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本の話
8月3日
今朝も電車でうたた寝をしていると、降りる駅に着く少し前に、ねえ! という声に起こされた。
乗り過ごす心配がないのは有り難いが、落ち着かないといえば落ち着かない。ニュースキャスターの彼女の顔がちらりと思い浮かんだ。
彼女は別れを惜しんでいたようなので、声の主も僕に飽きたら彼女の方へ戻るかも知れない。うたた寝をしなければいいのだろうか。
昼休みに会社の食堂で食事をする時は、大抵ヨネヤと二人のことが多い。
そこに、昼休み前に会話をした誰かが加わることもしばしばある。
雷雨のあった朝、会社の玄関で知り合ったカネダさんは、課が違うものの読書の趣味に重なる部分が多いので、知り合ってからはわりと頻繁に本の貸し借りをしている。
仕事中に接触する機会はほとんど皆無なので、昼休みと仕事が終わった後のささやかな酒宴の時間での付き合いだ。
今日の昼休みもヨネヤと二人で食堂のテーブルに着いていたら、にやりと謎の笑顔でやって来た。
カレーライスの乗った盆を持ってヨネヤの隣りの席に着くと、僕の貸した本がとても面白かったと言う。
カネダさんはミステリとSFが大好きらしく、貸してくれる本はそのあたりのものばかりだ。僕も少なからず読んではいるが、カネダさんほどではない。
昼休みは本の話で終わってしまった。
ヨネヤはあまり本を読まないが、最近は奥さんのチカコさんの持っている本を少し読むようになったそうだ。
僕とカネダさんが楽しそうに盛り上がっているので刺激されたらしい。
それはいい、とカネダさんが嬉しそうな顔をしていたので、ヨネヤはそのうちミステリとSF漬けにされてしまうかも知れない。