金で買えないもの、死んだ後に残るもの〜情熱中国大陸〜
2年半前、知人のN氏の紹介で元気な若者二人「マサ&ヒゲ」に出会った。
身なりや話し方の印象で「なめた奴らだ」と一瞬思ったが、目の輝きが強く、やる気に満ちていた。私は直感で「ツベコベ言わずとにかく一度中国に来い!」と半ば強制的に彼らを中国に引っ張り込んだ。実は自分も昔、「ツベコベ言わず、とにかく一度中国に来なさい!」と言われて中国に足を踏み入れた口だからだ。
彼らは東京駅の喫茶店でのお見合いの後すぐ、1週間で中国出張を決め、本当に飛んできてくれたのである。バカな彼らは「竹居さん!俺らの有り金全部持って来ました!」と言って50万円を私の事務所で「ほらっ」と見せるのだ。勿論彼らは覚悟を決め本気だ。自分と同じく、若しくはもっとアホだった自分の昔と重なり、放っておけるわけがないではないか。
初めての海外、しかも「大嫌い」だったはずの中国に、本当に飛び込んで来た彼らは、正に「砂漠に水が染み込むが如く」ジャックと豆の木のように、グングン成長した。素直なので、現実が、今まで思い込んでいた事とは全然違う、という事にいちいち気づいてくれる。こっちも楽しくなり、街で、レストランで、工場で、「現実」と「本質」を、そしてなぜこうなのかを、中国の人の考え方を軸にして、その場その場でよく説明して見せた。
「うわー中国って思ってたイメージと全く違う!」
「日本のメディア、ホントおっかしいよ!」
「これヤッベ、まじヤバいっす竹居さん!」
と、いつでもどこでも連呼するのだ。そして彼らの甘い考えや、間違いは、容赦なく突っ込み、文字通り本気で教えた。
当時うちの社員からは「老板(ラオバン=BOSS)は、あの変な髭の人達と、金にもならないのに、いつも貴重な時間を潰して、一体何をしているのか?」と言う目で見られていた。またいつもの病気だわと。。。
しかし壁にぶつかりながらも勉強し、学んだ事を全て自分の考えとして消化し、そして実行し、まんまと伸びて行く彼らの姿を見るのは、私にとって快感以上の「感動」であった。会社の売り上げなどどうでもいい、ただ嬉しかった。そうして2年半の歳月が流れ、可愛い弟分は、今では立派な我が社の「ビジネスパートナー」である。
彼らが、社の16周年記念パーティーに参加してくれた時のこと。普段酒は勧められても頑固に飲まない、わが社のスタッフ達が、全員、自ら進んで「浴びるほど」ワインを飲んでいた。そして顔に似合わず、めっぽう酒に弱い「ヒゲ&マサ」に、ここぞとばかり集中的に絡み(笑)、一緒に肩を組んで酔い潰れていた。この日ばかりは、私も文字通り「浴びるほど」飲んだ。また当日たまたま近くにいて駆けつけてくれた、10年来の好朋友、黄さん(元中国人今日本人)に、「好久不見〜!」(久しぶり〜!)と抱きつき写真を撮りまくるスタッフ達。。。
これらの風景を見て、「金にもならないのに」と言う者は、もはや誰もいないのである。「絶対お金で買えるものではない」からだ。
ちなみに、この皆が浴びるほど飲んだ「美味しいワイン」は、地元の若社長マーティンが差し入れしてくれたものだった。彼は数年前うちとの初取引で、ある大仕事を、最後まで諦めず一緒に成し遂げてくれた大事な仲間だ。
彼はサイドビジネスでワインの販売もしている。私も仲良しのイタリア人社長アルマンド、そしてその家族までもサプライズで引連れて来てくれ、美味しいワインを沢山引っさげて来てくれたのだ。独身の見かけはチビであまりモテそうにない奴だが、やる事は悔しいくらい男気があり、カッコいい奴なのである。
このように、彼らのお陰で、私も自分を見直す機会を与えられ、お客さん、今までの先輩や親分、社員、工場、パートナー、異業種の仲間達に、いかに恵まれているか、自分は本当にラッキーである事を再確認できた。全く「人生ぼろ儲け」、感謝以外にはない。
カウボーイハットと笑顔がトレードマークの、知る人ぞ知る「吉田ソース」の吉田潤喜会長は、アメリカでソース屋を興こし大成功されている、有名人である。吉田会長はこう表現されている。
「一儲けばかりを考え、目先の利益ばかりを追いかけるのではなく、人生でもっと重要で楽しい事は、人儲けだ」と。「一儲け」より「人儲け」。本当にその通りだと思う。
自分がこのように、人と一緒に成長する時間、お互いの人生を、仲間とハートで繋がり共有出来ている、その時間こそが「人生の財産」であると思う。そしてそれは絶対に、
金で買えるものではない。
そして自分が死ぬ時は、何も向こうへ持って行くことは出来ない。
自分が死んだ後に残るものは、自分が得たものではなく、人に与えたものである。
だからこの「金で買えないもの」を人に与え、人と共有できるという事は、とても幸せな事ではないかと思う。
つづく