予算(競争的資金)から考えるeeicの研究室(A1 / A2)
はじめに
こんにちは,この記事は,eeic Advent Calendar 2015 の7日目です.
今日は「予算(競争的資金)から考えるeeicの研究室(A1 / A2)」ということで,B2, B3 (もしかしたらB4も?)が研究室配属前にはあまり考えていないであろう予算(競争的資金)という視点からeeicの研究室を分析してみたいと思っています.
なぜ研究室の予算を考えなければならないか
記事を読んでいる人の中には,「予算なんて先生が考えること,やりたい研究に取り組んでいる研究室に行くんだ!」と思っている人もいるかと思います.
でもちょっと待ってください,もしかするとあなたはその研究室で自分がやりたい研究をあきらめないといけないかもしれません.金銭的理由で.
研究にはお金がかかります.人と違うことをして差別化しないと研究にならないのでアイディアで差別化できないと必然的に性能や環境で差別化することになり,これはすなわちお金を使うことを意味します.
研究で使うような物品は一般的な需要が少ないことがほとんどなので,市場原理から高額になりがちです.研究分野を勉強するための専門書1冊買うだけで数万円,機械や装置になると,3ケタ万円なんて当たり前で,4ケタ万円のものもゴロゴロしています.
また,研究の成果がでると論文を書いて会議や論文誌に投稿します.ここで受理,発表/掲載されてはじめて公式に研究実績として認められるという仕組みなのです.
しかし,国際会議の参加費は学生であっても数万円かかり,東京近郊でない場合は航空券代やホテル代などの旅費がこれまた数〜数十万円かかります.
論文誌であっても,掲載にあたっては少なくとも数万円の掲載費が必要です.
そんな状況で1年の研究室予算が100万円だったとするとどうでしょうか.研究室の学生が10人として単純計算でひとりあたり10万円です.
もちろんコピー用紙やトナーなどの消耗品費用がかかるので,実際はもっと少なくなります.
こうなるとほしいものを何も買えず,仮にアイディアをひねり出してお金を使わずに研究成果を上げても,会議や論文誌に論文を投稿して発表するための旅費や参加費,掲載費が払えないので投稿できない(もしくは自腹を切る)という恐ろしい未来が待っています.
一方で,となりの研究室に行った同級生は潤沢な予算を活用して試行錯誤の末に成果を上げて国際会議に論文を投稿,海外に渡航して発表している…なんてことが起こるわけです.
研究室が獲得している予算額がどれくらい重要かわかってもらえたでしょうか.
情報の集め方
僕の個人的な感想を書いても公平性に欠ける上に汎用的な情報足り得ないと感じたので,今回は誰でもアクセスできる上に定量的に評価可能な尺度である予算(競争的資金)という切り口で研究室を見てみることにします.
企業との共同研究や委託研究,寄付金などの競争的資金ではない予算については対象にしていないので注意してください.
僕がネットで集められた情報のうち.
今現在予算が執行されているもの
研究室の教授,准教授,講師の方々が研究代表者を務めているもの
の2点を満たすものをリストアップしました.また,情報は2015年12月現在のものです.
(2015/12/8追記) @UltraEngineer 氏から情報で,電気系の会報に共同研究や寄付の予算情報が載っているそうです,詳細は追記を参照してください.
(2016/12/15追記) 正直現時点で使い物にならないレベルで情報が古いので,これは当てにせずにきちんと自分の手で(候補に考えている研究室だけでも)調べてみてください.
調べた競争的資金とその検索方法
日本学術振興会(JSPS)
科研費
基盤研究(S,A,B,C)や若手研究(S,A,B),挑戦的萌芽研究,新学術領域など様々な種類がある.
それぞれの1年あたり金額は目安.個別の割当については交付中ならわかる.
公式の検索フォームである,科学研究費助成事業検索フォームがあるので,名前を入力して検索.
詳細検索から研究者名を入力しないときちんと検索できない
交付マークがついているのが現在交付中の予算.
科学技術振興機構(JST)
総務省
SCOPE
いちおうリストはある
NEDO
気合で調べる
その他
各種民間研究助成
一番手間がかかる上,4つの競争的資金より少額(100万円/年)などが多いのでスルーでいいかもしれない
注意点
ネットで公開されている競争的資金の情報しかあたっていないので,企業との共同研究などによる予算はごっそり抜けてしまっています.
よって,ここで載っていないからといってその研究室に予算がない,と考えるのは早計ですので気をつけてください.
また,研究予算には原則として研究代表者のみが使用するものと,共同研究者と共に研究を進めるものがあります.
前者は科研費(若手)やさきがけなど,後者はCRESTやERATOなどです.
もちろんどちらのタイプでもどういう使い方をするかの方針は研究代表者の方がなされるのでしょうが,研究室単位で見た時,その予算全額を使っているわけではないということになります.
苗村研究室
JST CREST
局所性・指向性制御に基づく多人数調和型情報提示技術の構築と実践
研究代表者: 苗村 健
平成23年度採択(〜平成28年度)
相澤・山﨑研究室
科研費
スマートフォンと画像を利用した食生活モニタリングシステムの開発・実践・検証
相澤 清晴
研究期間 2013年4月1日~2016年3月31日(予定)
研究分野 応用健康科学
研究種目 基盤研究(B)
研究機関 東京大学
直積量子化の大幅な高速化と安定化による超高性能最近傍探索
相澤 清晴
研究期間 2015年4月1日~2017年3月31日(予定)
研究分野 マルチメディア・データベース
研究種目 挑戦的萌芽研究
研究機関 東京大学
ビッグ・マルチメディア・データ処理による個人のメディア生成行動のナビゲーション
山崎 俊彦
研究期間 2014年4月1日~2018年3月31日(予定)
研究分野 マルチメディア・データベース
研究種目 若手研究(A)
研究機関 東京大学
材質認識と物体認識を融合した画像認識の新展開
山崎 俊彦
研究期間 2014年4月1日~2017年3月31日(予定)
研究分野 知覚情報処理
研究種目 挑戦的萌芽研究
研究機関 東京大学
SCOPE
漫画・イラストのマルチメディア処理に向けた基盤技術研究
研究代表者 相澤 清晴
研究分担者 山崎 俊彦
その他
誤りを自己検出・改善する多クラス機械学習の研究と画像認識応用
テレコム先端技術研究支援センター 研究助成
山崎 俊彦
インターネット上の大量の事例に基づくプレゼンテーションの解析・分類と自己学習応用
平成26年度 人工知能研究振興財団 研究費助成
山﨑 俊彦
A Navigation System for Media Generation by Consumers
第10回 マイクロソフトリサーチ CORE 連携研究プログラム
Toshihiko YAMASAKI
テキストと映像の融合処理によるSNS投稿動画の評価・作成支援
平成26年度 放送文化基金 研究助成
山崎 俊彦
浅見・川原研究室
科研費
デジタルファブリケーションと情報科学的アプローチの融合による無線WSN設計
浅見 徹
研究期間 2013年4月1日~2016年3月31日(予定)
研究分野 情報ネットワーク
研究種目 基盤研究(B)
研究機関 東京大学
JST さきがけ
オーダーメイド型センサネットの低コスト開発を促進する基盤技術の創成
研究代表者: 川原 圭博
平成26年度採択
JST ERATO
川原万有情報網プロジェクト
研究代表者: 川原 圭博
平成27年度採択
その他
Using Inkjet printers for the fabrication of electrical circuit boards for rapid prototyping
第10回 マイクロソフトリサーチ CORE 連携研究プログラム
Yoshihiro KAWAHARA
森川研究室
情報なし
相田研究室
情報なし
矢谷研究室
その他
LiveDraw: Touch-based Illustration and Animation Authoring
第 11 回 マイクロソフト リサーチ CORE 連携研究プログラム
Koji YATANI
鶴岡研究室
情報なし
伊庭研究室
科研費
多要素人工遺伝子回路のデザインオートメーション
伊庭 斉志
研究期間 2011年7月25日~2016年3月31日(予定)
研究分野 動的・多要素な生体分子ネットワークを理解するための合成生物学の基盤構築
研究種目 新学術領域研究(研究領域提案型)
研究機関 東京大学
進化発生アプローチに基づく遺伝的プログラミングを用いた動的適応システムの研究
伊庭 斉志
研究期間 2014年4月1日~2017年3月31日(予定)
研究分野 ソフトコンピューティング
研究種目 基盤研究(B)
研究機関 東京大学
長谷川研究室
科研費
非平衡定理に基づく非定常な遺伝子発現系の統計解析
長谷川 禎彦
研究期間 2013年4月1日~2016年3月31日(予定)
研究分野 ソフトコンピューティング, 生命・健康・医療情報学
研究種目 若手研究(B)
研究機関 東京大学
峯松研究室
科研費
話者を単位とした世界諸英語の自動分類とそれに基づく国際コミュニケーション支援
峯松 信明
研究期間:2014年4月1日~2018年3月31日(予定)
研究分野:知覚情報処理
研究種目:基盤研究(A)
研究機関:東京大学
EMA計測と統計的メディア変換技術の統合による音声・調音変換技術の確立
峯松 信明
研究期間:2015年4月1日~2017年3月31日(予定)
研究分野:知覚情報処理
研究種目:挑戦的萌芽研究
研究機関:東京大学
江崎・落合研究室
科研費
IEEE1888/IPv6/RS485方式の設備センサネットワーク性能評価研究
落合 秀也
研究期間:2014年4月1日~2016年3月31日(予定)
研究分野:情報ネットワーク
研究種目:若手研究(B)
研究機関:東京大学
その他
FIAP を用いたエネルギー管理システムのアーキテクチャー
SiebelEnergyInstitute 研究助成
江崎 浩 教授
落合 秀也 講師
坂井・入江研究室
科研費
レジリエンス指向コンピュータシステムに関する研究
坂井 修一
研究期間 2014年4月1日~2017年3月31日(予定)
研究分野 計算機システム
研究種目 基盤研究(B)
研究機関 東京大学
新アーキテクチャによる高効率プロセッサコアおよびそのマルチコア構成の研究
入江 英嗣
研究期間 2013年4月1日~2017年3月31日(予定)
研究分野 計算機システム
研究種目 若手研究(B)
研究機関 電気通信大学
その他
ドライバーの姿勢検出技術の研究(距離センサー方式)
民間等共同研究(詳細不明)
入江 英嗣
田浦研究室
情報なし
おわりに
いかがだったでしょうか,比較的少額の資金をたくさん資金を獲得している研究室や,大型の資金だけでまかなっている研究室,そもそも競争的資金をあまり取っていない研究室など,いろいろな特色が見れたのではないでしょうか.
また,おおむね研究は予算内容に沿って行われるので,今まさに研究室配属を迎える人たちは,この予算に関わる内容の研究をする可能性が高い,ということを考えながら研究室選びを進めると幸せになれる気がします.
一方で,競争的資金は大事な指標ではあるのですが,その多寡のみで研究室の価値が決まるものではないと僕は考えています.
研究室の雰囲気や方針,自分の気持ちや将来へのビジョンなども総合的に考慮して,後悔のない進路選択をしてください!
その他感想
信頼性
けっこう調べたつもりだけど,漏れてそうで怖い
特にNEDOとか
検索の手間
科研費とJSTはすごく調べやすい
逆に総務省とNEDOは参照性悪い
民間助成金は数がめちゃ多い割に系統的に検索できるようなページが無くてこれもまた大変だった
なんか全部検索できるページがあった気がするけどブックマークしてなくて見失った
研究室のカラー
競争的資金をメインの予算としているのか,企業との共同研究など,外側に出てこない資金を予算にしているのかが,研究室ごとにくっきりと別れたのが印象的
そうなるだろうなとは思っていたが,題目にその研究室がいまメインで取り組もうとしていることが表れていて,サムネイル的要素もあるなぁと感じた
追記
(2015/12/8追記)
eeic,というか電気系では年に一度会報を発行していて,ここに調べても全然情報が出てこない共同研究や寄付の情報が全て記載されてました.
バックナンバーも含めて全てpdfで閲覧可能です.
http://www.ee.t.u-tokyo.ac.jp/j/document.html
2015年12月現在の最新版(2015年9月発行)が2013年度のものと,少し情報が古いですが,ここの情報と合わせて見てみることで,より研究室がどのような予算で運営されているかがわかるかと思います,参考にしてみてください.
(情報をくれた @UltraEngineer 氏に感謝)
(2016/12/15追記)
今年度分の会報バックナンバー(2014年度のもの)から共同研究や寄付の情報がオンラインでは閲覧不可になりました.
(例によって例のごとく@NouminEngineer 氏情報)
どこかの誰かがいらんことしたからですかね(すっとぼけ)
たぶん事務室凸すればもらえると思うので気になる人はオフラインで入手してみてください.
あと,eeicの場合は(たぶんeeicじゃなくても)学科からの分担金が各研究室に配分されるので,公募予算の情報が出てこなかったからといって0円で運営されているわけではないのでそこは気をつけてください.十分な額なのかと言われるとそれはまた別の話ですが.
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