#リライト金曜トワイライト【また会える】
生きていれば、誰にでも30年前はある。
ただ、記憶は何処にあったのか分らないほど散らかっているだけ。
奇跡のような再会を、邂逅と呼ぶにはカッコよすぎる。
ただ大事にしたい。
大事にしている事が生きていることなんだと思う。
連休の金曜日は、平日と休日の境い目ではないし、
いつもの金曜日とは違う気がします。
シゴトと恋だけが、オトナを変える。
あなたの恋はどこにありますか。
【また会える】原文はこちら
リライト版【#金曜トワイライト/また会える】
少年から青年に変わる頃の初恋と呼べるひとは、口かずが少なくて、ちいさくて、キレイな瞳だった。
それは惑星が楕円軌道を描くように。
僕と彼女の間には、偶然が定期的に訪れてくれる。おかげで再会を繰り返した。その度に僕は嬉しくて、少しドキドキした。彼女はどう思ってたんだろうか。そろそろ偶然を待たずに聞いてもいい、いや、ようやく聞けるように僕がなれた。
彼女の写真のおかげで。
◇ ◇ ◇
彼女と初めてのデートは中学生の最後の頃。赤穂浪士の討ち入りの日で12月14日だった。それくらいしかトピックがない。何も起こらなくても、中学生だから当たり前かもしれないし、思い出としては、より淡くなって良かったかもしれない。
高校の時には、クリスマスイブにデートをした。思い切って誘ったらひとつ返事で来てくれたんだから、まんざら悪い感じでもなかったと思う。
だから、そのあとも何度かデートしたけど流れてしまった。「合わなかったんだ」と、少し力を込めて肯定していたけど、そこには「自分に原因はない」と思いたいがゆえの責任転嫁が混ざった。
大学の時は、広尾の図書館で試験勉強して、そのあと何回かご飯に行ったりした。僕もすこし学習効果があって、それなりに、ちょっとだけ踏み込んだ時間も過ごした。ドキドキしたけど、別になにも起らなかった。
この頃には責任転嫁ではなく、少し自己嫌悪するようになっていた。
それから4年後。彼女は美大の写真科を出て、僕の入った会社の関連会社に、広告撮影のカメラマンとして入社していた。そして、ここでも楕円軌道が重なった。
旧いビルの長い廊下の端っこだった。資料らしき本を沢山かかえている。
「え?なんでココにいるの....」
彗星のように、彼女は現れた。
「お茶くみみたいな感じ。ぜんぜん写真の仕事じゃないの」
彗星は愚痴を一方的に話しつづけたが、お互いが業務に戻るため時間切れとなった。これはシゴトだからしょうがないと肯定し、自己嫌悪もしていない。
ただ、口かずが少なかったのは、昔のことのようだった。たまたまストレスが溜まっていたからなのか、それとも彼女が変わったのか。
この頃の僕は、会社に行きたいと思える日が一日もなくて、ストレスばかりが積み重なっていた。
手に蕁麻疹が出来て紙袋を持つと血が滲んだ。うつ病から復帰した直属の上司は突然怒ってワケわからなかったし、10歳以上離れた先輩たちは、ガラが悪くて昔かたぎの広告マンばかりだった。
歳の近い先輩は日々の仕事に追われ、入社したばかりの一年坊にかまうヒマなどなかった。毎月120時間以上残業していた。同期はバタバタと倒れていった。
そんな頃に僕は新しい宇宙船で、一方的だけど必然に彼女と触れ合う方法を手に入れていた。Facebookだった。
彼女は僕と違って、定期的に写真を載せていた。シゴトで出向いた場所で隙を見つけては、自分なりの「作品」を撮り続けていたのだ。
写真に添えられる文章は、長い時もあれば、短い時もあった。それを見る僕は「いいね」を押すときもあれば、押さないときもあった。
それからしばらくして、僕は会社を辞めた。だからというのも変だけど、時間もできたし、久しぶりに彼女と連絡を取ろうとした。
だけど、何度か打ちかけたメッセージを送ることはなかった。
それは彼女が突然会社を辞め、フランスに旅立つことをFacebookで知ったからだ。
彼女はパリの写真の学校に通うというのだ。彼女がフランスと繋がる理由を、僕は知らなかった。だから「突然」と感じたのは僕の勝手だったかもしれない。
それから、パリで希望に満ちた投稿を繰り返す彼女は眩しすぎた。Facebook越しではあるが、彼女はもう「口かずが少ない」子ではなくなっていると感じられた。
それから僕はFacebookを見なくなった。
こうして手に入れた必然を手放してから暫くしたころ、意外な場所でまた偶然が訪れた。運転免許試験場で再会したのだ。
彼女は免許の書き換えもあって帰国していた。これを機に彼女は、僕がFacebookを見ていないことを知り、僕は誕生日が近かったのを思い出していた。
翌週、ご飯を一緒にたべた。ドキドキしたけど別になにも起らなかった。彼女はフランスで写真の学校を卒業し、パリでフリーのカメラマンをしていた。僕はパリへ戻る彼女とはなにも起こせないと諦めて、彼女はすっかり口かずが多くなっていた。
◇ ◇ ◇
渋谷のBunkamuraの本屋で写真集のコーナーを眺めていたら、彼女の写真集をみつけた。盲目の人をテーマにしていて、点字がすべてのページに書かれていた。とても素晴らしい写真が連なっていた。
一緒に乾杯をしたくなった。久しぶりにFacebookを開いてメッセージを送ろうかとも思ったが、なんか味気ない気がしてやめた。出版日から数年も経っていたのもある。
写真集をカフェのテーブルで広げる。彼女がスキだと言っていた紅茶でお祝いをした。少しドキドキした。写真から何か聴こえてくるように感じたからかもしれない。
こんな感じで、いつも再会はひょいとやってくる。そしていつも心がグラグラする。それを何と呼べばいいのかずーっと解らなかった。運命でも縁でもない。これも恋の一種なのかもしれない。
紅茶を飲み終え、席を立とうとした時だった。彼女の写真集を不意に落としてしまった。僕は丁寧に拾い上げると、なぜか口かずが増え始めた頃の彼女を思い出した。
「お茶くみみたいな感じ。ぜんぜん写真の仕事じゃないの」
写真から何か聴こえてくるように感じたのは、こういうことなのだろうか。そして、Facebookを開き、僕はようやく彼女にメッセージを送った。
「紅茶なら喜んで注いでくれるかな?
また会おう」
シゴトと恋だけがオトナを変える。
リライト後記
なぜこの作品?
最初にこれを読みました。たまたまです。それですぐに決められたのは、いま、私がnoteに連載している小説が渋谷を舞台にしており、偶然にも、この話も渋谷が登場したので、親しみを感じたからです。(他は読まずです…💦)
リライトのポイント
<時系列>
最初に読んだときに、時系列が上手く掴めなかったんです。だから、彼女の台詞(タイトル?)や表情とか、少しぼやけた印象で…。だから彼女の女性としての魅力が右肩上がりで増してる感を出すために「時系列」を順繰りに整理したいと思いました。
もう一つの理由は彼女の魅力が増さないと、いつまでも「初恋にドキドキを感じ続ける男」に説得力が出ないと思ったためです。
<大人を変える>
シゴトと恋だけが、オトナを変える
素敵なコピーだと思いました。ウイスキーのCMみたい?
せっかくなら、もう少しこのコピーを立たせたいと思いました。ただ、その結果として「わかりやすく」なることが、オリジナルの文章全体を包む「芳醇さ」「香り」「お洒落感」などを薄メルと感じる方もいらっしゃると思います。
ただ、このコピーを立たせるために、物語の中で「変える」を明確に表現したいと考えたので、そのリスクも承知でトライしました。
サークル参加費に充てさせていただきます!もし少し余ったら執筆時のコーヒー代にします🤗