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電車の事
7月24日
朝、電車に乗っていて、どうも空いているなと思ったら、今日が土曜日だったのを思い出した。
間違えて出勤しているわけではないが、自分の行動が普段通りだと、分かっているはずなのに曜日の感覚が失われがちになる。
休日の会社が多いのだろう、学生らしき姿も見かけない。お陰で、七人がけの席の真ん中に座ることができた。
それでも二駅ほど過ぎた頃には席も埋まり、立っている乗客もいる。向かいの七人がけの席の、ちょうど僕の正面に一人分のスペースがあるのだが、何故か誰も座ろうとしないのに気がついた。
何か荷物が置いてあるわけでも席が汚れているというわけでもない。僕の乗っている車両の座席はそこ以外すべて埋まっている。
不思議に思ってなんとなく眺めていたのだが、電車の揺れ具合が心地良くていつの間にかうたた寝をしていたらしい。
突然頭の上から、ねえ! と大きな声がして驚いて目が覚めた。
顔を上げると、降りる駅に到着する所だった。女の子の声のようだったのだが、周囲にそれらしい人物の姿はない。それに、大きな声を出す人物がいたらそれなりに周囲の注目を集めるものだが、そんな様子もなかった。
何か夢を見ていたのかも知れないなと思う。
ホームに降りてから今まで座っていた席の方を見ると、入れ違いに乗り込んだのか白いワンピース姿の小さな女の子が座っていた。
休日出勤しているのは僕の部署では僕だけで、社内の食堂も今日は休みだから外食しようと部屋を出る。エレベーターでカネダさんに遭遇した。
これから一人でイタリアンを食べに行こうとしているんだけど一緒にどう? と誘ってくれたので、カネダさんおすすめの店に連れて行ってもらうことにした。
ディナーは結構なお値段だけど、ランチはその辺のお店と同じくらいの値段で、大きいサラダと何故か食後のドリンクまでついてくるんだよという話を聞きながら路地を幾度か曲がっているうちに店に着いた。社内で言いふらすと混んじゃうから、まあまあの秘密にしてるんだよと真面目な表情で嘯いている。
ボロネーゼパスタを注文してみたが、確かにかなりおいしかった。秘密は守りますと言ったら、カネダさんは楽しそうにケラケラ笑っていた。