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夏休み最後の日の事
8月17日
夏休みらしいといえば夏休みらしい連休だったけれど、蔵の虫干しには手をつけないまま気が付くと最後の日だった。
リンと朝の散歩に行き、戻って来ると座敷では妹がごろごろしている。布団は畳んであるが、起きているとは言い難い。
そう思って眺めていると、リンが妹に飛びついて、遊んでほしいと要求しているので笑ってしまった。
いつの間にか、寝室から桃色のボールを持って来ている。妹も観念して起き上がり、縁側でリンの相手をしていた。
犬は色の判断ができないという話だが、家の中では桃色、外では水色のボールと自分で決めた様子だった。
水色のボールは、やはりいつの間にか玄関の僕の靴の隣に置いてある。匂いで判断しているのだろうか。
午後は、食材の買い出しに行き、他には何もせず居間でカネダさんに借りた本を読んでいた。
サカエダさんは一度、僕の手元をのぞきに来ただけで、あとは一日妹にくっついているリンを眺めていた。
リンは妹が熱心にボール遊びにつき合ってくれるので嬉しいのだろう。
夕方、空が見事な夕焼けになり、蜩の音が雨のように降り注ぐ中、公園まで妹と一緒にリンを連れて散歩に出掛けた。
夕飯は、妹のリクエストにより、カレーライスと枝豆にした。
妹にいつまで居るのかと訊ねると、決めていないという答え。大学生の夏休みは長いので、まだしばらく居座るつもりだろう。
カレーライスを食べ終わる頃、妹が僕の顔をじっと見つめているのに気がついた。どうかしたかと聞いたら、何か言いたげな顔でしばらく思案していたが、お兄ちゃんのカレーがおいしくてびっくりしてたと答える。それから黙々と枝豆を口に運んでいた。