいかないが、そうしているうちに「私のショバで私の仕切り」が自然と増えるようになって行き、当然出費もどんどん増えたが、その代わりに、工場の仲間たちの親しみと信頼を得、ホテルや街の皆からも顔を覚えられ、仲間も自然と増えていったのである。
日本人だけの飲み会も、現地では盛んである。何何県人会、異業種交流会、など、情報の交換、経験の共有、助け合いのネットワーク、としてそれぞれ機能している。週末のゴルフ、テニスサークル、サッカー、野球チーム、なども楽しみプラスアルファの良さがすごくあるだろう。
これは皆日本人同士、職種立場年齢を問わず、色んな方の話が日本語で聞けるので、闘いに疲れたら参加するのもとてもいい。大体が、全て綺麗に割り勘なので、私の知る限り、お勘定の奪い合いはあまりない(笑)
つづく