Visiting Researcherとして北京のMSRAにいった話
はじめに
僕は2019年の11~12月の日程で、中国・北京のMicrosoft Research Asia (MSRA) で訪問研究をしています (現在進行形) 。MSRAには2016年の6~11月と1~4月にもインターンで滞在していたのですが (記事)、この記事はその時との比較も交えつつ、研究事情や現地事情を書いてみたいと思います。
また、この記事は 研究留学Advent Calender 2019 の8日目の記事です。eeic Advent Calenderは卒業しちゃったので書けなくなりました…。
なぜ行ったのか
一言でいうと、先述のインターンの成果を成仏させるためです。
インターン時は、某国際会議に投稿して帰ってきたのですが、残念ながらrejectされてしまいました。一方で、捨てるには惜しいスコアと査読コメントだったので、アップデートして再投稿、というのは僕とメンターとの間で合意が取れていました。
ただ、僕の博論にMSRAインターンでの成果は入れないことは早々に決まっていたため (そもそも指導教員が著者に入っていませんでした)、なかなか再着手できずにいました。(近い研究が出てきて手遅れになってしまわないように、D3のときに国際会議のデモにだけは出しました。)
その後、無事に博士の学位も取得してポスドクになったところで、現在の所属研究室のご厚意で在外訪問研究をさせてもらえることになりました。行き先を考えましたが、何はともあれ未成仏なのをなんとかせねばとメンターと連絡を取り、このタイミングで滞在している、という流れです。
研究について
アクティブ音響センシングを使って、大きいオブジェクト (壁など) におけるユーザの素手による「真の」タッチを取得できるインタフェースの研究をしています。上述したように、研究自体はすでにACM ISS 2018のDemoで発表済みです。今回の訪問で具体的に何をしているかはNDAの関係もあるので、すみませんが書けません。
最近のMSRA事情とインターン時との違い
ここでは、最近のMSRA事情ということで、僕がインターンしていた時との違いをいくつか書いてみようと思います。(そもそもMSRAインターンを経験してないとピンと来ない可能性が高い内容もあるので、その内容は飛ばしていただけると。)
外国人 (非中国人) がいない
僕が出会っていないだけかもしれませんが、今回のMSRA滞在ではメンター (日本人) 以外に外国人に出会っていないです。インターン滞在時では、東大の同専攻、同学年からだけでインターンが5人いた時期があったほどだったので、当時と比べるとだいぶ閉鎖的な研究機関になったのかな、という印象を受けました。
AI研究一色
これは前回滞在時にも感じていましたが、AI分野への選択と集中がさらに加速している印象です。インターン滞在時はそれでもHCIやRoboticsなどのハードウェアがからむ研究をしている人たちがグループを形成していましたが、もうそれも消滅してしまっています。上述の事情もあいまって、HCIやVRを専門にしている僕がこれ以後MSRAに来ることは無いのだろうなと予感しています。少しさびしいですが。
個室がもらえた
インターン時代はオープンスペースの机しかもらえませんでしたが、今回は個室をもらえました。(ハードウェアの研究でそこそこ場所が必要なので非常に助かっています。) インターン時代は机に置いておいた飲み物を盗られたりすることもありましたが、個室だとは鍵がかかるので安心です。
パントリーの飲み物が拡充された
インターン当時はサントリーの烏龍茶と水、コーラとスプライトあたりしかなかったのが、オレンジジュースと紅茶 (伊藤園、無糖) がラインナップに増えていました。加えて、100%フレッシュジュース (味は日替わりでオレンジやピーチ、グレープなど) も登場していました。フレッシュジュースは僕がインターン当時にコンビニでそこそこ高いお金を払って買っていたものと同じやつで、めちゃくちゃ助かっています。(が、人気のため朝9時半くらいには消えてます。)
3Fのカフェテリアのご飯がおいしくなった
僕と同時期にインターンしていた人には周知の事実なのですが、インターン時の僕はMSRA 3Fのカフェテリアを毛嫌いしていました。(身内ネタですみません) が、今回行ってみると普通においしく食べられました。自分でも驚くべきことに、滞在中のお昼はほぼ3Fに行ってます。食事の質が向上したのか、それとも僕の味覚が変わったのかは定かではないですが、おそらく前者だと思います。
2Fのカレー屋がつぶれていた
これも身内ネタで申し訳ないんですが、2Fのカレー屋 (兼 謎洋食を出す店) がつぶれていました。ちなみに2Fにある2軒の中華レストランのうち、よく通った方はそのままで、いまいちだった方は広東料理に衣替えしていました。
2Fの中華レストランからメニューが消えた
紙のメニューが消滅して、注文はWeChatから行うシステムに変わっていました。(といっても菜単をくれと言ったら出てきたので紙のメニューも存在はしています。)
最近の中国・北京事情
ここではMSRAとは直接関係ない、最近の中国、北京の事情について書いてみようと思います。
中国ビザ発給
僕が2016年のインターン時に申請した時と比べて、目に見えて悪化していると思います。(代理業者の方いわく、大使館への直接申請が2016年で終了し、査証申請センターへ移行してから年々悪化しているそうです。)
僕も今回の申請では代理業者の方に「これでは通らないと思いますが…」と言われていたのを押し切って申請したら、結果的に発給されました。インターン時のビザ取得歴や中国渡航歴が効いたのかどうかはわかりませんが、発給されなかったら滞在期間短縮を余儀なくされていたのでよかったです。(詳細について知りたい方はメールやDMをくださったらお教えします。)
通信環境
前回の経験から思うところがあり、今回は香港SIM (China Unicom) をメインで運用しつつ、同時に本土SIM (China Mobile) をデュアルSIMで運用することで電話番号を確保しました。データ通信は香港SIMで金盾超え通信が可能になるのでGoogleなどへのアクセス可能で、電話は本土SIMで待ち受けているので通話もSMSもできています。デュアルSIMの同時運用が可能なスマホを持っていることが前提にはなりますが、ほぼストレスゼロで暮らせているので非常におすすめです。(本土SIMの契約には中国語会話が必須なので、MSRAの担当の人に手伝ってもらいました。通話だけでよかったのでその旨を伝えて、1ヶ月18元+通話料チャージ的なプランを契約した気がします。)
大気汚染
実は2017年の冬に、政府が石炭禁止令を出したことで、一気に大気汚染が解消した時期があったそうです。が、天然ガスへの移行が進まず、とんでもない人数が寒さに凍えるという大惨事があり、撤回されました。
(参考: 1000万人が凍える中国「暖房変換政策」の失態)
現在はよい日で50くらい、悪い日で300あたりの汚染数値になっており、まぁマスクつけたほうがいいな、という感じです。(僕は3Mの防じんマスクをつけていますが、街を歩いていてマスクを付けているのは10人に1人くらいで、それも簡易的なものなので、かなり目立っていると思います。)
店舗の入れ替わり
日本だと3年弱では店舗のラインナップはそう変わらない気がしますが、北京では目まぐるしく入れ替わっていました。僕と同時期にMSRAインターンをしていた人にしか伝わらないかと思いますが、ECモールB1Fのサイゼリヤと謎の中華屋、その先の新中関にある味千ラーメン、小籠包屋、ビビンパ屋、ワンタン麺屋、電子城の上のシンガポールチキンライス屋がすべてつぶれていたのには驚愕しました。(ECモールの学振焼肉をした焼肉屋と雲南料理屋、ほっともっとは残っていました。)
加えて、当時は工事中だった建物がすべてオープンしていて、結構記憶と違った光景になっているのには驚きました。やはり発展している国なのだなと感じました。
ローソンが急増
これは中関村エリアだけの話なのかもしれませんが、コンビニのローソンが急増していました。インターン当時、コンビニといえばセブンイレブンで、ついで便利蜂というチェーンだったのですが、各所でローソンを見かけるようになりました。それも相まってかコンビニの数自体も増えており、個人的には東京以上の密度になっている印象を受けました。発展してます。
雑感
日本にいるといろんな予定 (雑用含む) が入ってきますが、海外で訪問研究するとそのあたりから開放されて、まとまった研究のための時間が確保できます。
ただし査読依頼などは普通に来るので、ダイレクト系の案件限定。
これらの予定が不必要という訳では必ずしもないので、所属研究室の先生方や学生さんに負担をかけているということは自覚しておきたいと思っています。(戒め)
がっつりプログラムを書いたりしている時間に対して、久々だなこの感覚…と思ってしまっている自分に愕然としました。
最近は各種ミーティングや論文執筆、予算申請に忙殺されていたので、プレイヤーとしての感覚が鈍っているのを実感しました。
北京にいても基本的にホテルとMSRAの往復で、息抜きにやっているのもAmazon Primeで動画視聴など日本と変わらず、メンター以外との会話も特にないので、国際経験的な意味ではほぼ無意味だなと思っています。
まぁ研究できているので別によいとも思ってます。
天壇公園は個人的お気に入りスポットなので、時間が取れるようなら行ってみたい。
まとめ
インターンとVisiting Researcherで立場は変わっていますが、やっていることは特に変わらず研究にいそしんでいます。
数百人規模のインターンがストイックに (それこそ話題の996を超える勢いで) 働いている環境なのは変わらず、またそれを可能にするための環境も整っているなと思いました。
一方で、MSRA自体がだいぶ外国人に対して閉鎖的になっており、国際的な研究機関から、中国の研究機関へと変質している最中なのかな、とも感じました。
(これは中国という国家の方針とシンクロしているような気がしないでもないです。)
これから日本人がMSRAで研究する機会は減少していく気はしますが、もし機会を得られるのであれば滞在の価値はある研究機関だとは思います。
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